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11.蜂蜜オイル

「ありがとう」


 タウンハウスにある自室のソファーで、今後の学園生活について考え込んでいたらアンナがお茶を出してくれた。


 ふぅ。蜂蜜入りは落ち着くわね。


「ねぇ、アンナ?」

「はい」

「もしメアリーが我が儘な性格を直したら、アルフレッド様はメアリーを好きになるかしら?」


 入学式の数日前に前世を思い出す、って異世界転生でよくある設定だったしね。


「ありえません」

「どうして? メアリーも今年16歳になるのよ? 今までと環境も変わるし…」

「メアリー様といいますか……。——殿下の執着に気付かれてないのかしら?—— 殿下がリリーナ様以外を愛することはないかと思います」


 今、殿下に好かれているって自覚はある。でも……。


「とっても可愛い新入生が入学してくるかもよ?」


 ルーシー。本来のヒロインって設定だったのよね……小説では悪役だったけど。


「リリーナ様ったら。心配なさらなくても大丈夫ですよ。お二人の間に入れる者なんてただの一人もいないですし。ふふふ。今の話、殿下が聞いたら大変喜ばれますね」


「……そう、かしら」

「——殿下に恋されてるんですね——」

「ん? 今なんて?」

「いえ」


 アンナはそう言うけれど、不安なのよね。

 ……あら? 私何が不安なの? 王太子妃に未練なんてないというか、元々それなりの家に嫁げればいいって思っていて……もしアルフレッド様との婚約が解消されたとしても、爵位に拘らなければ嫁ぎ先は見つかるだろうし……。


 アルフレッド様とは幼馴染でもあるから気を許し合っているし、一緒に過ごすのも楽しい。幼馴染、だからよね?


***


「お姉様!」


 っ!! びっくりしたぁ。メアリー……着いていたのね。自分の世界に入り込んでしまっていたから、いつも以上に驚いてしまったわ。許可なく部屋に入ってきて、対面にあるソファーにどさっと座るメアリー。もう少しお淑やかにできないのかしら。


「ノックをしなさいといつも言っているでしょう」

「お姉様この部屋から出て行って」

「はい?」

「ここは私が使うことになったの。だから出て行ってお姉様」


 理解できないんだけど。幼い頃からずっと私が使っている部屋なのに。


「いやよ」


 面倒くさい。


「もう決まったことなのよ。お母様も使っていいって」

「変えなくたってメアリーの部屋と間取りは同じじゃない」

「同じなら変えてもいいわよね」

「あなたねぇ」


 何がしたいのよ。


「何を騒いでいるの」

「お母様……」


 開いていた扉から声が漏れていたようで、タウンハウスにメアリーと共に来たであろうお母様まで部屋に入ってきた。


「お姉様がお部屋を交換してくれないの。お願いしているのに。お母様も変えていいっておっしゃってたのに……」

「あぁ、メアリー泣かないで。リリーナ、部屋を移りなさい」

「…………」

「リリーナ!」

「……分かりました」


 仕方ない。抵抗しないほうが楽だし。とりあえず必要なものだけ持って移動しよう。


「アンナ、後はお願い」

「畏まりました」


 この基礎化粧品はメアリーの部屋にないから、オイルとクリームと……

 早々に席を立ちいくつかの品を手に取っていると、じっと私の様子を見ていたメアリーがお母様とコソコソと話をしている。


「お姉様、それは置いておいて」

「えっ? 蜂蜜を使っているわよ? メアリーは茉莉花が使われているものを愛用していたでしょう?」

「今日から蜂蜜にするの」


 お兄様ね。蜂蜜オイルとラベンダーオイルを融合して作られたこれらは私が特注したもの。


「リリーナ、置いていきなさい」

「…………」

「置いていきなさい」

「私の使い古しよりも新しく購入されてはいかがですか」


 これは誰にも使わせたくない。アルフレッド様とオイル職人の店に行って一緒に作ったものだから。アルフレッド様が好きな蜂蜜に落ち着くと言っていたラベンダーの香り…………あれ、私……?


「それだと間に合わないじゃない。入学式は明後日なのよ」


 えっ、私が好きな香りじゃない? ううん。私も蜂蜜は好きだしラベンダーの香りが落ち着くから使っているだけで……。


 だめっ。認めたくない。だって私は……


「ちょっとお姉様、聞いてるの?」

「ちょ、丁度良かったわ。アルフレッド様が茉莉花が良い香りだって言っていたから交換しましょう」


 お願い! 今はあなたに付き合ってる余裕なんてないの。でも、これだけはやっぱり使われたくないから。だからうまく引っかかって。


「えっ!? 特注ってお兄様が言っていたから、アルフレッド様は蜂蜜が好きなのだと思っていたわ」

「私が好きな香りよ。アルフレッド様は関係ないわ。それから、あなたはアルフレッド様と呼ぶ許可を貰っていないでしょう」

「お姉様が呼んでるのに私がだめなはずないじゃない。まぁいいわ。お姉様の好きな香りなんて興味ないし。ねぇお母様? 私も茉莉花で特注のオイルとクリームがほしいわ」

「そうね。早速手配しましょう」


 お兄様への報告を特注品ってだけにしておいて良かった。


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