42.婚約者の妹sideアルフレッド
「メアリーに再度確認したが、やはり今回の件は関与していない。呆れることに学園で事件について尋ねようとしていたくらいだ」
とはいえ簡単に利用されるなんて公爵令嬢としてはどうなんだ? レオニールも同じ思いなのか、頭を抱えながらメアリー嬢が今まであの男爵令嬢とやってきた事、話してきた事の情報を共有してくれた。
「それと母上は手に入れた薬草をリリーナに使い、男爵の元婚約者と同じように修道院へ送るつもりだったようだ。元婚約者にあの薬草が使われた事実は知らなかったようだが、母なりに考えた結果、アルに使うのはまずいと思ったんだろう。だからと言って実の娘に使おうとするなんて親としてどうかと思うがな」
……。私のリリーナに危害を加えようとしていたなんてメアリー嬢よりたちが悪いじゃないか。
「それから、メアリーをリリーナに会わせたいんだが」
は?
「それはダメだ」
「もちろん危害は加えさせない。メアリーの処遇について検討するためにも会わせたい」
いくら今回の件に関与していなくても、仲の良い姉妹ではなかったんだ。散々リリーナを苦しめてきた相手だと知っているのに何を言っているんだ?
はぁぁ。会わせたくないのだが……今すぐリリーナを妻にしたい。そうすればレオニールの要望なんて簡単に跳ね除けられるのに、まだ公爵令嬢だから次期当主の言葉を無視できない。
結局俺も同席することを条件として会わせることとなった。
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俺自身がリリーナから離れたくなかったのと、この薬の飲ませ方は誰にも任せたくなくて、リリーナの眠る部屋の隣に急遽臨時の執務室を設けた。一人、もしくはレオニールと二人の時はリリーナの側で、他の側近がいる時は臨時の執務室で、それ以外の人間と会わなければならない時は王城にある執務室で……。
「リリーナ、薬の時間だよ」
眠り続けるリリーナに解毒薬を飲ませるのは何度目だろうか。
あの王宮医師はかなり優秀だったようで——優秀だから王宮医師になれたのだが——飲まされた薬草と解毒薬について知っていることを話すと、リリーナの状態をみるに4時間おきに薬を飲ませるのが一番効果的だと瞬時に判断し、解毒薬の作成もしてくれることになった。
「お願いだ、目を覚ましてくれ」
もう5日間眠り続けているリリーナの手を握り、目が覚めることを祈る。
コンコン
「レオニール様とメアリー様がご到着されました」
「通せ」
とうとう約束の日か。絶対に目を離さないでおこう。
「アル、少し休むんだ」
「ここを離れるつもりはない」
部屋に入ってきたレオニールはそう言うが、俺が同席するのが条件だったはずだ。
「メアリーは馬車の中で待たせている。勝手に会わせることはしないから、少し眠るんだ」
「大丈夫だ。むしろさっさと終わらせてくれ」
「……。その後必ず休んでくれよ」
「…………」
眠れるわけがないだろう。寝たほうが良いことくらい理解している。でも横になっても目を瞑っても無理なんだ。
「リリーナ……」
*
「アルフレッドさまぁ!」
っ! 正気か!? なぜ彼女は嬉しそうに部屋に入ってくるんだ?
「メアリー、名前呼びを許可されていないだろう。殿下も許していないのですからしっかり注意してください」
リリーナ以外の女性になんと呼ばれようと全く興味がなかったが……そういえばいつも名前で呼ばれていた気もするな。
「……そうだな。メアリー嬢、今後私の名を勝手に呼ぶことは許さない。今まで黙認してきた私も悪いが、次は不敬罪で捕らえる」
「えっ! そ、そんな……」
泣き真似か? 例え本当の涙だとしてもリリーナ以外に私の心が動くことはないのだが。
「君はリリーナに会いに来たのではないのか? 公爵令嬢として相応しい言動ができないのであれば、この部屋から出ていけ」
「メアリー」
「も、申し訳ありません。以後気をつけます」
最初からそうしておけば良いものを。




