5.小説の内容
あの夢は私の前世だ。確かにあの日から自分の中の何かが変わった気がしていた。時々7歳にしては大人のような考え方をすることがあるなって。
あの場所は友人とよく行った全国…世界的にチェーン展開されている有名なカフェ。本のような物と思っていたのは手帳型のケースに入れたスマホで、友人おすすめの異世界小説を検索していたんだった。
しかもよくある話よ~とか言いつつ、あの後惹き込まれて一気読みしたのを覚えている。
あの小説の主人公の名前はメアリー・ウィリアムズ。兄の名前がレオニールで姉がリリーナ。両親がいて5人家族の公爵家。そして王太子のアルフレッド・セルナとの恋愛を描いていた。
完全一致しているわ。
主人公は乙女ゲームで悪役令嬢だったメアリーに転生してしまった人。ゲームではどのルートでも断罪されることが決まっているキャラクターで、断罪回避のために動く内容だった。
ちなみにそのゲームの主人公の名前はルーシーで、男爵家の庶子。母親と平民生活を送っていたが、母親が亡くなり、主人公の存在を知った父親である男爵が引き取る。貴族の通う学園に入学し、様々なイベントをこなして攻略対象者と恋愛を楽しむゲーム。そこに登場するのが攻略対象それぞれの婚約者である悪役令嬢。何故どのルートでもメアリーが断罪されるのかは……説明されてたっけ?
小説ではルーシーも転生者で、推しキャラであるアルフレッドルートを選択。自分が主人公の世界に来たと信じて疑わず色々やらかすも、ここはゲームの世界と似て非なるもの。だからルーシーの思い通りには進まないし、悪役令嬢のメアリーとアルフレッドは愛し合い幸せになる。ルーシーは修道院に送られてめでたしめでたし。って物語。
ゲーム自体は物語の中にしか存在しないものだから、ここはメアリーが主人公の小説と似て非なる世界なのだろう。
確か…本来姉と第一王子が婚約するはずだったのに、家族に溺愛され、甘やかされ、我儘が通っていた、王子に一目惚れしたメアリーが横取りする。主人公は横取りに成功してから前世を思い出し、このままではゲームのように断罪されてしまう、と挽回していく。姉とは元々仲が良くなかったのに、横取りしたせいで余計こじれていくことを思い出し、まずは姉と仲直りするところから始めていくのよね。
それからメアリーがゲーム内で悪役令嬢になってしまった理由の1つが私。ルーシーと私が似ているから。といっても実際は色が似ているだけで全く似ていないと転生メアリーが説明していたけれど。大嫌いな姉である私に似たルーシーを愛するアルフレッド。その構図が許せなかったのね。
確かに私の髪はピンクゴールドだし、目の色は紫。ヒロイン特有のピンク髪とピンク目に近いかもしれない…でも悪役令嬢の姉らしく? ツリ目だし可愛いより綺麗って感じの女の子。
うーん。身分も申し分ない上この容姿なら貰い手には困らなさそうね。第一王子との婚約はメアリーに横取りされるだろうから、私はどこかの高位貴族のできたら嫡男と婚約するってところかしら。
メアリーに横取りされるってところだけ引っかかるけれど、ルーシーまで実在してたら面倒でしかないし、無難な道を選ばせてもらおう。
なんにせよ前世の両親からの愛を思い出せたのは良かったわ。もちろん今世でも愛してもらえるならその方がいいけれど、前ほど辛い思いを感じずに生きていけそう。