38.事件の調査sideレオニール
無事にリリーナが見つかり、タウンハウスに戻ってきた。
「お帰りなさいませ」
「あぁ。リリーナはしばらく王宮に滞在させる」
「かしこまりました」
この件、父上にも事情を説明せねばならないな。
「1通急ぎ隣国へ手紙を出す。早馬の手配を。それから父上にこちらへ来ていただくよう連絡してくれ」
「かしこまりました」
執務室に入ってすぐ再従兄弟へ向けた手紙を書き始める。隣国まで馬で休みなく進んでも3日はかかるだろう。医師の派遣が無理でも、薬だけでも届けてほしいが……念の為にとあの日多めに買い付けていたのは正解だったな。
……父上が到着される前にメアリーの関与を確かめるか。
*
*
「お兄様! 戻られていたんですね」
何故こんなにも楽しそうなんだ。リリーナが助かったとはまだ知らないはずなのに、執務室に入ってきたメアリーは異様に嬉しそうにしている。
「……湯浴みをしていたのか?」
「はいっ」
こんな時に……それにオイルもクリームも付けすぎだろう。
「茉莉花か」
「はいっ。アルフレッド様がお好きな香りなのです」
「メアリー、お前は殿下から名前で呼ぶことを許可されていないだろう」
「? アルフレッド様に咎められたことはありませんよ?」
咎められなければ許されているのだと、どういう思考ならそこにたどり着くんだ。
「殿下の好きな香りは茉莉花ではなかったはずだが」
「いいえ。お兄様が知らないだけです。もうすぐ婚約者になる私が間違うはずないじゃないですか」
は? 婚約者?
頭が痛い。理解不能すぎる。ホワイト男爵令嬢とのことを問いただすつもりが……。
「来月の立太子式でアルフレッド様の隣に立つ私……ふふ。お兄様! 私、より一層磨きをかけますわね」
「何を言っているんだ? 殿下にはリリーナがいるだろう。それにメアリーにも婚約者がいるはずだ」
「何を仰っているのですか? お姉様は攫われてしまったのですよね?」
メアリーはこんなにも会話ができなかっただろうか。
「無事に見つかった」
「まぁ! でも清い体でなければ王子と結婚はできませんし、私が代わりに嫁ぐしかないと思うのです。ウィリアムズ公爵家としても、王太子妃の座を他の貴族に渡したくないでしょう? そうだわ! お姉様は私の婚約者の方と婚約すればいいのよ。相手は伯爵家ですもの。公爵家と縁を結びたいのだから、少しくらい傷がついていたって問題ないわ」
「リリーナは無事見つかったと言っただろう」
もう勝手に言わせておこう。それよりも聞きたいことがある。
「メアリーを甘やかしすぎた私にも責任があるな。が、それについては後回しだ。それよりもホワイト男爵令嬢と接点を持った経緯、会話の内容、そして今まで立てた全ての計画を包み隠さず話すんだ。今、お前には今回の人攫いの嫌疑がかけられている」
「ちょっと攫われたくらいで、ですか? 大袈裟です」
「何が大袈裟だというんだ。メアリー、質問に答えなさい。リリーナの誕生日パーティーでの件も、罪に問われないからといって許されたわけではないんだ」
事と次第によっては母上にも話を聞かなければならないんだ。いい加減質問に答えてくれ。




