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2話-魔法少女ビギニングー


 今日は何となく運がいいな、と呉代空は思った。100円玉を拾ったり(後で交番に届けた)、自販機で辺りが出たり、アイスを買ったら当たりが出たり……小さな事ではあるが、ちょっとした幸運に恵まれているのを感じた。星座占いでランキング1位だったんじゃないか、こんな事なら確認しておくんだったな、なんて意味のない後悔も感じたりした。友人である天道翼と、今日の幸運について他愛のない話をしたりもした。ちょっとだけ運のいい、普通の一日。それで終わるはずだった。


 ―――罰が当たったわけではない。ただ巡り合わせが悪かったんだ。


 学校からの帰り道、まさか怪人を見つけてしまうなんて。


「エービエビエビ……甲殻類の素晴らしさを広めてやるエビ!」


 街中を我が物顔で闊歩するエビに似た怪人を見て、空は咄嗟に建物の隙間に隠れた。見つからないことを祈り、息をひそめる。


「(こんな時……ど、どうすればいいんだ。警察か? 警察で対応出来たっけ? ど、どうしたら……)」


 スマホを手に持ち、迷う空。だが怪人は普通の銃火器は通用しない。警察では到底対応できるものではない。ヒーローもまた、来る様子はなかった。


「どうする……どうすれば……」


 ふと、視界の端で光るものを見つける空。ガラス片か何かが光ったのだろう、それで終わるはずだったのに、空はなぜかそれが気になって仕方なくなった。引き寄せられるように光の正体に近づいてしまう。


「これは……ペンダント?」


 そうして拾い上げたのは、星を象ったペンダントであった。表面は薄く汚れているが、比較的新しいもののように思える。服の袖で軽くペンダントを払う空。


(……たしを……使って……)


「! 何だ……?」


 唐突に響いてくる声に、空は混乱して辺りを見回すも、誰もいない。一体どこから?


(わたしを……使って……)


「このペンダント……なのか?」


 その声は驚くことに、ペンダントから聞こえているらしかった。空は、その声が気になってしまい、じっと続きを待つ。


(私の力を……あなたに……)


「そうすれば……怪人を倒せるのか……?」


「エビィ! そこに誰かいるエビか!?」


「しまった……!」


 悠長に話している場合などではなかった。怪人の声が鋭く届き、空に危険を知らせる。このままでは見つかるのも時間の問題であった。


(あなたに……力を……)


「迷っている暇はないか……やってやるさ!」


 覚悟を決める。空はペンダントを手に握りこみ、瞳を閉じる。そして、自然と頭の中に浮かんだキーワードを叫んだ。


「―――変身っ!」


 空の身体が光に包まれる。髪が伸び、身体が女性らしさを纏っていく。光がフリルのついた衣装に代わり、空の身体を覆っていく。髪は星を象ったリボンにツインテールにされ、胸元には星形のリボンがつけられる。そうして光が晴れたとき、そこには一人の少女が立っていた。宇宙を思わせる深遠の髪に、星形のハイライトの入った大きな瞳。華奢なようで、力を秘めた身体。―――魔法少女の誕生であった。


「(……って! 何だよこれ! 俺、女の子になってる!?)」


 空は内心で驚くも、それが表に反映されることはない。魔法少女になった時点で、その振る舞いに相応しくない行動は自動的にフィルタリングされてしまうのだ。当然そんな事は知らない空であり、内面と外面の違いに驚き戸惑うばかりであった。


「(でも……力が湧いてくる。これなら戦える!)」


 身体のことはひとまず後回し。まずは怪人をどうにかしなければ。建物の隙間から空は飛び出し、怪人の前に立つ。突然現れた少女に怪人は驚く。


「エビっ! 貴様何者エビか!?」


「―――魔法少女スターライト☆ あなたを倒すわ☆☆☆」


「魔法少女……おのれ、いつも我々の邪魔をして! この俺がぶっ倒してやるエビ!」


 怪人がハサミを腰だめに構えると、そこから圧縮された水が飛び出した。スターライトはそれを予知じみた動きでかわす。怪人はスターライトを近づけまいと、水を次々に発射する。―――当たらない。スターライトは卓越した身体能力で次々に水を避けていく。


「当たらないエビ! こうなったら!」


 怪人はハサミをすり合わせ、スターライトに突貫する。そうして突き出されたハサミは、スターライトが合わせた拳によって防がれる。ハサミを振り回して攻撃するが、ことごとくが防御され有効打とならないでいた。


「(身体が軽い……力が湧いてくる……これが魔法少女なのか!)」


「エビ! 一発くらい食らえエビ!」


「食わらないよ☆ あなたごときの攻撃☆☆」


 だが、スターライトもまた攻撃を防ぐばかりで攻撃できないでいるのも事実だ。何か武器はないのか、身体の内に意識を向けるスターライト。すると胸元のリボンが光り、そこから何かが飛び出してくる。それが怪人に当たり、二人の間が開いた。


「これは……」


 リボンから飛び出したものは、星を象った腕の長さほどのステッキであった。それを拾い上げると、ステッキの使い方が瞬時に頭の中に浮かんでくる。知識に突き動かされるままに、スターライトはステッキを振るった。ステッキから星形の弾幕が飛び出し、怪人へと向かっていく。怪人は咄嗟に防御の姿勢をとるも、弾幕の勢いに押されたたらを踏む。


「エビ……小癪な!」


 怪人が距離を詰めてくる。だがスターライトの頭にはもう一つ知識が詰め込まれていた。リボンのあしらわれたステッキの手元にあるスイッチを押す。


『キラキラ!』


 特徴的なボイスと共に、ステッキの星形の部分にエネルギーが集まる。ステッキを正眼に構え、スターライトは叫んだ。


「スターライト☆ シューティングスター☆☆」


 集まっていたエネルギーが解放される。ステッキの先端に大型の星が生まれ、怪人へ向けて飛び出す。


「エ、エビイイイイイイ!」


 星が怪人に衝突し、爆発。怪人は倒されたのであった。煙の中から、怪人の元となっていた男が出てくる。


「ひ、ひいいいい!」


 男が逃げ去っていくのを見送りつつ、スターライトは変身を解く。戦いの高揚感が消え、後には普通だった高校生の空が残った。空は、自分の手を見やる。


「見た目はともかく、俺が怪人を倒した。……倒したんだ」


 ぐっと握られる拳。空は、怪人を倒せたという事実に後から追いつかれ、身体がぶるりと震える。ふと、遠くから聞こえてくるサイレンの音に、警察の到来を知る空。現場にいては面倒な事になりそうだ。空はその場から離れることにした。


 ―――こうして、世界にまた一人の魔法少女が生まれた。その身に大きな秘密を抱え込んで。

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