落胆なんてしませんとも!
「そうでしたか。それでは、私共が王子殿下にお伝えに行ってまいりますので、そちらの木陰でお待ちください。」
その後ろ姿を眺め、その背中が小さくなっていったのを見計らい、未だ私に興味津々といったようすの視線を向けてくる騎士たちに微笑む。
「こんにちは、騎士様方の訓練を見させていただきましたが、さすが王宮の騎士様。私、とても感銘を抱きましたわ!」
なにも、攻略対象の好感度を稼ぐ方法は攻略対象に会って行動を起こすことだけではない。
周囲からの外聞というものも、攻略への一歩。
使用人の方や、こうした王宮で役職につく方の評価一つ一つも、好感度につながるのだ。
……きっと。
「「「お褒めいただき光栄です!アリシア様!!」」」
先ほどの必死の媚び売りはなんとか成功したらしく、その場にいた大勢の騎士たちが声をそろえた。
「アリシア様。お連れいたしました。」
と、ちょうどよく先ほどの騎士が戻ってきたところだった…王子殿下を連れて。
深緑を思わせる艶のある髪。優しげに細められた目は頭髪同様、深みのある緑をしていた。
見た目も最高でおまけに性格も完璧…攻略対象者としてこの上なく優良物件。
「王子殿下に拝謁いたします。」
ぺこりと淑女の礼を取り、最大限の敬意を見せる。
公爵令嬢という肩書きなため、王族以外に、私以上に高位な人にこうして畏まった礼を取ることはあまり少ない。
あっているか不安だけれど…
ここまで気を張るのも、ひとえに王子殿下が誰にでも等しく優しく、慈悲深いという面もあるが、礼儀に厳しい面も兼ね備えているためだ。
だが、そんな心配は杞憂に終わった。
にこっと優しげに微笑んだ王子殿下は
「君がアリシアだね。挨拶のために来てくれたそうだけれど、そんなこと、気にしなくていいんだよ。」
と、むしろこちらを気遣うような声音で言った。
こちらから伺うべきだったね、と苦笑する姿からは私の礼儀作法により不快感を感じた様子などは微塵もなく。
これぞ、王子か……
アリシアを感動させるには充分だった。
やっと出会えた攻略対象者……前回落胆したときからの格差!
最高です……