001 神様少女 ~俺とそいつの出逢い~
というわけで1話です。
ぐちゃぐちゃです(汗)
『5月10日
午後5時ごろ 天気 快晴 温度15℃ 湿度50%
今日、俺は、不思議な出逢いをした。
まるで、今朝がたの夢が現実になったような…………
いや、ありえない。
絶対、ありえない。
あれは夢だ。
しかし出逢った少女は、夢の中の少女にそっくりだった。
ああ、もうっ!
よくわからない事が多すぎて、頭が絶賛混乱中ってカンジだ。
とにかく今日は、その出逢いと成り行きで同棲することになってしまったのが一大ニュースである。
とりあえず、こうして日課である日記をつける作業をしているという事はだ。
普通の生活が一応は、送れているということだろう。
だけど、今日の日記はここまでにして、詳しくは後日書くこととする。
******
そこまで書いて日記を閉じると、俺は体を椅子にもたれかけた。
重力の任せるままに、背もたれに体を預け、ぼーっとする。
ふいに横のベッドを見やれば。
今日の夕方までは見ず知らずだった、見慣れぬ美少女が眠っている。
その顔を見つめていたら、俺の意識は自然と夕方の出来事へトリップする。
先程の日記でも、少しだけ触れたあの出逢いへ。
******
夕方、俺はいつもの通りに、リビングでテレビを見ていた。
両親もまだ帰ってきていないこの夕方という時間帯は、俺にとって唯一の心休まる時間だった。
好きなことだけをしていてもなにも言われない。
悠々自適に過ごせる時間。
ところが、そんな至福の一時は突然終わりを告げた。
────玄関の呼び鈴が鳴ったことによって。
宅急便もその日は頼んでいなかったし、銀行の訪問やガス・灯油の訪問も月末のはず。
今はまだ月の上旬であり、まだ来るはずが無い事ぐらい俺にもわかる。
まったく身に覚えのない来客に首をひねる俺だったが、居留守を使うわけにもいかない。
居留守を使ったと両親にバレたら朝ご飯抜きの罰とか言われかねない。
とりあえず、出るしかない。
俺は渋々玄関へ出て行く。
それが間違いだったと後でものすごく後悔することになるとは……。
「皐月ですが、何かご用で……しょ……」
俺は口をつぐんだ。
なぜなら、玄関先にいたのは。
俺より一、二歳ほど年下に見える少女だったからだ。
目を引く水色の髪、大きな藍色の瞳。
白雪のごとく真っ白でいて健康的に見える肌。
どこかで見たことがある既視感を覚えるが、俺にこんな知り合いがいるはずはない。
というか、水色の髪ってなんだよ。
こいつ、日本人……なわけないよな。
現実にこんな色の髪存在すんのかよ。
失礼になるとは承知の上で、俺はつい少女のことをじろじろと見てしまう。
頭の天辺から足先まで、隈無く観察する。
俺が無言でその動作を何回もしていると、
「今日から、この家に住ませて下さいっ!!」
少女は元気よくお願いしてきた。
って、ちょっと待て、ちょっと待てっ!!
いきなりなんなんだこいつは!
俺はつい自分の耳を疑う。
だって、突然訪ねてきた少女が、いきなり「住ませてくれ」って言うか?
そんなの、誰も予想できるはずが無いだろう?
「……はい?
あの、どちら様でしょうか?」
辛うじて、言葉を絞り出す俺。
そんな俺をよそに、少女はさらに俺を困惑させることを口走る。
「あたし?
あたしは神。 そして、神の言う事は絶対!!
だから聞いておいた方がいいと思うよ?
というか、聞いとかないと損するよ?」
はい? 神?
伝承とか伝説とかの神ってことか?
いやいや、この現実世界に神なんているわけなかろう。
科学が否定してるではないか。
「…………あの、まったくもって話が見えてこないのですが」
「だぁかぁらぁ……。
あたしをこの家に住ませてって言ってるの!!」
謎の少女は、なおも住ませろと言う。
てか、神ってなんだよ。
こいつ、厨二なのか? これが噂の痛い奴なのか?
もちろん、少女のお願いに対する答えはノーだ。
そう簡単に「はい、構いませんよ」なんて言えるわけないだろ。
「あの、家出中なの?
とりあえず、家に帰った方が……」
「あたしに家は無いの。
だから、この家に住ませてほしいの」
「家が無いから」と、強引に住ませて貰おうというのか、こいつは。
いや、もしかしたら新手の詐欺か何かかもしれない。
情に訴えかけて、家に入った途端に金目の物をかっさらっていくかもしれん。
「うちにはそんな余裕無いから、違う家にして下さい。
俺一人じゃ、判断できるような件ではありません故」
「えー…………。
この家からしかあたしを受け入れてくれる匂い……しなかったのになぁー…………」
困ったなぁ、チラチラ。
ここしかないのになぁ、チラチラ。
わざとらしく呟いては、こちらを潤んだ瞳でチラチラと見てくる少女。
まだ、粘る気なのか!?
