魔女裁判をブチ壊せ!!
「やいっそこの性根の腐りきった老木どもッ!」
突然態度を豹変させた僕の挑発に、指差された鈴盛土一家の眉がピクリと跳ね上がる。
「お前らのネチネチしたバイキンマンが他の木を枯らす前に、僕がこの場で叩っ切ってやるから…覚悟しろッ!!」
あえて幼稚な言葉を選んだのは、そのほうがコイツらを苛立たせるには有効だと踏んだからだ。てかたぶん単純バカだから皮肉も通じないだろうしね、ヘヘンッ♪
苛立ちが募れば人はより冷静さを欠き、ボロを出し易くなる。特にこの手の絶対的権限を過信している連中には、それを軽視する傾向が強いからな。
…その過信が命取りだってことを、今から嫌というほど解らせてやるよ!
「フンッ、わざとらしく包帯なんぞ巻きおって」
「どうせ仮病ザマス。こんな小さい子達ではアータの頭には届かないザマス!」
「そもそも、ここで付いた傷とは限らんだろう!」
ほれ、さっそく僕の怪我を無かったことにしたがってるぞ。
「え、えーそれにつきましては…傷の治療と包帯を巻いたのは私でして、けっこう酷い状態でした。本来なら病院で精密検査等を受けるべきかと」
養護教諭がすかさずフォロー。ごまかしようがない事実についてはちゃんと擁護してくれるようだ。
「げ、現場には血のついた金属製の廃材が落ちておりまして、あの長さであれば児童の背丈でも充分届くと思います、ハイ!」
体育教師も緊張しつつも僕の肩を持つ。まだ若いながらも教育者の道義的責任として、見たことを見なかったことにはできないのだろう。
「患部の写真もありますよ。ホイ♪」
会議室正面のスクリーンに、昨夜ナミカさんが撮影してくれた傷口の写真がデカデカと投影される。いつの間にか準備を整えていたらしい。
それにしても生々しい。自分ごとながら、こんなに酷かったのかと血の気が引くレベルだし、来場者の大半は口を押さえたり目を背けたりしている。
「犯人は…まあ、命令されただけだと思うので誰とは明かしませんが…この中にいますね」
昨日僕を背後から殴りつけた少年にそれとなく視線を送りつつも、あえてシラを切る。
可哀想に、加害者はあからさまにブルブル震え出し、それを両親が大丈夫だからと宥めている。せっかく伏せてあげたのに、誰が見ても一目瞭然だ。
「なんってムゴイことをっ!? それくらいの些細な怪我で、こんなに小さな子を悪者に仕立て上げて…! アータには人の心ってものが無いザマスかッ!?」
うぉいっ、人の心が無いのはどっちだBBA!?
今の画像を見た直後に、よくもそんな口がきけるな!?
「それを言うなら、そちらの怪我の実態はどうなんですか? 僕が彼を殴った場面は大勢が目撃してますけど、口の中が切れた程度で、そんな大きな外傷は無かったはずですよ?」
大げさなガーゼが貼られたリヒトの頬を指差す僕の言葉に、体育教師が一つ大きく頷いてから、慌てて周囲を見回して体裁を取り繕っている。
「まーまーなんてこと!? こ〜んな大怪我をしてるリヒトちゃんを疑うザマスか!?」
ほら、案の定うだうだ文句言って傷の公開を拒むつもりだな?…と思ったら、
「構わんッ!! リヒト、見せてやれ! コイツがしでかした事の悲惨さをッ!!」
あれ? ジモンの号令一下、リヒトが面倒臭そうにガーゼを剥がすと…なんと、まだ真新しい傷がたしかに現れた! バカな!?
擦痕…要は擦り傷の酷いやつだが、頬骨のあたりの皮がズル剥けて肉が見えている。
僕の裂傷ほどではないにせよ、被害者が小学生という点を考慮すれば充分痛々しい。
しかし僕が殴ったときには勿論こんな傷は無かったし、たとえ目につかなかったにせよ後で広がったとも考えにくい。
…まさか…リヒトのやつ、わざわざ後から自分で付けたのか!? 僕だけに傷を負わせたら一方的に責め立てられると見越して!?
なんてズル賢いヤツ!!
