プロローグ
20XX年。世界には、かつてない好景気が訪れていた!
油田が沸き、レアメタルが見つかり、埋蔵金が掘り出され、それはもう凄い事になっていた!
戦争が終わり、協定が結ばれ、世界はかつてない程の平和が訪れたように見えた……。
だが、悪の芽は潰えていなかった!!
世界中に突如として現れた怪人達。そしてそれを指揮するアクドーイなる組織が、世界征服を目指し活動を始めたのだ。
民衆は逃げ惑い、軍の攻撃も怪人には通らず、世界はアクドーイの手に落ちるかと思われた。
だが、影あるところに光あり。人類にはまだ希望が残されていた。民を守るように立ち上がった、全身を装甲に包んだ仮面の戦士。そして魔法少女たちが、怪人を打倒し始めたのだった!
―――東京都、某所。数分前まで穏やかに過ごしていた住民たちは、今混乱の渦中にあった。
「カーニカニカニカニ! 丑の日にはカニを食え!」
両手の鋏を振り回し建物を破壊して回る怪人。真っ赤な甲羅に身を包んだそれは、蟹をそのまま人間大にしたような姿をしていた。暴れまわる蟹型怪人の前に、数台のパトカーが停まり、中から拳銃を構えた警察たちが姿を現す。
「怪人確認! 発砲用意! ……撃て!」
バン!バン!バン! 拳銃が火を噴き、怪人の身体に弾丸が突き刺さる。だが怪人は気にした様子もなく、依然暴れまわっていた。警察達が悔し気に呻く。
「やはり、通常の火器では歯が立たないか……! 怪人め!」
「住民の避難を優先させます!」
「頼んだ!」
「カニィ!? そいつらにはカニの素晴らしさを分からせるために必要カニ! させんカニよ!」
警察の言葉が癪に障ったのか、怪人は真っすぐに警察達の元へ走り寄ってくる。再び拳銃が発砲されるが、やはり怪人には効果がない。だがそれでも怪人の気を引く事はできる。その間に住民の避難誘導を行っていた。
「っく……あいつらはまだこないのか!? うわっ!」
遂に怪人のハサミが警察達を捉え、振るわれる。怪人の攻撃に警察達が吹き飛ばされていく。攻撃は効かない、自分たちは瞬く間に倒される。打つ手はないのか?
『―――待て!』
戦場に響く唐突な声。そして現れたのは。
「来たか……遅いぞ!」
全身を包む歯車をモチーフにした強化装甲。手には歯車を二つ合わせたような形状の剣が握られている。突然の闖入者は、その歯車を模した瞳で怪人を睨みつけていた。
『怪人め……僕が相手だ! はぁっ!』
「出たな仮面の戦士め! 今日こそ…うおっ!」
戦士と怪人の戦闘が始まる。歯車型の剣とハサミがぶつかり、激しい火花を散らしていく。警察達は二人の戦闘を邪魔しないようにしつつ住民の避難を完遂しており、辺りに二人を邪魔するものはない。思う存分に戦う戦士と怪人を、警察達は固唾を飲んで見守っていた。
『くっ……硬い!』
「カニカニカニ! お前のひ弱な剣じゃ俺の甲羅は傷一つつかないカニ!」
形勢は戦士の劣勢であった。戦士の剣は怪人の甲羅に阻まれ、うまくダメージを与える事ができない。逆に怪人のハサミは徐々に戦士にダメージを与えつつあった。現状、打開策はないように思えた。
そんな戦いを、路地裏から見ている少年がいた。
「……」
少年は学生服に身を包んでおり、身長的には高校生ほどに見える。目にはひどい隈が出来ており、あまり眠れていないだろうことが伺える。ぜえはあと喘ぎ、額にはじっとりと汗が浮かんでいて、緊張しているように見える。
「大丈夫…大丈夫だ…」
少年は呟き、そっと首に下げた、星を象ったネックレスに手を添える。ゆっくりと目を閉じ、そして戦士の逆転に繋がる言葉を呟いた。
「変身っ!」
