厄介事
「お帰りなさいませ。レイ」
城について早々私の元へ訪ねてきたレイに特に感情を込めることなく淡々と形式的に挨拶を交わす。
けれどもそんな私の態度にすらレイは嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
「あぁ、ただいま。僕の婚約者様。」
どこか芝居がかった態度で返すレイ。
だがその表情はすぐ真剣なものとなった。
「すまない。視察先で問題が起こったんだ。婚約式は延期にして、当分はそこの対処に当たることになる。」
あぁ、これは帰国がまだ先になりそうだ。
レイは平然と述べたが、その言葉の重みは私の中ではかなり重い。
なぜなら、婚約式までの期間の延長それすなわち結婚の延期でもあるのだ。それでは契約にある通り、私の身の自由もきかない。本当に、厄介な…
そんな風に内心呆れていると、その心情が表情にまで出ていたのか、私の視線を受けてレイは笑った。
「ごめんね。あと、怒らせてしまうかもしれないんだけれど…」
「なんです?怒らせるとかいいので早く言ってください。」
「その問題への対処に君も来て欲しいんだ。」
「へ?」
どうやら、持ってきたのはただ厄介なことではなくかなり厄介なことだったようです。
ガタガタと舗装のままならない道を馬車が行く。
窓から覗くのは広々と生い茂った木々。
隙間から降り注ぐ木漏れ日を除いてしまえば、光は全くと言っていいほど届かない。
そんな森も深い場所。
そんな場所に私はレイと共に向かっていた。
一体なぜこんなことに…?
本当に理解ができない。
私は特になにか問題解決に秀でた能力を持っている…だとかそんなことはない。
そんな私をレイが言う「問題」の解決に駆り出す必要はあったのだろうか……?
釈然としないものの、一国の王子からの命令…しかも婚約者(仮)となる人には従わずにはいられないだろう。
「目的の場所につきました。」
騎士が開いた馬車の扉。
その扉越しには鬱蒼とした森がどこまでも続いていた。




