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4話


 戦士と魔法少女が誕生してから少しした後の事。


 ―――聖桜学園。ここは空と翼が通う巨大学園である。東京都某所に構えたここは全校生徒数百人のマンモス校で、幾多の生徒たちが将来のために勉学や部活に励んでいる。そのうちの1年C組が彼らの通う教室である。


 朝。クラスメート達が賑やかに歓談しているなか、間もなく授業も始まるというタイミングで扉が勢いよく開かれる。そして現れたのは、空と翼の二人であった。


「お、ギリギリ組が来たぞ」


「おーっすギリギリ組」


「おっす……」


「おはよう、皆」


 皆からのからかいの言葉も受けつつ、二人はそれぞれの机に座る。


「最近多いよなー、怪人」


「ああ、今朝も出たんだって? 退治されたみたいだけど」


 怪人。数年前から世界各地で現れるようになった謎の存在。それの首魁であるアクドーイなる組織は世界征服を目論んでおり、そのために怪人を創り出しているのだという。怪人には通常の火器が通じず、警察や軍では対応が難しい。だが同時期に現れたヒーローである仮面の戦士達、魔法少女達が怪人の対抗策として活躍して回っている。空と翼が遅刻ギリギリに登校したのも、今朝出現した怪人を倒したためであった。生徒の言う通り怪人の出現数は年々増加しており、ヒーロー達は対応に追われている。空は目に隈が出来るほど疲労が溜まっているが、翼は鍛えている事もあって余裕がある。


「空、最近疲れてるね。バイトでも始めた?」


「そんな所かな……」


 机に突っ伏す空を翼は気に掛ける。ただのバイトにしては異常に疲れているような気がして、翼は、空が何か隠し事をしているんじゃないかと心の奥で疑いをかける。


「(怪人を倒してるなんて……ましてや魔法少女をやってるなんて、言えないよな)」


 空は疲れた頭でぼんやりと考える。自分が魔法少女である事。怪人を倒しているなんて事。一般人の翼に言えるような事ではなかった。と、空は考えているが、翼も実際には当事者なので見当違いではある。


「席につけー。授業はじめるぞー」


 と、そこでチャイムが鳴り、担任の先生が入ってくる。空達の一日が始まった。


 ―――1限が終わり、休み時間。結局授業の大半を寝て過ごした空。翼は空を心配して話しかける。


「ねえ、本当に大丈夫? 何か危ない事とかしてない?」


「大丈夫だと思う……」


「心配だなあ。相談事があったらいつでも言ってね」


「そうだなあ……」


 心配する翼をよそに、空は再び眠りの態勢に入る。次の怪人が現れるまでに少しでも体力を回復しておきたいと思ったのだ。だが、そんな考えは胸元から響いてきた声を聞いて捨て去る事になる。


(空……怪人が現れました。急ぎ向かいましょう)


 空の首に下げられている星形のペンダント。それが明滅し、空の頭に直接声が響いてくる。その瞬間、空の意識は覚醒し、即座に席を立った。


「空? どうしたの?」


「ちょっとトイレ行ってくる!」


「あ、ちょっと!」


 翼の制止も聞かず、空は教室を飛び出す。そんなに溜まっていたのかな、なんて呑気な考えをする翼であったが、直後に電話がかかってきてスマホに耳を当てる。


『怪人が発見されました。警察は既に出動しています。急ぎ討伐に向かってください』


「……分かった」


 翼もまた席を立ち、静かに教室を後にする。そして学校を出ると、怪人の出現した場所へ向けて真っすぐに走り出した。




「ゲーロゲロゲロ! 侵略者のお出ましゲロー!」


 今回現れたのはカエル型の怪人だった。自慢の舌を伸ばし、周囲の建築物を絡めとっては振り回して破壊活動を行っている。到着した警察達は怪人の対応をする者と住民を避難させる者に別れ、それぞれの職務を実行していた。そんな中、空が現場に到着する。


「お出ましだな……! 変身!」


 空がペンダントを握り、叫ぶ。その姿が光に包まれ、あっという間に魔法少女スターライトへと変身が完了する。ペンダントからステッキを取り出し、星形の弾幕を怪人へ向けて飛ばしながら駆ける。


