16.好きな人
サロンにあるソファーにアルフレッド様と隣り合わせで座わり、紅茶を一口飲んで一息ついていると、アルフレッド様の指先が私の耳に触れた。不意に起こったそれに心臓が飛び跳ねた気がする。
「恋をするのに身分は関係ない、そう言われて不安に思ったのか?」
耳に触れていた手を頭に移動させ、優しくなでてから向き合うように座り直したアルフレッド様。
「……。そう、かも、しれません」
「なぜ不安に思ったんだ?」
「それは……その」
「ん?」
うまく言葉にできずうつむいてしまうと、両手で私の頬を優しく包み込むように触れられた。顔を上げるととても優しく、真剣な眼差しで見つめてくるアルフレッド様。
「アルフレッド様……」
「リリーナ。教えてほしい」
「あの、えっと、その……」
いつの間にか腰に手を回され、頭や頬をなでながら私の言葉をじっと待ってくれている。
「…………すき、です。アルフレッド様のことを、その、すきに、なってしまいました」
絞り出すように漸く言えたその言葉。すぐそばにいるアルフレッド様にはもちろんしっかり聞こえていて。
膝の上に私を乗せ、強く、強く、抱きしめてくれるアルフレッド様。
今まで手に触れたことも、腰に手を回されたこともあるけれど、それはあくまでもエスコートの一つでしかない。
私のウィッグを作りに行った日、可愛いと言われて赤面したあの日から、頭をなでられたり頬に触れられる事はあっても、膝の上に乗せられることはなかったし、ダンスで距離が近くなることはあっても、こんな風に強く抱きしめられた事なんて、今まで一度もなかった。
「ずっと……ずっとその言葉を待っていた」
「アルフレッド様……」
「こんなにも、嬉しいものなんだな」
「リリーナ、好きだ。誰よりも愛している。身分なんて関係ない。リリーナだから好きになったんだ」
前世の情報もあったし、幼い頃のアルフレッド様の様子で好かれている自覚はあった。それから長い年月思い続けてくださってるのも伝わってきていた。
周りからは好かれていると言われたことが何度もあるけれど、アルフレッド様からちゃんと言葉にしてもらったのは初めて。
嬉しくて、苦しくて、涙を堪えることができなくなる。
「私も、私も嬉しいです。……初めて好きと言われました」
「でも俺の気持ちには最初から気付いていただろう? ずっと伝えたかった。でも、それ以上にリリーナに好きになってもらいたかったんだ。だから、好きになってもらえたら伝えようと、そう思ってきた」
でもまさか、それが今日だとは思わなかったけどなって言うアルフレッド様の笑顔がキラキラしていて。なんでもっと早くに自分の気持ちを受け入れなかったんだろうって少しだけ後悔した。
「アルフレッド様、好きです」
「ふ、不意打ちは良くない」
「ふふ。アルフレッド様、可愛いです」
「なっ、可愛いのはリリーナだ」
身分は関係ない、か。同じ言葉なのにこんなにも違って聞こえるなんて。
「そういえば、アルフレッド様は私のどこを好きになってくださったんですか?」
「そ、それは……秘密だ」
「教えてください」
「っ、! かわっ……そんな風に見つめたってダメだ。リリーナには教えない」
「意地悪です」
「なら、リリーナは俺のどこを好きになったんだ?」
「秘密です」
誰よりも優しくて、何でもできるように見せているけれど、本当はすごく努力家なアルフレッド様。どんな私でも受け入れてくれて、どんな時も守ってくれる。それにちょっぴり可愛いアルフレッド様。そんなあなたが大好きです。
「意地悪だな。いつか必ず言わせてやるからな」