14.ルーシー嬢
「アルフレッドさまぁ」
アマンダや他の令嬢たちと教室内で話していたら、扉付近がざわめきだした。どうやら誰かがアルフレッド様を探しに私達の教室を覗き込んでいるみたいだけど、人が集まっていて誰が来たのか私達からは見えない。
「失礼します。リリーナ様。1年生の生徒がアルフレッド殿下を探しに来られたようなのですが、どう対応すればよろしいでしょうか。」
今日はどうしても外せない執務があり、学園をお休みされているアルフレッド様。
「その方のお名前は?」
「それが何度訊ねても答えていただけなくて。ピンク色の髪色をした令嬢なのですが」
……。学年ごとに使っている棟が違うのにわざわざ来たのね。
「分かりました。私が話を聞いてみます」
「ありがとうございます」
「ちょっと、大丈夫なの?」
アマンダが心配そうにしているけれど、ずっと居座られても困るし行くしかない。案の定、扉近くに行くとキョロキョロとあたりを見回しているルーシー。
「ホワイト様。アルフレッド様をお探しとのことですが、ご要件は?」
「何でリリーナがでてくるの? 私はアルフレッド様を探しているのに」
声をかけると怪訝そうな顔を向けられた。
それより何故私は呼び捨てで名前を呼ばれているのかしら。あのメアリーですら、私のことをお姉様と呼んでいるのに。そもそもあなたに名を名乗った覚えもないのだけど。
「アルフレッド様も私も、あなたに名前呼びを許可した覚えはないのですが」
「だからなに? 別にいいじゃない。それに私、あなたの名前がリリーナだってことしか知らないもの」
「…………」
「もしかして違ってた? この間リリーナって呼ばれていたし、私、記憶力いいから合ってると思うんだけど」
「確かに私の名はリリーナですが、あなたにそう呼ぶことを許可していません」
「へぇ。やっぱりあなたって想像通り意地悪なのね。学園内は平等でしょ? そんな心の狭いこと言っていたら、婚約破棄されるんじゃない」
はい?
周りで聞き耳を立てていた生徒も、みんな驚きの表情でルーシーを見ていた。
それもそのはず。学園内は平等……なんてことはない。もちろん校則は身分に関係なく全生徒が守らなければいけないし、教師は身分に関係なく生徒を罰することができる。だけど学生同士の身分は普通に存在する。
学園生活は貴族社会に出るための準備でもあると、理解していない者がいたなんて驚きよね。
「本気で言っているのですか!?」
側で様子をうかがっていた、私を呼びに来た生徒がルーシーに詰め寄っているけれど、きっと彼女は本気で言ってると思うわ。
「どなたから平等だなんて話を聞いたのか知りませんが、間違って認識されています。それに、リリーナ様が婚約破棄だなんて、それこそありえません」
*
*
*
まただ。
アルフレッド様、アマンダ、側近の皆様と昼食をとりに向かっていると、カフェテリアの扉の前にピンク色の頭が見えた。
私達の教室に来た数日後から、何故かルーシーによく遭遇する。というか、行くところ行くところで待ち伏せされているのだ。
「アルフレッド様っ!」
私達に気付きこちらへ近寄ってきたルーシー。
アルフレッド様や側近の皆様の前では少々猫を被りたいようで、私への態度も……
「リリーナ様も。ごきげんよう」
相変わらず名前で呼ばれるけれど、敬称を付けられるようになった。ただ、仲が良いと思われたくないし、ルーシーが勝手に呼んでいると気付く人は気付くので、私は必ず家名で呼んでいる。
「ホワイトさん、ごきげんよう」
様、を付けるつもりはない。
あの日のことをアルフレッド様に報告するべきだとアマンダには何度も説得されている。でも、まだ発表前ではあるけれど、既に王太子の仕事をして忙しくしているアルフレッド様の手を煩わせたくないし、私だって王太子妃になる予定なのだ。そこは守られるだけでいい場所じゃない。これくらい、自分でなんとかしてみせる。
「今から昼食ですよね? ご一緒させてください」
嫌に決まっているでしょ。
「それはご遠慮してくださるかしら。内密の話もありますので。では、失礼しますね」
「あっ! ちょっと」
ルーシーはまだ騒いでいるようだけど、無視無視! 側近の皆様が足止めしてくれている間に離れてしまおう。
はぁぁ。カフェテリアに王族専用の部屋があってよかった。許可なく入室することのできないその場所へ、アルフレッド様と共に足早に向かった。