「警察の皆さんは住民の避難を☆ 怪人の相手は私がするよ☆☆」


「魔法少女か……助かる! 全員聞いたな! 我々は住民の避難を優先する!」


 警察達が離れていくのを見届けた後、スターライトは怪人へ向き直る。怪人は舌を振り回し、スターライトへ怒りを向け叫んだ。


「ゲロー! おのれ魔法少女、俺様の邪魔をしやがって!」


 怪人の舌がスターライトへ鋭く向けられる。スターライトはアクロバティックな動きでそれを躱しつつ、ステッキから星形の弾幕を飛ばし怪人へダメージを与えていく。徐々に苛立ちが募る怪人。


「これならどうだゲロー!」


 今までより勢いをつけて放たれる舌に、スターライトは咄嗟にステッキで防御する。伸びた舌はステッキに絡みつき、スターライトからステッキを取り上げてしまった。


「(しまった、武器をとられた!)」


「ゲロゲロゲロ! 後はじっくりなぶり殺しゲロ!」


 怪人の舌が縦横無尽に蠢き、スターライトを追い詰める。徒手空拳にて戦おうとするも、舌の勢いにスターライトは近づけず、回避する事しか出来ない。ステッキは遠くに捨てられていて、取りに行く事も出来そうにない。進退窮まったスターライト、次第に焦りが募る。


「(どうする……!)」


『しゃがめ、スターライト!』


 後方から聞こえてきた声に、スターライトは咄嗟にその場にしゃがみ込む。現れたのは遅れてやってきたのはカイだ。


『ピニオンガン!』


 カイの叫びに答え、ベルトから歯車の装飾が施された銃が飛び出す。それを掴み、カイは怪人へ向けて銃撃を放った。怪人は舌を用いて銃弾を弾き飛ばしていたが、一部が命中し隙を晒す。その間に、スターライトはステッキの回収へと向かう。


「次から次へと……邪魔をするなゲロ!」


 怪人の注意がカイへと向き、舌を伸ばして攻撃する。カイはベルトから剣を取り出し、応戦。鋭い剣撃が怪人の舌を傷つけ、ダメージを与える。そうして遂に、カイの剣は怪人の舌を切断する事に成功した。


「ゲロォー!」


 自分の舌が斬られた事に驚愕する怪人。その隙を二人は見逃さなかった。


『キラキラ!』


『Spin!』


 スターライトがステッキを構え、カイがベルトのギアを回す。二人の身体を膨大なエネルギーが駆け巡り、ステッキに、右足に集中する。


「スターライト☆シューティングスター☆☆」


『Gear Break!』


『はあああああっ!』


 ステッキから巨大な星が飛び出し、カイが跳躍する。強大なエネルギーを秘めた星が怪人へ直撃し、頭上からカイの飛び蹴りが炸裂。


「ば、馬鹿なゲロオォー!」


 断末魔を残し、怪人が爆発する。煙の中から現れたのは一人の女性で、足を引きずりながらその場から逃走を試みるも、待機していた警察達の手によって拘束され、パトカーへと乗せられていった。


「やったね☆」


『ああ』


 拳をぶつけ合い、互いの健闘を讃え合うスターライトとカイ。かくして、町の平和は二人のヒーローによって守られたのだった。




「帰ってきたな。どこ行ってたんだ?」


「トイレです」


 怪人を倒し、学園へと戻ってきた空。教師からの訝し気な声に適当に答えつつ、席に座る。


「(あれ……翼がいないな。どこ行ったんだ?)」


「すいません、遅れました」


 空が翼の不在を疑問に思ったと同時、教室の扉が開き、件の翼が現れた。


「お前もトイレか? 二人して長かったな」


 教師からの言葉をやはり適当に誤魔化しつつ、翼も自分の席に座った。何食わぬ顔で教科書を開く翼に、空は少しだけ疑問に思った。


「(怪人を倒してた俺より遅く帰ってきた……そんなに溜まってたのか?)」


  ちょっと下世話だな。空は頭を振ってそんな疑問を振り払いつつ、ノートにペンを走らせる。


「(案外、俺と同じでどこかで怪人と戦ってたりして……そんなわけないか)」


 二人の、秘密を抱えた日常は今日も続いていくのであった。

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