「ほら見ろッ、これでもケチを付けるつもりかキサマァッ!?」
ふんぞり返って勝ち誇るジモン。だがしかし、
「…ちょっと待ってください!?」
場を鎮めたのは意外にも養護教諭。なんらかの疑問を抱いて、無我夢中で止めたようだ。
顎に手をあててスクリーンを凝視する彼女の眼鏡がキラリと光る。
「この傷の付き方は、明らかに変です!」
◇
「アァッ!?」
チンピラのように噛み付くジモンの隣で、リヒトがギクリと顔をしかめていることにも気づかず、養護教諭は僕に問いかける。
「潮くん、貴方はリヒトくんをどう殴りましたか?」
なかなかに答えにくい質問をストレートにぶつけてくるものだ。
「ええっと、咄嗟のことだったのでよく憶えてませんが…彼の横っツラを思いきり殴りつけたら、予想外にすっ飛んでしまったことに驚いて
…起き上がった彼が血反吐を吐きました」
「そのとき、この擦り傷は?」
「…有りませんでした。先生も見てましたよね?」
体育教師に同意を求めると、慌てた彼はしきりにコクコク頷き返した。
「なら、この傷は貴方が付けたものではありません。」
断言した養護教諭に場内が騒然となる。
そして鈴盛土一家が反論に移ろうとするよりも早く、
「この二人の身長差を見てください」
高校二年の僕は身長百七十センチジャスト。
対する小学四年のリヒトは百三十センチ前後。
二人とも同年代のほぼ平均身長で、その差は約四十センチ。僕がかなり上方からリヒトを見下ろす感じになる。
「それでリヒトくんの頬骨の位置を狙うには、頭上から拳を振り下ろすか、あるいは真横から振り抜くか…。
潮くん、ちょっとやってみてくれます?」
「は、はい…?」
ワケもわからず言われた通りに二通りのポーズを披露すると、
「やっぱり…前者の場合は拳が頬骨に引っ掛かり、その下には達しません。従って傷は頬だけに留まり、口内に付きません」
養護教諭の推測に再びどよめく場内。
「そして後者の場合はヒットの瞬間、口内の肉が歯に当たって裂傷を起こしますが…頬骨の位置からは拳が遠いため、これほどの擦痕が付くことはあり得ません」
三たびのどよめき。なかには自身で試してみて、彼女の説明の正しさを確認している人もいる。
「従って、この擦痕はいずれにせよ、まったくの捏造であると断言できます…!」
スゴイなこの養護教諭!? 正直、頼りない新米教諭と見くびってた、ゴメン!
「ふざけるなァッ!! ならこの傷は誰が付けたと言うんだァーッ!?」
怒り心頭なジモンが息子の擦痕を指差して吠えると、養護教諭は今さら我に返って震え出しつつも、
「ほ、頬骨は頭蓋骨と同程度、人体でもとりわけ硬くできてます。それを素手で傷が残るほど殴りつければ、手首の周囲にもいくらかのダメージは免れません。
潮くんの手に何ら問題ないのはご覧の通りですけど…」
養護教諭はスイッと片手を上げて、とある人物に人差し指を向ける。
リヒトのそばに着席した、連中のなかではいちばん背が高い…昨日アサヒちゃんを殴りつけた、あのヤンチャな少年に。
「…キミ、その手はどうしたんですか?」
テーブルに頬杖突いてつまらなそうに成り行きを眺めていた少年が、慌てて両手を引っ込めたが、時すでに遅し。
その片手の甲には、大幅の湿布がベッタリ貼られていた。
な〜るほど。リヒトのやつ、あの後コイツに痕が残るように殴ってもらったんだな?
自分で身体に傷を付けるのはなかなか難しいものだし、コイツのガタイから繰り出される一撃ならあれくらいの傷は朝飯前だ。
でも直前に口内を切ってるから、痛くないように殴る場所をズラしたのが裏目に出たようだな。所詮は子供の浅知恵だったか?
