9.王都貴族街
あれから約10年の月日が過ぎた。
相変わらず私はアルフレッド様の婚約者のまま。
この10年で1番の変化といえば、自身の事を僕と言って可愛かったアルフレッド様が、いつの間にか近しい人の前で俺と言うようになり、可愛いよりカッコいいが似合うようになったこと。
そう、アルフレッド様が予想通り物凄くカッコよくなってしまったのだ。美しい顔立ちであるのは変わらず、私と変わらなかった身長は高くなり、スタイルもいい。きっと程よく筋肉もついてる。見たことはないけど。
頼りがいがあって仕事ができて、今年の誕生日には王太子になる予定で。
……要するに物凄くモテる。学園の貴族令嬢はもちろん、街に出てもみんなが見惚れてる。
ほら。今だって変装しているのに、みんなチラチラこちらを伺っているし。
「リリー。デート中に考え事か?」
「いえ、この変装でも隠しきれないなと思いまして」
お忍びで王都の貴族街に足を運ぶのは私達定番のデートコース。アルフレッド様は前髪を長くした黒い髪色のウィッグをかぶり、眼鏡をかけ、顔立ちを分かりにくくしているのにも関わらず、そのカッコよさを隠しきれていない。
「気付いていたのか?」
「? むしろフラン様の方こそ気付いておられたんですね」
身バレしないようお互い偽名で呼んでいるけど……普通にバレていそう。
「やはり手に入れるか」
「???」
「何色が似合うだろうか……いっそ俺と同じ黒を用意するか」
「フラン様?」
「確かこの近くにコレを作った職人の店があるはずだ。よしっ、早速準備しよう」
えっ!? 今日は新しくできたカフェに行くんじゃなかったの? クリーム専門店で目玉商品はラップクリーム。恐らく前世のシュークリームと似た物じゃないかって楽しみにしてたのに……。
***
「いらっしゃいませ。あっ、これはこれはフラン様。本日はどのような?」
「ここって……新調されるんですか?」
「彼女にコレと同じ物を用意してくれ」
「畏まりました。では、採寸させていただきますのでこちらへ」
「わ、わたしのですか!?」
アルフレッド様が採寸は女性でないと駄目だと言い張ったので、奥から女性店員を呼んできてもらい、私が採寸されている間に職人と何やら話し合っている。
「畏まりました。色はフラン様と同じ黒、長さは実際と変わらない長さですね」
「ああ。どれくらいでできる」
もしかしなくても私用のウィッグを作るのね。…………なんで?
***
「すまない。機嫌を直してくれないか? どうしても必要だったんだ」
「2週間かかるんです。先にこっちに来ても変わりませんでした。売り切れるなんて……楽しみにしてたんですよ?」
「ま、また来よう? ほらっ、こっちのクリームロールとやらも美味しそうだ」
……確かに。ロールケーキも美味しそう。
「このクリームには栗が使われているみたいだ! 栗の甘煮、好きだろう?」
「好きです」
「そ、そうだろう。……すき、だよな。くり」
「ふふふ」
「わ、笑うな」
本当は持ち帰り、昼食後のデザートに食べようと思っていた。けれど久しぶりに可愛いアルフレッド様を見れたのが嬉しくて、ここで食べて行きたいとお願いした。
「茶葉の種類も豊富ですね」
「また、来ような?」
「はい。連れてきてくださいね? 別の味のクリームロールも気になります」
「そうだな」
そう言えば何で私のウィッグを作ったんだろう?
「気付いていたんじゃないのか?」
気付いてたよ? みんなアルフレッド様に見惚れてるって。
「リリーに見惚れる者が多すぎだ。やはり眼鏡だけでその可愛さを隠すのは無理だったな」
「かっ、可愛い!?」
「どうした。俺はいつも可愛いと思っている」
いつもって……いつも可愛いなんて言わないじゃない! や、やめてよ。可愛いなんて前世含めて言われ慣れてないんだからっ。絶対今顔真っ赤だ。
「はは。真っ赤だな。そんな顔が見られるなら、これからは心に留めず伝えることにしよう」
「や、やめてください……」
「可愛いな」
「アルフレッドさまっ」
それからも散々からかわれ、真っ赤な顔のまま公爵家に戻った。