こんなの、計画にないのに……
だが……
閉めたテラスの扉をがっと掴まれ逆に開かれてしまった。
「えっ…」
「まってくださいよ、今朝、談笑した仲じゃないですか?」
にこりと微笑みを浮かべながら、変人が近づいてきた。
「いえ、人違いです。今朝は私、一方的に変な人に話しかけられただけであって、誰とも談笑などしておりません。」
しまった……!返しに失敗してしまった…これでは、いくらこの人が変人であろうとも、さすがに自分が変人だと言われていることに気づかないわけがない。
何を言ってるんだろう。私…
失言に一人頭を頭を抱える私に、なおも微笑みを絶やさぬ変人が首を傾げ尋ねる。
「面白い人ですね?昼間の様子からして十分に興味のそそる存在だとは感じておりましたが、まさかこれほどとは……」
この方、なんだか私を動物か何かだと思っているのだろうか。興味をそそるとは?
「なんですか…?」
どうにか取り繕うと努力したけれど、若干、この人に向ける視線が怪訝なものになってしまったのは許してほしい。
「お嬢さん。名前は?」
その切れ者そうな見た目に反して随分と頭のネジの外れた方はそう問うてきた。
「シアとでも呼んでください。」
正直、愛称を呼ばせるのは癪だが、本名を知られるのも嫌なので、愛称を名乗る。
「そうか、僕は……そうだな、レイとでも呼んでくれ。」
変人、もといレイはそう言って人の良さそうな笑みを浮かべ、私の手を流れるように取った。
「シア。君は本当に面白い。僕が探していたひとそのものだよ。僕と結婚してくれないかな?」
「……は?」
だめです。この人はお酒にでも酔ってしまわれたようです。
「無理です。すみません、それでは。」
逃げます。こんなおかしい人の近くにはいられません。
背後からただならぬオーラを感じるも、気付かぬふりをして人の多いところへ。
ダメだ。攻略対象者を攻略するとか、そんなことよりもまずは、あのレイとかいう名前の変人をどうにかすることが先決な気がしてならない。
本当に、どうすればいいんだ……
こんなの、計画にないのに……
途方に暮れる私を他所に、絢爛豪華な会場は人々の楽しげな声や軽快な音楽とともに、ゆったりと時間が流れていったのだった。
次回の投稿は2/28となります。投稿話数は変更のおそれがあります。申し訳ありません。