「こ、これは…あっそーだ! 昨日プールで泳いでたときに…」
「キミとは昨日プールでも顔を合わせたし、その後も散々お世話になったよな。その時には、そんなの貼ってなかっただろ?」
「オ、オレがテメーに何かしたかよ!?」
やれやれ、つくづく礼儀のなってないクソガキどもだな。
「いいや、僕のほうじゃなく…アサヒちゃんがね」
ここで待ってましたとばかりに僕はナミカさんに目配せして、クラウドに残っていた壊されたスマホの撮影動画をスクリーンに投影してもらった。
羽交締めにされたアサヒちゃんを、コイツが罵詈雑言垂れ流しながらお乳を揉みさくる衝撃の光景が衆目に晒された。
「あ、あぁ…!?」
顔を真っ赤にした少年は、ユウヒやナミカさん他大勢の白い視線に切り刻まれて一網打尽。
そんな彼に、隣に座った父親が「貴様という奴は!?」とゲンコツの雨を降り注がせている。
このオヤジもマスコミでよく見る顔だな。地元の大手ゼネコンの会長で、これまた何かと黒い噂が絶えない人だ。
それがこの場にいるってことは、やはり国会議員様とはズブズブの関係だったか…。
「わ、わかったからもぉやめてくれよぉ!?
リヒトくんに頼まれたんだよぉ、痕が目立つように殴ってくれってぇ〜っ!」
ガタイはデカくてもメンタル面は年相応かそれ以下の彼は、涙ながらにあっさり自供。
よしっ、これで僕らの訴えが俄然有利になった…かと思いきや、
「フンッ、それがどーしたザマス?」
この期に及んでマリアが信じ難い開き直り!
本当になんなの、このモンスターペアレンツ?
◇
「そこの暴力生徒会長が宅のリヒトちゃんを殴ったのは事実だし、逆にリヒトちゃんがそっちに暴力を振るった事実は確認できないザマス!」
たしかにマリアの言う通り、ここまでに提出した資料ではリヒトが直接手を下した証拠は何一つ確認できない。
そもそも僕を殴った犯人やアサヒちゃんを痛ぶった犯人はすべて別人だしな。
「…オイッそこのチビ二人ッ!」
『ひゃっ!? ひゃひゃひゃいっ!?』
突然ジモンに指名され、呂律が回らないキーたんとアカりん。そういやキミ達も呼ばれてたんだっけ。
「お前らはどこまで見ていた?」
「え、えとえと、アオぽん…アサヒちゃんがリヒトくん達に連れて行かれて…」
「リヒトちゃんが連れて行った…本当ザマスか?」
「あ、あのその…リヒトくんはそばで見てただけで、実際に連れて行ったのは他の子達ですぅ」
しどろもどろながらも二人はあの時見たままを正確に報告する。
「その後、あたし達はユウヒお姉様…アサヒちゃんの姉さんが来るまで待ってて、それから体育館裏に行ってみたら…」
「…いったい何を見たザマスか?」
「あのあのっ、アサヒちゃんのスマホが壊されてて、お兄さん…潮リョータさんが倒れてて、そしたら…そしたら…」
「正直に言うんだァーーーッ!!」
『あヒィーーーーーーッ!?』
突然大声で怒鳴りつけたジモンに恐れをなした二人は座席から飛び退いて互いに抱き合い、
「お兄さんがリヒトくんを殴り倒しましたァ〜〜〜ッ!!」
それだけ答えるとワンワン泣き出してしまった。
こんな小さい子達を泣かせてまで情報提供を強いるなんて、トンデモネー連中だな。
でも連中の狙い通りの客観的状況証拠は得られた。
すなわち、ここまで聞けばどうしても僕が、なんら悪事は働いていないリヒトを一方的に殴ったようにしか思えない。
彼女達の目を通して見ればたしかにその通りなんだろうから、二人には何の罪もないけど…
あくまでも僕を悪者に仕立て上げて、連中側の罪をすべて不問にさせるつもりか。
…そう上手くいかせてたまるか!
「じゃあコレはどうですか?」
僕は次の撮影動画を再生してもらう。
そこには…リヒトが先程の少年達ごとアサヒちゃんを突き飛ばした後、僕のスマホめがけて蹴りを放つまでの光景が克明に記録されていた。
それまでのイメージとは打って変わった荒々しさを剥き出しにしたリヒトの素顔に、場内が驚愕の空気に包まれる。
さすがの鈴盛土両親もこれには面食らい、ジモンはいまいましげに舌打ちし、マリアは信じられないといった顔で愕然としている。
そしてリヒト本人はバツが悪そうにそっぽを向いたままだ。
ところが…
「…よくやった、リヒト!」
ここで今度はジモンが信じ難い発言連発!
