二人で勉強sideアルフレッド
アルフレッドとリリーナが10歳頃
「アル、嬉しそうだな」
「今からリリーナと会えるからな」
今日はリリーナと算術の授業を受ける。一緒に授業を受けたいと何度も何度もお願いし、リリーナが得意な算術ならばと許可がおりたんだ。
「リリーナはな、」
「ちょっとツリ目なのが猫みたいで可愛い、だろう。何度も聞いた」
「算術が得意だって言おうとしたんだ」
そうダニエルと話しながら王宮への道を歩いていると、馬車から降りるリリーナの姿が見えた。
「リリーナ!」
近寄ると完璧なカーテシーをするリリーナ。可愛い。
「おはようごさいます、アルフレッド様。ダニエル様もお久しぶりでございます」
むっ。ダニエルに笑顔なんて見せなくていいのに。
「では殿下。私はここで失礼させていただきます」
「あぁ、また明日」
「はい」
一瞬呆れるような目を向けたダニエルと分かれ、いつも僕が授業を受けている部屋にリリーナをエスコートした。
「ダニエル様はアルフレッド様の事を殿下と、呼ぶようになったのですね。私も殿下とお呼びした方がよいですか?」
部屋につくとそう尋ねられた。
ダニエルは体格が近いため剣の訓練を一緒に受けることが多く、側近の中で一番仲良くなった友人でもある。
父親の侯爵に、僕のことを愛称で呼び敬語を使っていないことがバレ、怒られたと。だから他に人がいる時はちゃんと話す。と言われて少し寂しい気持ちになったのはついこの間の話。
本当はリリーナにも敬語を使わないでほしいけど、断られるのが怖くて言えないままでいる。
「ダニエルも二人のときは殿下と呼ばない」
「そうなのですね」
「ダニエルはっ! 敬語も使わない。……だからっ」
「仲がよろしいのですね」
い、言えなかった……。
*
*
「リリーナ様満点でございます。お二人共しっかりと学ばれておりますね」
「ありがとうございます」
「満点……」
くやしい。リリーナは算術が得意だなんてものじゃなかった。聞くと学園で学ぶレベルの計算まで出来るそう。
「リリーナ様? そちらの表は……?」
リリーナが数字の羅列を書いているが、何を表しているのかさっぱり分からない。
「九九です」
「くく、とは? これはどちらで学ばれたのですか?」
「あっ、えっとぉ……ど、どこかの国の本ですっ。公爵家の図書館で見つけたものでして」
恐らく前公爵夫人が隣国より持参したのだろう。何故か焦っているリリーナは誤魔化すように立ち上がり、本棚へと近付いていた。
「……なつかしい」
「? リリーナはこの本を読んだことがあるの?」
手に取っているのは東方にある国の書物だ。
「こ、公爵家の図書館で見たような……」
「こちらは東方の国で発行された物ですね。冒険小説のようです。この国の言語をご存知で?」
「見たことのある漢字……文字に似ていて」
かんじ? とはなんだ? 冒険小説のタイトルを読みた上げた際に発音が違うと教師に指摘され、残念そうに眉を下げている。どんな顔も可愛いなぁ……っ、じゃなくて。
「よければこの言語を話せる者を紹介しましょうか?」
そう聞かれ、お願いします! と喜んでいる。もちろん祖母の祖国であり親戚が住んでいるからではあるけれど、既に隣国の言葉も取得しているのに、更に差を付けられてしまうじゃないか。
「く、くやしい」
「アルフレッド様?」
っ!! 声に出してしまっていた。僕はリリーナを守りたいのに。なのに僕のほうが全然だめだ。
「リリーナ、僕……」
「アルフレッド様は、平民の中には私達と同じくらいの年から働きに出ている子がいるのはご存知でしたか?」
ん? それは王子教育の初めの方に教えてもらっている。
「知っていた」
「私はつい最近、王妃教育で初めて知りました。それにアルフレッド様は剣が使えるけど私は使えません。その代わり刺繍を教わっています。お兄様は領主教育を受けていますが、私は受けていません。人によって学んできた内容も使った時間も違うのです。今日はたまたま、私の方が得意な物が多かっただけなのです。それに一人で背負い込まずに支え合うのが必要で、足りない部分は頼っていいのです」
うんうんと頷いて、上手くまとまったと独り言を言っている姿ですら可愛い。さっきまでリリーナに負けている事に悔しい気持ちでいっぱいだったのに。
それにしても、一人で背負い込まなくていいのか。足りない部分を頼っていいなんて初めて言われた。やっぱり僕の隣にはリリーナが、リリーナだけが必要だ。
「あっ! それにお祖父様が言っていました。仕事が忙しくて大変だった時、お祖母様が支えてくれたから頑張れたって。お祖母様もお祖父様にたくさん助けられたから感謝しているって。私はその話を聞いて素敵だと思いました。だから私もお祖父様とお祖母様みたいになりたいのです。出来なくても頑張ってる人の方が素敵だと思います」
それって僕と前公爵夫妻みたいになりたいってことだよね? リ、リリーナも僕の事好きになってくれたのかな……? そうだといいな。
「僕もっと頑張る! リリーナにも頼ってもらえるように」
「ふふ。はいっ」
小説では人と比べたり、妬んだり、人に頼るということを知らずに成長したアルフレッド。そのフラグをリリーナが今日折ったことに二人が知る日は……来ないだろう。




