なるようになれ
「屋敷の中にしばらくいるのは飽きたの。一緒に旅行でもどう?」
さらっと朝の日差しを浴びて輝く髪が風に靡く。
ベランダに出てぼんやりと外の光景を眺めながら言った彼女の言葉は、拍子抜けするものだった。
突拍子もないな……
オルデアはそんなことを思いつつも、彼女と元の……いや、それ以上の関係になれたことに嬉しさを噛み締める。彼女を連れ去ってから早一ヶ月。
今の所、追手のようなものには遭遇していない。それもそうだろう、ここは別邸。それも隠された場所だ。そう簡単に見つかるわけがなかろう。
そんな安心した日々を過ごしていた最中の発言だった。
一ヶ月という決して短くない時間を共に過ごしたシアは、かなり慣れたのか、今では自室のようにオルデアの執務室で過ごしていた。
「どうしたの?どこか行きたいところでもできたのかな?」
すると、シアはベランダの外に向けていた視線をこちらにちらと寄越した。
「海の街…行ってみたんだ。逃げない?一緒に」
にかっと普段見せないような幼さを含んだ笑顔を浮かべたのだった。
ざざぁっ……と波が押し寄せては引いていく。
そんな光景をぼうっと眺めていた私は、オルデアにかけられた声でふと我に帰った。
「どうしたの?オルデア。」
「丁度売られていた屋敷があったから買い取ってきたよ。兄さんの従者が先に行って待ってるはずだ。」
そう言ってオルデアが馬車へ私を乗せるべく手を伸ばす。その手に慣れたような動作で掴まり、馬車へと乗り込む。周りを海に囲まれた国、海の国とも呼ばれるこの場所は、海を始め人々の生活を囲むそのどれもが綺麗な青色をしていた。
さぁ、逃げた先は隣国。さらに距離が離れたのだから、レイに捕まるなんてあるわけがない。レイが辿り着くまでの制限時間を伸ばせたのだから、ここではゆっくり羽を休めるとしよう。
そうして、オルデアとの一夏の旅行が始まったのだった。
「こちら、青薔薇のシャーベットです。」
ことんとテーブルに、青い薔薇を模した飴細工が乗せられたシャーベットが置かれる。
対するオルデアの方は黄色のシャーベットが置かれる。
海に面したそのカフェでは、ガラスのドーム上の天井からは陽の光が眩しいほど降り注ぎ、ガラス越しに見える海は青々と涼しさを感じさせた。
「綺麗だわ……こんなの、ここに来ないとみられなかったでしょうね。」
ここにスマホでもあればさぞ映える写真が撮れただろうにと歯噛みしながら、せめて目に焼き付けようとじっとシャーベットを見つめる。
絶対に…焼き付ける……!このシャーベットだけじゃなく、この周囲の非現実的とまで言える景色の隅々、細々としたものまで全て!