「お前はそこのヤンチャ坊主が、その娘をイジメていたのを体を張って止めたんだろう?
それから盗撮などという姑息な手段でいかがわしい撮影をしておったハレンチなクソガキのスマホを仕方なく壊した。すべて正当防衛だ」
なんたるムシのいい曲解!?
とはいえ前半の説には僕も同意だったから、あながち間違いとは言い切れないのがニクイ。
だがジモンのアクロバティックな弁護はそれだけにはとどまらなかった。
「…むしろ諸悪の根源は、コイツら二人だ。
そこのヤンチャ坊主とクソガキは、お前を陥れるためにグルになっていたんだッ!!」
はぁ〜〜〜〜〜〜っっ!!??
政治家の玉虫色の発言はいまに始まったことじゃないけど、ここまでマジョーラカラーなトンデモ解釈はまさに前代未聞!
ツッコミどころ満載すぎて開いた口が塞がらない。
「鈴盛土さん、いくらなんでもそれはあんまりじゃ…」
「っるさいッ!! 貴様は黙ってろッ!!」
慌てふためくゼネコン会長を一喝すると、ジモンは席を蹴って立ち上がり、
「これ以上の茶番はもう沢山だッ!!
お前ら、いつまでもボサッと見とらんでサッサとこやつらを取り押さえろッ!!」
時代劇のラストでよく見かける開き直り悪代官そのまんまな態度で、部屋の各所で待機していた警察関係者を怒鳴りつけた。
あまりにも御無体な事態に彼らは躊躇するばかり。なのでこちらも負けじと、
「こっちは裂傷、そっちは擦り傷…どちらがより重症かは一目瞭然ですよね?
擦り傷程度じゃ人は死にませんが、後頭部は下手すりゃ死んでますよ?
それを差し置いて、未成年の僕を逮捕とか…日本の警察はそこまで堕落してるんですか?」
会場からも「たしかにそりゃ過剰警護だよな」「先に手を出したのは…だしな?」などの声が洩れ聞こえ、警察はますます立つ瀬がない。
そこでもう一押し、僕は叫んだ。
「貴方達には…正義の番人としての矜持は無いんですかッ!?」
すると彼らの間からコホンと咳払いが聞こえ、責任者と思しき者がジモンに歩み寄る。
「鈴盛土さん。我々が本日お伺いしたのは、あくまでも会場警備のためであって、貴方の無茶な要求に応えるためではありません。
よって潮氏の拘束は必要ないと判断します」
「貴様ァ…俺を誰だと思ってるんだァッ!?」
「誤解なさっておいでのようですが。貴方がた国会議員は我々日本国民の代表という位置付けであって、強制権はありません。
ましてや…偉いのは貴方の肩書きであって、貴方自身ではありません。
今後も過大な請求をされるのであれば、場合によっては貴方のほうを拘束せねばなりませんので、悪しからず」
ぃよぉっし、よくぞ言ってくれました!
