000 ~始まりの夢~
不定期更新です。
また、未熟者が書いております故、文章にところどころ間違いがあったりすると思われます。
どうか、誤字脱字等を発見しましたら、ご報告下さい。
俺は、不思議な部屋で目を覚ます。
暗くてよく見えない。
だが部屋の雰囲気は、よく知っている自分の部屋並みに頭に思い浮かんでくる。
頭に思い浮かんできたのが本当だとすれば、かなり大きい屋敷の一室のようだ。
まるで宮殿がごとく、王族が住んでいるといっても信じられるくらいに豪華な部屋だ。
しかし俺にはこんな部屋は見覚えも無く、体を起こし部屋をぐるりと見渡す。
相変わらず、暗くてよく見えない。
だがたしかに、自分以外の誰かがいるのがわかる。
そう。 そこには、ひとりの人間が立っていた。
よく見れば、かなりの美少女である。
もちろん、俺には身に覚えのない人物のはずだ。
こんな美少女が知り合いにいるなら、忘れられるはずがない。
その時、俺の口と体が勝手に動く。
俺自身の意思とは別に口から言葉が生み出される。
「やぁ、○○○。
もっとこっちにおいでよ」
自分の口から出た言葉に、俺はとても驚いてしまう。
見ず知らずの少女の名前を、ごく当たり前のように呼んだのだ。
しかも、かなり親しげに。
もしこれが本当に初対面だったのなら。
もう俺は、変人確定だろう。
しかし、その少女はというと。
何かを堪えていたかのように駆け寄ってくる。
そして、俺に抱きついてくる。
抱きついたと思ったら、すぐに泣き始めてしまった。
その震える体を、俺の両腕は優しく抱きしめ、
「ごめんな、○○○。
心配かけたな。 苦労をかけたな。
でも、もうずっと一緒だから。
俺の生まれ変わりも、お前と同じ体になった。
一緒なんだ。 消えるそのときまで、ずっと」
口は相変わらず、俺にとって訳のわからないことを呟く。
どうやら、この体は俺じゃない「何かの意思」に乗っ取られているようだ。
俺の意思では指一つ動かせない。
俺の口の言葉に、その少女は顔を上げる。
涙に濡れている、大きくて澄んだ瞳でこちらを見つめ、
「本当に……?
本当に……もう離れはしない……?
わたしは…………もう、寒さに震えなくても……いいの……?」
と言ってくる。
それに俺は勝手に微笑んで、
「ああ、もういいんだ。
だから泣くな、○○○。
きっと、この夢が覚めたら、また一緒になれる。
今度は、生まれ変わった俺と」
口が勝手に動く。
本当に俺は一体どうしちまったんだ…………?
そんな心配する俺とは逆に、
「……わかった。
もう泣かない。
だから、ショウ……。
すぐに迎えに来て……」
と少女は涙を拭い、小さく微笑む。
見た人全てを虜にしそうな、可愛らしくもどこか妖艶さのある微笑み。
普通な状況ならば、みとれていてもおかしくない。
だが今の俺は異常事態真っ只中。
この少女の微笑みさえ、俺にとっては気味悪くて恐怖を煽られるものでしかない。
一体何なんだ。
なんで、この少女は俺の名前を知っている?
なんで、俺はこの少女と親しげなんだ?
なんで、俺の体は勝手に動く?