ほんっとに鬱陶しい!!
「…………っだぁぁぁああもうっ!
いい加減に帰ってくれッ!
うちはとにかく、そういうのは御免なんだよッ!」
その少女のわざとらしい行動に俺の忍耐力は保たなかった。
女の子相手なのに、つい声を荒げてしまった。
こういう面倒な相手ほど、冷静さを欠いてはいけないのだが。
「…………こんな可哀想な女の子を見捨てるんだ?
一人で野宿したら事件に巻き込まれそうな少女を見捨てるんだ…………」
おまっ、可哀想とか自分で言うか?!
とにもかくにも、こいつが普通じゃないことだけはよぉくわかった。
「……とりあえず、帰ってくれッ!!」
俺は、強引に玄関の戸を閉める。
おそらく、まだ少女は外にいるのかもしれない。
まだ同じように意味不明なことを言い続けてるかもしれない。
もしかしたら。
もしかしたら、本当に困っていたのかもしれない。
両親に刃向かってでも助けてあげるべきだったのだろうか。
閉めた後の俺には、ほんの少しだけ後悔に似た気持ちが渦巻く。
心の葛藤で、気分が沈む。
だが、ああいうのは認めるわけにはいかない。
勝手に認めてしまったら両親に怒られる。
その上おそらくは。
認めたら最後、とても面倒な事になるのだ。
(だから、これでいい)
自分に言い聞かせながらリビングに戻ると、再びテレビを見始める。
そういえば、何か俺の心に引っかかるモノがあの少女にはあった。
いや、それについての答えはもう持っている。
というか、つい今し方思い出した。
あの少女の容姿。
それは、今朝の夢に出てきた少女と瓜二つだったのだ。
だが、俺は面倒事は嫌いだ。
あの少女といい今朝の夢といい、面倒事のニオイがプンプンする。
だから俺は、自分の心へ、
(でも、俺には関係ない。
それに、もっと良い家にイソウロウさせてもらった方がいいだろ)
なんて言い訳をしていた。
でも。
いくらそう言い聞かせても、どこか良心が痛む気がしてならない。
その後、仕事先から帰宅した両親と共に夕食を済ませると、俺は自分の部屋のベッドに横になった。
ぼーっとしながら、気づけばいつの間にか今日出逢ったあの少女について考えていた。
────なぜ、あの少女は「この家に住ませてくれ」と頼んできたのか?
そして、一番の謎は、
────なぜ、「神」と名乗ったのか?
『神成る者』の伝承や伝説は各地に数えきれないほど多く残っている。
だが、その姿を見た者は、未だかつていない。
いや。
神などという者はこの世に存在していない事くらい、今の科学で証明されている。
科学で証明できないモノがこの世に存在して居るなど、ほとほと考えにくい。
いや、有り得ない。
そんな事は大体、今の小学生のガキにだって分かる。
俺は、何をこんなに悩んでいるんだ。
……馬鹿らしい。
そう考えがまとまりかけた時。
「おっ邪魔っしま~っす!」
そんな声が、突然窓から聞こえたのは。
「…………はぁ?」
「だから、住ませてもらうから最低限、挨拶くらいはしなくちゃいけないじゃん?
だから挨拶したの」
えらいでしょ? 誉めて誉めて!
そんな心の声が聞こえてきそうなドヤ顔をした夕方のあの少女が窓から部屋へ入ってきていた。
どうやって二階の窓から入ってきたのか知らないが。
堂々と入ってきていた。
ってか、鍵どうやって開けたんだよ?!
「おっおい! お前!
勝手に他人の家に上がるんじゃないっ!
不法侵入だぞ?!
大体、お前の本名は?
家は? 家族は?
それにうちの両親、舐めてると容赦なく裁判沙汰にするぞ?
お前、勝手に住んでるのが見つかったらどうするんだ?」
「えっ、そんな事の心配してたの?」
「そんな事、ですむはず無いだろう?!」
感情的に一気にまくし立てる俺へ、少女は「ふふふっ」と短く笑うと驚きの言葉を口にした。
「あなたのご両親になら、ちゃんと許可を頂いたよ?」
「えっ?」
いやいやいや!
うちの両親に限って、居候を許すなど有り得ない。
そんな事が起こった日には、大きな天変地異が起こるのではないかと疑うぞ?!