おかげでスッとしたぜ♪
やっぱりどこの組織にも話のわかる御仁はいらっしゃるものだ。
「くっ…フンッ!!」
さすがのジモンもこれには大人しく引き下がらざるを得ず、再び椅子にドカッと腰を据えてブツクサ悪態をつき始めた。
次第に旗色が悪くなりつつある状況に、リヒトもマリアも表情に翳りが見え始めた。
対して会場のムードは、僕らの思わぬ善戦に少しずつ変わり始めていた。本来なら敵対関係であるにもかかわらず。
どうやらこの国会議員、お仲間からも相当嫌われていたらしい。
では…そろそろ仕上げに入るとしよう。
「ですがたしかに、いかなる場合であろうとも暴力に訴えるべきではありませんでした。
そこは反省すべきかもしれませんが…
…では何故、僕がリヒトくんに暴力を振るうに至ってしまったのか?」
そこで僕は呼吸を落ち着け、会場をぐるりと見渡して、言った。
「只今からその『理由』をご覧戴きましょう」
◇
「…え? 証拠はもう無いんじゃなかったの?」
意外そうに僕の顔を見上げるユウヒに、僕はにっこり笑い返す。
「うん。…僕の手持ちには、ね。
でも…現場にはあったんだよ」
そう。これこそが僕の最後の切り札。
昨日、体育館裏から引き上げる際に見つけたんだ…『防犯カメラ』を。
ソレは体育館裏の柱の陰に、樹木に覆い隠されるようにしてひっそりと設置してあり、レンズは廃材置き場にまっすぐに向いていた。
さらには割と高感度なマイクもセットで。
リヒト達のような生徒があの場所を根城にしていることを知った学校関係者が、念のため仕掛けておいたのか…
はたまた廃材の盗難、もしくは不法投棄防止のために元々設置してあったのかは不明だが、あまりにも巧みに仕掛けてあったため、あの場所へと急いでいた時にはまるで気づかなかった。
僕が昨日の保健室で、先生達に協力を要請したのは、その映像の提供だった。
なるべくなら使いたくなかったのは…その映像が、関係者にとっては実に辛辣な内容を含んでいたからだ。
それでもこの、非常識も甚だしい難癖を付けてくる鈴盛土一家には、もはや生半可な資料ではご納得戴けそうにもないから、背に腹はかえられない。
「それでは早速どうぞ」
僕の合図に応じて、またもやスクリーンにカメラの録画映像が映し出された。
画面中に姿を見せたのは、まずは連中の下っ端数人。顔もキッチリ確認できるほど鮮明で、それをこの場で見ている当人達もギョッとしている。
続いて入ってきたのは、男子数名に手を引かれたアサヒちゃん。明らかに怯えた様子で、会場に密かなざわめきが広がる。
彼女本人も当時のことを思い出したのか、眉をひそめてスクリーンに見入っている。
最後に現れたのは、いかにもふてぶてしい態度で肩で風切るゼネコン息子と、悠然と構える大物な風格のリヒト。
愛息の晴れ舞台に、マリアが立場も忘れて拍手しかけた。いとをかし。
「…わかってるな、お前ら?」
現場にあった廃材の山から鉄パイプを引き抜いて手下二人に手渡しつつ、ゼネコン息子が凄んでみせる。
「ほ、本当にやるの?」
「い…嫌だよ、そんな酷いこと!」
鉄パイプを持たされた少年二人が怖気付いてる。昨日のプールでも地元トップスイマーのマヒルを羨ましげに見つめてた子達だな。
親に言われて渋々リヒトのグループに入ってるけど、そこまでの悪事を働く度胸はなさげな感じだ。
「ならオレがオメーらを酷い目に遭わせてやろうか…あ゛?」
ゼネコン息子に脅された二人は強張った顔でフレーム外に消えた。やがて訪れる僕を襲撃すべく持ち場についたのだろう。
昨日も僕を殴りつけた途端に得物を落っことして震えてたけど、やっぱり無理やりやらされてたんだな。
それを見届けたゼネコン息子とリヒトが顔を見合わせてニヤリとほくそ笑む。どっから見ても悪役丸出しな様子で。
スクリーンを見つめる手下二人とその両親の顔が青ざめ、ゼネコン会長は信じられないモノを見るように息子を凝視。
その息子は「ち、違う、コレは違うんだ…!」となおも往生際悪く言い訳の真っ最中。
この時点でもう僕とコイツが共犯なんてジモンのトンデモ説は前提が崩れてるけど、元々そんなもん誰一人信じてなどいまい。
誰の信任も得られない悪徳政治家…ププッ、ザマァ!
そしてリヒト達が廃材の山によじ登り、アサヒちゃんはその陰に連れ去られてフレームアウト。
ふむ…やはりリヒトの標的は最初から僕だった訳か。それが証拠にここまで奴は彼女に指一本触れてない。
…けどそもそも、なぜ僕を狙ったのかが解らない。昨日も結局謎のままだったけどな。
…程なくしていよいよ僕が画面外から駆け込んできて、お山の大将を気取るリヒトと対峙。
おおっ、互いにイケメン同士ってこともあって、結構サマになってるじゃん?