なんで、なんで、なんで………………。
謎ばかりが深まっていく。
そして、俺の思考回路はひとつの結論に辿りつく。
いや、最初から辿りついてもいいはずだった。
だが、冷静さを欠いた状況の俺ではなかなかその結論にたどり着くのは難しかった。
その結論とは、至極当然な帰結だろう。
これはきっと悪い夢に違いない、と俺は思ったんだ。
この結論でなければ。
こんなのが現実だとしたら。
俺の中の何かが壊れてしまいそうで。
それは、俺自身が一番恐れていることで。
これは夢だと思い込もうと、必死になる俺。
しかしこの目の前の光景は、夢とは思えないほどリアルなもので。
抱き合っていると、抱いている少女の暖かさが俺の体にしみ込んでくる。
まるで体に刻まれた遠い記憶のなかだけで知っているような、ほのかな暖かさ。
現実なんじゃないかと錯覚してしまうこのリアルさ。
これはきっと、この夢から覚めても覚えていられそうだ、なんて俺が思っていると。
暗かった部屋の中に、黄金色の光が差し込み始める。
だんだんと部屋が光に満たされていく。
鮮烈な光に照らされ、どこか心落ち着かなかった暗闇の空間は徐々にその姿を消していく。
部屋すべてが光に包まれる。
もちろん、夜明けを告げるその光を、俺とその少女も一身に浴びて――――
――――俺は、夢から覚めた。
目を開けて、自分の部屋を見回す。
まだ夜が明けてまもないのか、カーテンの隙間からは薄明かりのみが入ってきている。
今までのは、やはり夢だったようで。
内心、安堵している俺がいた。
一体、何に対して安堵していたのか。
それは、今の俺にはまだわからない。
とにかく、漠然とした恐怖に対して安堵する気持ちがこみ上げているとしか認識していなかった。
ふと、体が震える。
よくよく見れば、服もシーツもびっしょりと濡れている。
いつもほどの悪夢でもなかったのに、尋常じゃないほど寝汗をかいていたようだ。
いつまでも濡れた服を着ていては風邪を引きかねない。
すぐさまベッドから起き上がり、俺は服を着替える。
今日も学校があるから、そのまま制服を着る。
そのとき、ふと目の前に置かれた鏡で、自分の顔を見る。
高校二年生の俺がそこには写っている。
なかなか端正だと言われるが、俺的にはまだまだ幼さを窺わせる顔立ち。
まあそれはそれで、ある意味女子からは好評のようだ。
そんなことに興味など無いが。
昔っから、俺は変わっていた
そこらへんでは『かわいい』と、ちょっとした評判の女の子に告白されても興味が湧かず、すぐ断って泣かせてしまったりとか。 そんなことが数えきれないほどある。
しかし、俺の両親が厳しい事で有名なのもあり、泣かせたからといっても周りから何かをされたりはしない。
それどころか、どうやら俺は女子から好かれやすいようで。
かえって振った女子からは、
「皐月君、気持ち伝えさせてくれてありがとう。
私よりもっといい子がきっと、皐月君にはいると思う。
だから、皐月君が恋したら私応援するから。
はっきりしてくれて、ありがとう」
とか、
「はっきりフられて、目が覚めた。
皐月君はいつも、そうだよね。
冷静で…………。
おかげで、ちゃんとフッ切れそう。
これからは、皐月君の事を影から応援してるね」
なんて、前向きな言葉をかけられる。
俺自身、たしかにオカシイとたまに思ったりする。
女子に対して、恋愛という意味では全く興味が湧かないのだ。
いや、断じて男が好きってわけではない。
友人としては普通に興味は湧く。
だけど恋愛になると全く何の感情も湧いてこなくなる。
問題と言えば問題なのかもしれない。
だが、別に体に異常があるわけでもないから、放置していた。
そんな俺のはずなのに。
今の俺は明らかに、これまでとは違っていた。
そう。
今しがたの夢に出てきた少女のことが気になって仕方が無い。
たしかに、夢の中の少女はありえないほどに美しかったが。
そんなことだけでその少女のことを気にしてしまうなど、俺としては納得がいかなかった。
だが、そこでその思考を断ち切る。
今の俺は、どうかしてる。
いつまでも考えていては、勉強にさえ手をつけられなさそうだ。
こんな状態になっていると両親に知られたら、それこそ大変。
あくまでも勉強して良い大学にいって良い職業につく。
それが、俺に決められた最善の選択。
それ以外の選択肢は無い。
そこまで考えて、ふと、壁に掛かっている時計に目をやる。
時計が指し示している時刻は、もう両親が起き出す時間をとっくに過ぎていた。
そろそろ、両親も起きてくるだろう。
そしたら、
「なんで、早起きしたのに家事のひとつも手伝わないの?」
なんて、母から厳しく言われるのは目に見えている。
俺は仕方なく、部屋から出ることにする。
なるべく音を立てないようにしつつ、いつも通りに朝食の準備を始める。
その俺の表情には、両親に対する諦めが混じっていただろう。
そんな俺の決められた人生にひょんなことから、狂いが生じる。
それが今朝に見た夢から始まっているなど、そのときの俺は夢にも思わなかった。
そう。
夢が現実になるなど、今の俺は信じていなかったのだ。
だが俺はその日の夕方、運命の出逢いをする。
夢の中の少女とそっくりな少女に出逢う。
その少女が家に来たことで、実は両親もありえない出自を持っていたのだとわかり。
俺を構成するモノが、何もかも変わっていく。
やがて、あの夢の意味がわかるように――――。
しかしそれもまた遠くて、近い、未来の話。
今の俺には、まったく関係のない話だった。
そう。
平凡な高校生だった俺、皐月翔には。
だが、その少女との出逢いは確実に近づいていた。
俺を非日常へと歩ませるモノはもう、すぐそこまで迫っているのだった。
と言う訳で、新連載です。
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