申し訳ない…
「おはようございます、アリシア様。」
お馴染みの私のお世話係のメイドさんが起こしてくれる。
ここではお馴染みになった光景だ。
私の頭を散々に悩ませた舞踏会から3日が経った。そう、攻略対象者とも、レイにも会うことはなかった。
「そうでした、そういえば、アリシア様にお手紙が届いておりますよ。」
そう言って差し出されたのは一通の手紙。
青いワックスに猫の印字が彫ってある。
誰だろう?アリシアの記憶を辿ってみても、手紙をやり取りするような中の人はいなかったはず…
封を切って、中の便箋を取り出してみる。
便箋は一枚。
内容ははっきり言って、みたことをこうかいするものだった。
要約すると、私に婚約を申し込みたいという書信だった。
これって、もしかしなくても、レイからなのでは?
宛名が隣国の王太子の名前だったのは、見なかったことにしたい。レイが隣国の王太子であるということに疑問は尽きないけれど、そこよりも…
婚約を申し込むだなんて……攻略対象者の攻略どころか、隣国にお持ち帰りされてしまうんですが!?
隣国の、しかも王太子からのこんやくとなっては、公爵令嬢になりたてでまだ地位も名声も何もない私には、断る権利なんてない。
そうだ。ここは婚約のお返事を考えさせてもらうという体で少し猶予を貰おう。
その間に攻略対象者と婚約を結ぶことができなければ、断る口実はつきてしまうけれど、ここは大きな賭けに出るしかない。
今後の目標は、逆ハーレムルートを死守するため、攻略対象者と婚約を結びたいと思います……。
婚約と言っても、イベントのうち数個は起こさないと、婚約までたどり着けるぐらい、好感度を上げることができない。
まずは遭遇することが第一位の目標。
ともすれば、せっかく王宮という身近な場所にいるのだから、舞踏会で接触を図ろうとして失敗した王子殿下を探そうかな。
「すみません、王子殿下がどこにいらっしゃるかご存知ですか?先日の舞踏会でご挨拶ができなかったので、改めてさせていただければと思いまして。」
にっこりと淑女の笑みを浮かべながら、今日も今日とて忙しく働く使用人の一人を捕まえる。
「そうですねぇ…」
そうして尋ねた使用人は、少しの間考えるそぶりを見せたあと
「この時間はよく、剣術の稽古に行っていらっしゃいますよ。」
と、有益情報をくれた。
この人も、私の言い訳を信じて素直に話してくれたのだろう。
本当はあなたのところの王子殿下を落とそうと画策しているだなんて思いもしないんだろうな……すみません。