7話
休日。空と翼は、翼の屋敷の一角にある道場にて、お互いに道着を着て正座して向き合っていた。翼は背筋を伸ばしてぴんとしており、空はやや形が崩れている。空は、相変わらず隈がついているものの、その目は真剣だ。対して、翼はやや不満げな表情をしている。
「……本当は基礎トレーニングから始めるんだけど、空がどうしてもって言うから実戦形式でやるよ。基礎を固めてない分きついと思うけど」
「分かった。やってくれ」
空と翼は立ち上がり、共に構える。翼は空手の型通りの綺麗な構えをとり、反面空は何も習っていないためがさつなものだ。だが戦う意思は込められており、やる気は十分にあるようだ。
「じゃあ、始めるよ」
翼が一瞬目を閉じる。そして開くと同時に意識を切り替え、戦いのスイッチを入れる。
翼の拳が空を裂き、空へ迫る。それを躱すことが出来たのは奇跡的と言っていいほど鋭い一撃で、空の背中に冷や汗が流れる。
「(ちょっと飛ばしすぎたかな。少し緩めるか)」
翼のやや手加減した乱打が空へ叩き込まれる。手加減する、とは言ったもののその打撃は重く、空は腕でガードするのに精一杯でいた。
「(痛い! 腕が痺れる! でも、守ってばかりでもいられない!)」
翼の意図的な隙に、空は拳をり上げる。胴を狙った攻撃は、翼が半身を反らして回避し、空は勢いそのままにたたらを踏んでしまった。
「ふっ!」
「うげっ!」
空の致命的な瞬間を見逃さなかった翼は、無防備なお腹に一発撃ちこむ。翼としては軽く入れたつもりだったが、空には大きなダメージだったようで、その場に倒れこんでしまった。
「おっと。……大丈夫?」
「胃が飛び出そう……」
「続ける?」
「……やる」
ふらつきながらも立ち上がった空は、再び拳を構える。結構な痛みだったろうに、それを堪える空に翼はほう、と息を漏らす。
「(やる気は十分。何のためかは教えてくれなかったけど、本気で強くなりたいみたい。だけど……)」
たった一撃で倒れてしまう程度では、実戦形式で教えても戦えないだろう。やはり基礎を積み上げなくては。翼はそう結論づけた。
「空、やっぱり基礎から始めよう。今の君は弱すぎる。筋トレして、型を覚えるんだ。それが一番いい」
「それは……どれくらい時間がかかるんだ?」
「何か月か、何年か……」
「それじゃダメだ! 今すぐ強くならないとダメなんだ」
翼の言葉を遮って空が言う。今のところは勝利出来ているが、いつ強力な怪人が現れるとも分からない。早急に強くなる必要があった。
「空の事だから、ケンカに使うつもりじゃないって言うのは分かるけど……何か焦ってる? どうしても理由は教えてくれないの?」
「教えられない」
空の頑なな姿勢に翼はため息を吐く。
「分かったよ……。じゃあとりあえずボコボコにするから、後で反省会をしようね」
「分かった」
その後、宣言通りボコボコにされた空は、床の上に寝転がって荒い息を吐いている。反面翼は涼しい顔でノートにペンで指摘点を書いており、余裕が窺えた。それじゃあ反省会をしよう、といった所で、道場の扉が何者かにノックされた。
「ご研鑽中失礼いたします。翼様に連絡です」
扉を開けて入ってきたのは翼の使用人で、翼に近づいて耳打ちをした。
「怪人が現れました。急ぎ向かってください」
「分かった。……空、急用が出来たから行ってくるね。ノートに色々まとめておいたから、落ち着いたら読んで」
未だ呼吸の落ち着かない空の頭の横にノートを置いて、翼は道場を後にした。
現場に到着した翼。そこでは発砲音が響いており、既に警察と怪人が交戦中のようだ。路地裏に隠れ、周りに人がいない事を確認して翼は変身する。装甲戦士カイと化した翼はベルトから銃を取り出し、駆けながら怪人に向けて弾丸を放つ。
「ガメ! 俺様のぶち壊しタイムを邪魔するのは誰だガメ!」
『お前の悪行もここまでだ!』
カメ型の怪人は掴んでいた警察を放り投げると、カイに向き直り唸る。カイはそんな怪人に向けて銃撃を行うも、怪人は手にくっついている甲羅でそれをガードする。
「そんな攻撃効かないガメ!」
怪人は甲羅を前面に構え、カイへ向けて突進。カイは銃を捨て、剣を取り出して応戦する。カイの振りかぶった剣が甲羅と衝突し火花を散らす。
『(硬い!)』
甲羅を使って打撃を与えてくる怪人に、カイは最小限の動きで避けながら反撃をチャンスを窺う。だが隙を見て放った剣撃は怪人の甲羅に阻まれてしまい本体に届かない。カイは怪人を蹴りつけ、大きく距離を取り、懐からアイテムを取り出す。
『だったら、これだ!』
『Gear Change』
熊が描かれたチェンジギアをベルトにはめ込むカイ。ギアの効果で身体が変化し、カイの両手が熊の手のように大きく太くなり、爪が生える。カイは両腕を構え怪人へと走り、大きく振りかぶって一撃を放つ。攻撃は怪人の甲羅に防がれるも、怪人は驚きの声を上げる。カイの攻撃を受けた甲羅にヒビが入ったのだ。
「ガメ! 俺様の甲羅に傷をつけるなんて!」
『このままいくぞ!』
カイの怒涛の連撃に怪人はただ耐える事しか出来ない。その間にも甲羅のヒビは大きくなり、遂には砕け散ってしまった。怪人が大きく仰け反り、信じられないと言わんばかりに両手を見つめている。その隙を逃さず、カイはベルトの歯車を擦るようにして回す。
『Gear Crash!』
ベルトの歯車から全身へエネルギーが伝達し、それが右足へ集まる。カイが怪人へ迫り、勢いそのままに怪人の胴体へ向けて蹴りを放った。
『はああああっ!』
「ガメエエエエ!」
蹴りつけられた地点からエネルギーが迸り、怪人が爆発。カイの手によって、怪人は倒されたのだった。
その後、煙の中から現れた怪人の元となった者がパトカーに乗せられて去っていく様子を見送り、カイは変身を解除。翼へと戻り、一息つく。
「空、まだ倒れてるかな」
友人の容態を心配しつつ、翼は帰路へとついたのだった。