少年の姿が光に包まれる。女性らしい凹凸ができ、光の上からフリルをあしらった衣装が身を包む。髪が伸び、星型のリボンがそれをツインテールに結んでいく。胸元のネックレスが輝き、形を変えて星を象ったロッドへと変わる。やがて光が晴れると、そこには一人の少女の姿があった。宇宙を思わせる深遠の髪に、星のハイライトの入った瞳。手には星型のロッドを持っており、それがぎゅっと強く握られる。開かれた瞳には決意が宿っており、それは戦士と怪人の戦いをじっと見据えていた。
「……よーし、行くよー☆☆☆」
少年だった少女は、明るい声と共に路地裏から飛び出すと、構えたロッドを蟹型怪人に向けた。ロッドから星形の弾幕が飛び出し、怪人にぶつかる。
「カニィ!? 何者カニ!」
『君は……!』
戦士と怪人が同時に振り返る。怪人は突然の攻撃に苛立っている。せっかく優勢であったのに、邪魔者が入ったからだ。戦士と怪人の顔を見やり、少女はロッドを構えた。
「魔法少女スターライト☆ 参上☆ 助太刀するよ☆☆☆」
少女の―――スターライトのロッドから無数の星が飛び出す。それは怪人の甲羅にぶつかるも、ダメージを与えている様子はない。怪人の顔に余裕が戻ってくる。
「なぁんだ、たいしたことないカニね!」
「どうかな☆」
怪人の身体にまとわりつく星々。スターライトがロッドの持ち手にあるスイッチを押すと、それらが順々に輝き出し、やがて大きな音とともに破裂する。
「カニィ!」
突然の爆発に怪人も驚愕を隠せない。そして煙が晴れると、なんと怪人の甲羅にヒビが入っていた。星の爆発は怪人にダメージを与えられたのだ。スターライトが仮面の戦士に振り返る。
「今だよ☆」
『任された!』
『Spin!』
戦士が剣の歯車を回すと、剣から電子音が聞こえてくる。それは剣にエネルギーが込められた合図であり、すなわち必殺の合図でもあった。
『はあああ……はあっ!』
『Gear Break!』
戦士が剣を振り下ろすと、歯車状のエネルギーが二つ剣から飛び出し、怪人に向かって飛ぶ。星の爆発の衝撃で動けないでいた怪人はただうろたえることしか出来なかった。
「カ、カニィー!」
二つの歯車が怪人を挟み込むようにして迫り、衝突。巨大な爆発を持って怪人は倒されたのだった。煙の中で、怪人の元になっていた男が地面に転がる。
「確保ー!」
「ご協力、ありがとうございました!」
戦士とスターライトが見やる中で、警察達の手であっという間に拘束される怪人だった男。そのままパトカーに乗せられ、警察達は去っていった。戦士とスターライトが互いを見る。
『ありがとう。また助けらちゃったね』
「気にしないで☆ じゃあ私はこれで☆」
ピッと決めポーズをとったスターライトはその場でロッドを振るうと、何もない空間から現れた星形の乗り物に乗ってその場から飛び去る。しばらく空を飛んでいたスターライトは、人目につかないところに降りると胸元のペンダントに触れる。同時に変身が解除され、魔法少女スターライトは、元の少年の姿へと戻った。少年は、興奮を抑えきれないといった様子で身体を震えさせる。
「よし……今日も、”カイ”と喋れたぞ……!」
『今日もなんとか勝てたけど……もっと強くならないと』
一方の戦士もまた路地裏に隠れ、三つの歯車からなるベルトに手を添える。中央の歯車を取り外すと、戦士の変身が解除される。中から現れたは切れ長の瞳を持つ、中性的な見た目の少年? であった。
「もっと鍛えないとな……そのために」
少年? は路地裏を飛び出し、勢いのままに街中を走り抜ける。今日も街を守れた事を誇りに思い、高揚感と共に。
「まずは、走り込みだっ!」
―――普通の少年、呉代空はある秘密を抱えている。それは自分が魔法少女スターライトであることだ。
普通の少年?天道翼はある秘密を抱えている。それは自分がマスクドヒーローカイであることだ。
二人は秘密を守りながら、今日も街を守っている。
これは、怪人と戦士と魔法少女が戦いを織り成す世界での、ある二人に焦点を定めた物語である。