だが、目の前にいる少女は、そんなの当たり前だとでも言いたげな表情をしている。
「嘘をつくな。
うちの両親が……うちの両親に限って、許可するなんて…………有り得ない」
「じゃあ、確認してみればいいんじゃないっ?」
その言葉に乗せられた俺は、すぐさま両親へ確認しに行った。
結果。
俺は、両親の答えに驚き、口が塞がらなくなってしまいそうなほどの衝撃を受けた。
そしてこれが、クソ面倒くさい日々の幕開けになってしまったのだった。
その後、自分の部屋に戻った俺は、少女に名前と年齢を聞いた。
不本意だが、両親が許可してる以上追い出すわけにも行かないし、仮にも同じ家で暮らすことになるのだ。
少女の出自とかについて聞いておいてもおかしくない。
その時少女は、一瞬……ほんの一瞬だけ。
本当に本当に、少し悲しげに表情を歪めたが、すぐにもどした。
そして、
「名前かぁ……。
名前なんて特に無いの。 あたしには。
だから、好きなように付けてね!
ここに住ませて貰うんだし、宿主のあなたが付ければいいんじゃないかな!」
なんて無茶ぶりをしてくる。
ってか名前ないとかどこの時代の奴だよ!?
本当に普通の人間なのか?!
いや待てよ。
もしかして家出とかで、自分の名前使いたくないからこんなこというのか?
「おっまえ……本気でそれ言ってるのか?
ってか「神」だなんていうふざけた設定、まだ続けんのか?」
ふざけた設定と切り捨てた俺に、少女は聞き捨てならないとプリプリ怒り出す。
「ふざけた設定とは何よぉ?!
本当の事なんだもん!!
だから、仕方ないんでーす。
で、あたしの名前は?」
こいつ、本気で自分のこと神だと思ってるのか?
見た目は確かに女神と言われても遜色ない美少女だが。
中身は末期の厨二病患者……いや、ただの痛い子か。
おっと、そうだ。 名前決めるんだったな。
そこで俺は改めて少女を見る。
とても存在感の強い水色の髪。
そして藍色の大きい瞳。
極めつけは、真っ白な雪のように白さでありつつ健康的に見える肌。
体格は華奢で、背丈もどちらかと言えば女子の中でも低い方だな。
服装は、自称「神」に相応しい(?)アニメとかに出てきそうなコスプレのような服を着ている。
この少女の持つ色はどれも寒色系だな。
寒色系……冷たい……水色……水、とか?
水といったら海か川だが、この少女は川の方が似合いそうだ。
「はぁ……。
名前か……。
う~ん、エリダなんてどうだ?
外見、外国人っぽいし……」
俺が小さい頃、読みあさってた星座神話に出てくる川の神の名前を思い出し、少し拝借しただけの安易な名前。
「ふ~ん。 良い名前ね。
気に入った!
それでいいよ」
だが反応を見る限り、少女には喜んでもらえたようだ。
「そういえば、苗字はどうするんだ?」
頭に浮かんだ疑問。
いくらなんでも苗字はさすがに名付けろなんて言ってこないよな……?
たった今、俺がエリダと名付けた少女は明るい顔で、
「それはね、この家の苗字を使っていいとご両親の許可を頂いているよ!
遠縁の子という事にしてくれるんだって」
元気よく答えた。
本当にこいつは何なんだ?
俺は改めて疑問に思う。
普通の人間ならば、到底できぬような真似をさらりとやってのけている。
だれも気付かぬうちに。
ていうか、うちの両親は一体何を考えて、こいつを居候させることにしたんだ?
まあそのうちわかるか……。
とりあえず、考えても仕方ないから、エリダの名前を口に出してみる。
「皐月エリダ……皐月エリダか。
なかなかしっくりくる」
我ながら、なかなか良い名前を付けたかもしれない。
俺は、密かに自画自賛する。
そんな俺をよそに、少女は俺の部屋から出ていこうとする。
部屋から出ようとして、ふと俺の方を振り返り、
「じゃあ、この家の間取りは大体覚えたから隣の部屋を使わせて貰うね。
……いいよね?」
少し不安そうな顔で俺の返事を待つ。
そんな様子の少女に対し、俺はというと。
今更確認とるのかよ!
なんてツッコミたくなる気持ちを抑え、
「……許可、取ってるんならいいぞ」
と返す。
こうして、少女とのハチャメチャな日々が始まったのだった。
******
これが面倒なこいつとの出会い。
今日の夕方に起こったことだ。
その迷惑娘は今、俺のベッドでぐっすり眠っている。
「はぁ…………」
俺の苦労はまだまだ始まったばかりだった。
感想下さい!!
これからもよろしくお願いします。