第二章 苦労とため息
大変お待たせしました。
「失礼いたします」
シルアさんは返事を待たずに扉を開けた。
え?それはいいの?だめなんじゃないの?という突っ込みをする前にシルアさんは素早く行動した。
「あれ?アイだ。突然どうしたの?」
「アイ様がルカ殿下に御会いしたいとこのことで、お連れさせていただきました」
「え?」
いやいやいや。
そんなこと一言も言ってないけど!!
シルアさんは真面目な顔で言ってるけど、全然内容あってませんから!!
ツィネさんを見ると、この光景から視線を逸らしている。
「アイが?嬉しいな。俺もアイに会いたかったところだよ」
「っ!!」
さらりと殺し言葉を吐きましたよ、この人!!
しかも嬉しそうな笑顔つきで。
壁沿いにある本だなの傍にいたニルカはいやそうな顔をしている。
ちらりとシルアさんを見ると、満足そうな笑顔。
「ツィネさん、助けて……」
「誠に申し訳ございません。私にはできません」
ルカは、シルアさんの言葉が本当だと信じてるのか嬉しそうににこにこしている。
周りに花を浮かべている場合じゃないから。
「ルカ殿下は今執務中だ。後にしてもらえないか?」
「私の主はアイ様でございますので、ご指示に沿いかねます」
ルカの周りはぽわぽわしているのに、シルアさんとニルカの周りは猛吹雪。睨みあうその間にはバチバチと電撃が飛び交っているように感じる。
一つの部屋でなんでこんなに空気が変わるんだか。
私は平和主義なんだから、勘弁してよ。
「アイ、お茶飲む?」
「ルカ……」
よくこんな場面でお茶なんて言ってられるよね……。
いつもは突っ込みを入れてるけど、今はその能力が欲しいよ。
私がどうしようかと考えていると、言葉ではなく視線で戦いを繰り広げていた二人はふっと一息つくと部屋を出て行った。
「え、突然どうしたの」
「アイ様」
ツィネさんは、目で訴えてきた。
――知らない方がいいこともあるんです。
……うん、そうだよね。
扉を遠い目で見つめると、ルカは不思議そうな顔をして聞いてきた
「あの二人って時々ああやって一緒に出て行くんだけど、もしかして付き合っていたりするのかな?アイはどう思う?」
「はぁ……」
ツィネさんとため息が重なった。
ツィネさん、苦労してるんだ。
労わるように見ると、ツィネさんの目が潤んだ。
それだけで普段の苦労が垣間見ることができた気がした。
「どうしたの?目にゴミでも入ったの?」
そこにのんきな声。
「ルカ、一言言わせてもらってもいい?」
「なに?」
「空気を読むことを覚えて!!」
金魚鉢の中から出ることはできないから殴らないけど、自由に歩けるときだったら平手じゃなくて拳で殴るよ。
平和主義だから、平和を乱すものには鉄槌を下さなくちゃ。
頭を捻っているルカを見て、やはり殴られるという刺激が必要だと認識した。
ニルカとシルアは仲が悪いです。
似たもの同士なんですね。他人がそのことを言ったら精神的に追い詰められるためタブーになってます。