考えてはいけない…その意義を
ざあっと長い髪を風がさらっていく。木の葉が風に流れ、風とともに甘い花の匂いが鼻腔をくすぐる。
見渡す限りの花々は、まるで夢の世界のようで。
どこか浮世離れた様子に思わず見惚れてしまう。
森をしばらく、あてもなく歩いたが、この花畑はどこまでも続いているかのように、途切れることなく私の目を楽しませた。
うっすらと甘い花の香りと温かい日差しに包まれ、今にでも眠ってしまいたいぐらいだ。
てっきり、ここは元々いたあの森と近い場所かと思っていたのだが、とてもではないが似ても似つかない場所に、もしかするとあの鬱蒼とした森とは遠い場所へと転移したのではないかと思ってしまう。
空を見上げれば、暖かい日差しが降り注いでくる。
太陽の位置も変わらず頭上に……変わらず?
ここに来てから体感2時間ぐらい経ったはずだ。なら、明らかに変わっていないのは、どういうことだろう。勘違いではないはず。明らかに太陽の位置は変わっていない。
……となると、ここは時間の概念がないのだろうか。よくゲームや漫画で見る、異空間というやつ…?
「なら、ここから抜け出さなきゃいけないってこと…?」
私は、新たな事実に呆然と立ち尽くすしかなかった。
あの絶望から数十分。
呆然としながらも歩き続けた後に、花の色が変わる場所があった。
ここは…?
白一色の花々は紫に薄く色づいている。
足元が紫に変わっていく。
と、大量の花弁が風に乗り、ぶわっと目の前を通り過ぎていく。
花びらのカーテンが開いたとき、目の前にそれは現れた。
見上げる限り続く長い塔。
少し遠くから眺めている限り、簡単には登り切ることができないだろうことがわかる。
塔の屋根は薄く紫に色付いており、まるでここ一体に咲いている花のようだった。
ところどころ、蔦が巻き付いていて、欠けている部分がある塔は、人の手入れがされていないように見えた。
そもそも、ここに人が来るのかすらわからないけれど。
ぐらっと傾きかけた体を柵を使って支える。
肩で息をするも、思うように空気を吸えない。
こ…れは……やばい…かも
私の肩ぐらいの背丈の柵を掴み、落ちないようそっと下へと顔を覗かせる。
すると、私が元いた場所などはるか遠く、紫の花がまるで絨毯のようだった。
長いというのは、塔を少し遠くから眺めたときと本の内容でわかっていたけれど…正直、なめえいた。
普段ここまで動くことなどないだけに、かなり体力を消耗されられた。
こんなことなら、もう少し休憩を挟むべきだった…
後悔しても遅く、疲労は蓄積するばかりで簡単には回復しない。
ここは仕方ないと割り切って、今度は下ではなく周囲を見渡す。
あの本の少女はたしか、周囲を見渡していたのよね。そこで描写は終わってしまったから、そこからなにがあったのかというのはわからないけれど、とりあえず見渡すという行動はヒントになり得る。
ぐるりと見渡すと、私が来た方とは反対になる場所に、湖のような場所を見つけた。
念の為と見渡してみるも、そこ以外になにかあるということはなく、延々と花の道が続くだけだった。
とりあえず、そこへ向かうことにするしかないようね…
もう少し下を探検していれば、探せたかもしれない場所……ここに登った意味はあったのだろうか。
思わず危ういことを考えてしまって、慌てて思考を逸らす。
この無意味な…いや、もしかしたら意味があったかもしれない行動の意義について考えたらおしまいだ。
ふるふると首をふり、考えを打ち消しながら、私は花畑に戻るべく、長い長い階段を降り始めたのだった。




