31.予感の的中
おかしい。いくら改装中だったとしても、物がなさすぎない?
「このお店は今改装……」
ゴンッ!!
「…………っ!!」
物音がした方をみると、アンナが頭を抑えて倒れていた。
「アンナ!!」
「動くな。動いたらこの女をもう一度殴る」
「そんなっ」
手を差し伸べてくれたと思っていた男性も敵だったなんて。アンナは意識を失ったように見えるし……貴族に見えたからって何故全く怪しまずに付いてきてしまったんだろう。
「それで、リリーナって令嬢はどっちだ」
「…………」
「どっちだって聞いてるんだ。答えないなら二人共連れて行く」
「わ、わたしよ」
アマンダ!?
私の代わりに捕まるつもりなの!? そんなのダメ。
「私がリリーナよ。証拠がほしいなら……ほら、これよ」
ウィッグを取れば私の本来の髪色が分かる。きっとこの人は私の色をルーシーから聞いているはず。
「へぇ。付いてこい」
そう言って腕を乱暴に掴まれ、引きずるように立たされた。
「その前に、彼女たちにはこれ以上何もしないと約束して」
「俺は何もしないさ。まぁ、他の連中がどうするかなんて俺が知ったことじゃないけどな。でもお前が大人しく付いてこないのなら、先にこの二人を始末するが、どうする」
「…………」
ここは大人しく付いて行ったほうが良さそうね。後どれくらい仲間がいるのか分からないけれど、ここにいればきっと騎士たちが助けてくれる。それに、助けを呼ぶためにもアマンダには無事でいてもらわなければならないし。
「分かったわ」
それにもしここで抵抗でもして意識を奪われてしまったら……どうせ捕まるなら少しでも手がかりを残せるよう意識がある方がいい。
「ダメよ!!」
「アマンダ、後はお願いね」
「そんな……リリーナっ!!」
必ず助けるからというアマンダの言葉を背に、店の奥へと進む。裏口の前で両手を後ろで縛られ、麻袋を頭から被せられた。
「真っすぐ歩け」
まるで罪人扱いね。
「いたっ」
数歩歩いた先で急に担がれたと思ったら、何かに投げ入れられた。これは……馬車?
男は直ぐ側にある椅子に腰掛けたようね。私は床に寝転ばされたまま馬車が動き出す。…………どうにかして場所を知らせる方法を考えなきゃ。
*
*
*
動き出してから体感で3時間ほど経った頃、漸く馬車が止まったみたい。目的地に着いたの?
乱暴に馬車から地面に蹴落とされ、前も見えず両手も縛られている状態で、起き上がって自分の足で歩けと命じられた。
「ほら、さっさと歩け」
背中を押されながらも何とか進み、建物の中に入った。ここは誰かの家?
建物の中をしばらく進んだ後、重そうなドアが開く音がする。
「降りろ」
もしかしなくても、私は地下牢に入れられてしまうのだろうか。
前が見えないのを言い訳にゆっくりと階段を降りていく。1秒でも長くここで時間を稼ぎたい。
その抵抗も虚しく、早々に目的の場所に着いてしまったようだけど。ジメジメとしていて、この殺伐とした空気……そしてこの錆びた鉄が動く独特の音……。
パサッ
麻袋を取られて見えた世界は、案の定地下牢だった。
ドンッ!
いったぁ。
いきなり背中を押されて地下牢の中に倒れ込んでしまい、慌てて立ち上がり外に出ようとするも、無情にも目の前で扉を閉められてしまう。もちろん鍵もしっかりかけられた。
ガシャン。
「ここで大人しくしていろ」
大丈夫。きっと助けが来る。