アクション映画のクライマックスシーンそのまんまじゃないか…と文字通り自画自賛。
だが主役が僕だとすれば、直後がお粗末すぎた。背後から忍び寄ってきた手下二人のうち、一人が勢いよく振り下ろした鉄パイプが後頭部にクリーンヒット! あえなくその場に崩れ落ちた。
あまりにもショッキングなシーンに会場が騒然となる中…
自分で見てもアレは痛いぞ、とスクリーンを見ながら思わず傷口を押さえた僕に、怪我を負わせた少年とその両親が「ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい!」と泣きながら頭を下げまくった。
いやいいよ、解ってるから…と片手でその謝罪を押し留める。なにしろ真犯人はこの後すぐに判るからね。
悠然と瓦礫の山から降りてきて、僕の前に立ちはだかった真犯人…リヒトは言う。
手下に羽交締めにされたアサヒちゃんを引っ張り出し、勝ち誇って、
「これで解っただろ? オレの前でコイツとイチャつくからそんな目に遭うんだよ」
ハイ言質とれました♪ つまりは自分の指示だったことを認めちゃってるのだ!
どよめく来場者は無論、警察関係者も「これは…」と鋭い眼光をリヒトに向ける。
「クッ…」と歯を食いしばってうなだれたリヒトを、マリアが「コ、コレは何かの間違いザマス! 宅のリヒトちゃんがそんなコトするはずないザマス!」といまだに弁護し続ける。
はいはい、親御さんは皆さんそうおっしゃいますよ♪
「…とんだ濡れ衣だな」
…ほあ?
「リヒトは、この娘にたぶらかされていた。そしてこの娘はこの男に付き纏われて困惑していた。だからリヒトを利用してこの男を始末させたんだ…!」
並みの親御さんからは滅多に聞けないトンデモ屁理屈をいまだに唱え続けるトンデモおやぢがここにいたッ!!
目の前のアサヒちゃんと僕を交互に指し示し、ジモンズワールドは今まさにその極みに達した…!
「悪いのは…この『つ◯ぼ娘』だッ!!」
◇
もう何度凍り付いたか判らない会場の空気が、今度こそ完全凍結した。
それはもちろん彼奴のトンデモ推理…などではなく、その口から唐突に飛び出した差別発言が原因だ。
「…オイこら、そこのフニャ◯ンおやぢ。今なんつった…あ゛?」
そしてこれまた予想外なことに、いちばんブチ切れてたのはそれまで静観を決め込んでたナミカさんだった!
もうね、酔ってもないのに目つきが完全に座ってらっしゃる…!
「お〜ぉ、聞こえなかったのなら何度でも言ってやるぞアバズレ。つ◯ぼと言ったんだ、つん◯と! 間違ってはおらんだろう!?」
どさくさ紛れにさらなる侮辱発言を織り交ぜて、ジモンは際限なく調子に乗る。
「ジャーナリストだか何だか知らんが、所詮は下賤の輩の娘よ! この俺を食いモノにした挙句、今度は息子を吊し上げる気か!?」
やはり、かつてカイドウ氏に痛い目に遭わされたことをいまだに根に持っているようだ。
今回の件がここまでの大騒ぎに発展した背景には、そのへんの恨みもあるんだろう。
「奴が奴なら、女房も娘もどのみち同じ穴のムジナよ! それもこんな水商売上がりのアバズレとは、聞いて呆れるわッ!
どうやらナミカさんの見た目からそう思い込んでるらしい。実際当たらずとも遠からずだから否定はできないけど。
もはや…いや元々このおやぢを止められる者などいるはずもないが…
もぉ止めたげて! さもなきゃアンタの危険がアブナイからっ!
「そ、そそぉ〜ザマス! 宅のリヒトちゃんはいつだってマトモなことしかしないザマス!
