第一章 妖精と知識
いつも読んでくださってありがとうございます!!
シーツやら服やらが風吹かれてパタパタ揺れている。
この世界でも物干し竿を使うのは一緒みたいでその光景は爽やか。
周りを見ても人はいない様子。
よし、どうにかしてあそこの服をどれか手に入れないと。
茂みから出て、しゃがんだ姿勢のまま慎重に進む。
警戒してるけど、人の話し声もしないし見張ってる人はいないのかな?
しゃがんでるのがつらくなってきたところで目的地に到着。
――ふぅ、さてと。
何かいい服はないかと見ていると、白いワンピースを発見。
袖なしかぁ。これ着て麦わら帽子をかぶったら避暑地のお嬢様完成だね!
他にいいのは見当たらなかったからそれを拝借してまた茂みに戻る。
Tシャツを脱いでワンピースを着る。
う、これまた乾いてなくて微妙に湿ってる……。
ま、まぁ勝手に借りてるんだし文句言わない!
これで準備万端!と立ちあがって塀の方へと歩く。
塀のどこかに出入り口はあるはずだし。
歩いてると井戸があった。喉乾いたし水を飲みたいな。
井戸から水を汲むって一度やってみたかったんだよね!!
「お、おもいぃい」
思ったより重いんだね!!
引くだけで水分補給が必要だよ。
「やった」
やっと水を手に入れた!!と思って桶を見て固まる。
「また会ったね。異世界かた来た人魚さん」
桶の中に手のひらサイズの人形がいる。
ウェーブのかかった水色の髪綺麗ですね~。
「あら、もしかして姿見えないの?」
「あ、あのどちらさまで?」
「わかってるはずでしょ?」
透明の羽根が背中に生えてる。
――妖精。
「当たり。でもその前に水飲んだら?」
そうだ、喉乾いてたんだった。
精霊はふわふわと飛んで桶から出る。
掬って飲んだ水は冷たくておいしい。
「ふぅ。で、妖精さんはどうしたの?」
「君が混乱してるだろうから来たの」
いや、妖精さんの登場でさらに混乱している気が……。
「ここは君のいた世界ではないわ。
この世界に名前はないわ、あるのは大陸一つと周辺にある小さな島々。
ここはその大陸、シオン大陸の南にあるティオン国」
「異世界だよねぇ」
妖精は口元に手をあててくすくすと笑う。
小さいのに優雅な仕草だな~。
「人魚族というのは水の精霊と人間との間の子だよ
もっとも最近は純粋たる血筋のものは少数だけどね。
もしかしたら君は人魚族のものに呼ばれたのかもね」
「え、わからないの?」
「彼らに関わる精霊は口が堅いんだ。
彼らは居場所を隠してひっそち暮らしているから、いるところを知らないし何をしているかわからない」
同じ精霊なのに不思議だな。
みんなの知識を共有しているとかないんだ。
「我ら精霊は火、水、土、風がいるんだ。
間の子は人魚族以外にエルフ族、ドワーフ族、龍人族がいるよ。
この四種族がそれぞれの精霊との間の子。
今は間の子としてあるものは少なく血筋でかろうじて色が出るものが多い」
ふむふむ。
どうやらいろんな種族がいるらしい。
人魚族はその一つ。
引きこもり気味で人前に姿を表わさないからどこにいるのか不明。
「君はこの世界で生まれたわけではなく体はそのままで精霊の加護を受けたから色が出なかったんだね。
体の相性としては火の精霊が強かったみたい。
だから尾びれが赤いんだ」
「えと、それは人魚族以外だったかもしれないってこと?」
「それは違うよ。人に呼ばれたなら人のまま。色が出るだけ。
少なくとも水の精霊の加護を受けしものが呼んだからそうなったの」
「うーん、泳ぐことができるし運がよかったと言えばよかったのかな」
とっても微妙なところだけど、エルフとかドワーフになるよりは夢があるよね!
魔法使ってみたいけどなー。
この世界には魔法あるのかな。
「で、そろそろ時間切れだよ」
「え」
瞬間、体が傾いた。
「ほらね」
バランスを崩して地面に倒れた。
立とうとしたら足が一緒に動く。
こ、この感覚は……!!
「やっぱり……」
また尾びれになってる。
人間になるのは少しだけってこと?
何この時間制限。
「妖精さん。もう一回人間にしてよ」
「体への負担が大きいから数日に一回がいいよ。
無理にすると死んじゃうかも」
「え、いきなりヘヴィーなんですけど。そういうことさらっと言わないでよ」
見た目はかわいいのにさらっとすごいこと言ったよ。
そうだ、妖精なら元の世界に戻る方法知ってるかも。
「知らないよ。呼んだものなら知ってるだろうけど」
「と、いうことは人魚族に会わなくちゃいけないの?」
「可能性としてはそれが高いね。でも、断定はできない。たまたまこの世界に呼ばれた時に加護を宿した、ということもあるかもしれないしね」
「えぇ。他にこの世界に来た人とかいないの?」
「はるか昔に一人、来た。でも今はいない」
仲間、いないのか。
人魚族を探して私を呼んだ人のところに連れて行ってもらう。
それが目標。
(海に行かなくちゃ)
ついでに思う存分泳ぎたい。
元の世界にもどったらまた泳げないんだろうし。
「じゃあね」
考えていたら妖精はまたしても突然消えた。
え、放置ですか。
まさかの放置ですか。
なんて無責任な妖精だ!!
どうするのよ、私!!
尾びれが乾いてきたのか、息苦しくなってきた。
口で息してるのに、どうして?
ダメ……いしきが……。
やっと世界設定を大まかに出すことができました。
この世界の人間も妖精もマイペースですね(笑)