素直な攻略対象者ともううんざりな展開
「こんばんは!オルデア様。」
またもや古びた屋敷の扉の前。
古びた屋敷の扉に似つかわしい腐ったような見た目の木の扉。
その扉にノックをしながら声をかける……と声が返ってくるのは案外早かった。
「シアちゃん……!」
ぱぁぁっと顔を輝かせたのは犬……じゃなくてオルデアだった。
犬と勘違いしてしまうほどに、慣れたら人懐っこいというか……
それはさておき、昨日の会話であっという間にアリシアでなくシアと呼んでもらえる関係性に進展したのは、かなりの進歩と言えるのではなかろうか。
私、ゲームでもここまで早く好感度を上げることはできていなかったよ……
少しそれかけた思考を戻して目の前のオルデアに意識を戻す。
なるべく、優しげな笑顔を心がけて……
「お父様を説得できたこと、手紙でお伝えすべきだったのですが、実は……」
少し手を組みながら、俯き加減で言葉を紡ぐ。
これは照れているのではない。決して、ゲーム内でのセリフをほぼなぞるかのような状況に恥ずかしがっているのではない。
ただの塩らしい様子のための演技である。
「私、オルデア様にまたお会いしたくて……」
いい口実でしょう?とこてんと首を傾げる。
その途端、一気にオルデアの頬が上気し、あたふたとし始めた。
これぞヒロインのスペックを最大限活かした技です!
ぶりっこ?そんなのは知りません。
もう……私は婚約回避のためには手段を選んでいられないのだ。無念。
「シアちゃん、今日は楽しかったよ!ありがとう。」
だいぶ夜も深くなってきた頃、周りに人がいないことを確認して外へ出る。
来た時よりも冷え込んでるな……
思わずぶるっと身震いしていると、オルデアがそっと上着をかけてくれる。
「僕の使っていいよ。だけど……」
オルデアが少し顔を俯かせる。
その耳は赤く染まっていて……
「今度来た時に返してくれる?」
口ごもりながら紡いだ言葉はゲーム内で聞いたことがあるセリフのはずなのに、どこか甘く感じられた。
「う……」
しかし、返そうとした言葉は上手く言葉にすることは叶わなかった。
「あれ?」
突然後ろで聞こえる声。
「こんな夜に男女が二人……しかも、立派な貴族令嬢たるものがどうして……」
その声を聞いた途端、私の背に嫌な汗が伝う。
この声って……
あぁ、変人さんですか。