それがこ〜んなマトモじゃない娘に騙されたせいで、一時的にこうなっちゃってるだけザマスッ!」
よせばいいのにマリアまでマトモじゃない旦那に同調し、ますますマトモじゃなくなっていく。
そろそろ解ってきたけどこの夫婦、自分とリヒトにしか関心がないんだな。それ以外の人間はジャガイモみたいにしか見えないんだろう。
だから相手がこんないたいけな子供でも平気でこき下ろし、リヒトの敵とみなせば完膚なきまでに叩き潰せるんだ。
ならばリヒトのことをしっかり見てるかといえば、これも全然なにも見えてなどいない。
自分達の理想の子供像をリヒトに重ね合わせ、虚像のほうを本物だと思い込んでるだけなんだ。
「…父さん…母さん…」
リヒトもあからさまに落胆した顔で、どんどん自分達を追い込んでいくどーしょーもない両親を呆然と眺めている。
「…じゃ、アサヒが本当にあんた達が言うような悪女か、もう少し見てみよっか?」
ナミカさんに促されて、僕は中断していた監視動画の続きをスクリーンに投影する。
そして鈴盛土一家のでっちあげトンデモ弁護は一瞬で崩壊する。
僕の怪我を見て暴れるアサヒちゃん。
その彼女を黙らせるべく、しゃしゃり出てきたゼネコン息子。
その息子が彼女を叩きのめし、罵詈雑言を撒き散らして彼女を罵り、さらに辱める。
アサヒちゃんの言いなりどころか、彼女に無理やり言うことをきかせようと躍起になっている。
「さっきからあうあうウルセーんだよ、アシカかテメーは!?」
「つ◯ぼのテメーに出来ることがなんでオレに出来ねーんだって…知るかよンなもんっ!!」
これは聞くに耐えないな…と誰もが顔をしかめるが、ジモンはますます勝ち誇り、
「ホレ見ろっ、このクソガキもつ◯ぼ呼ばわりしとるぢゃないか!? つん◯を◯んぼと言って何が悪いッ!!」
ブチッ!!…ナミカさんの我慢が限界を超えた音が、僕にも聞こえた。
「何もかもが悪すぎるわ、こん腐れち◯ぽおやぢッ! クソガキの戯言を地位も名誉もある大物政治家の問題発言と一緒くたにすんなやこんクソボケがぁアァーッ!!」
僕らが着いた長テーブルを蹴倒して、ナミカさんはジモンへと一直線に詰め寄り、その胸ぐらを鷲掴んで雄叫びを上げた。
ちなみにテーブル上に置かれていたアサヒちゃんのスマホとケースの亡骸は、すんでのところでユウヒが救出していたが…
問題はもはやそんな些細なことではなく!
「テメーとそこの眼鏡ババアはたしか、身障者協会や各種慈善団体の理事長やら名誉会長やら務めてたろーがッ!?
その親玉どもがどの口でそんなクソッタレた暴言吐き散らしとんぢゃをを〜〜〜ッ!?」
「ぐぉっ…えぇい何をしとるっ!? 誰か早くこのケダモノを取り押さえんかァーッ!!」
こんなクソ親父がどーなろーと知ったこっちゃないが、ナミカさんの名誉のためにもこりゃアカンッ!
「ナ、ナミカさんっ抑えて抑えてッ!!」
ジモンごときに言われるまでもなく、すぐさま会場中から僕や警察、子供の親たちが一堂に結集して彼女を取り押さえる。
そんな中、あのゼネコン会長が目を丸めてナミカさんを凝視し、
「…姐さん? やっぱり…姐さんじゃねーですかい!?」
「んを? お前…マサ? わはっ、マサじゃねーかよオイッ!?」
え、何この展開? この土壇場でまだ新事実ブチ込んでくるの!?
「そのお姿、昔と全然変わらねーから、いやまさか、他人の空似だろうとばかり思ってましたけど…予想以上にまんま姐さんでしたぜっ!」
「そういうお前はすっかり老け込んじまったなぁマサ! 元気にしてたようで何よりだけどよ…テメーの愚息はちぃ〜とオイタが過ぎねーか?」
「ハッ!? も、申し訳ありやせんっ!!」
慌てて息子に無理やり頭を下げさせ、自身も深々と詫びを入れるゼネコン会長。
ってあの、そろそろ何が起こってるのかご説明願えればありがたいんですケド…?
「あー…まさかこんな場所でバレちゃうとはねぇ。せっかく上手く化けたのにぃ♪」
寄生獣めいたことを言って照れ笑うナミカさんを指して、先程よりいくぶんヤンチャ感が増されたゼネコン会長が、
「姐さんはな、かつてここいらをシメてたチーム『愚乱武流』のヘッドだった御方だ!」
ざわっ!? 場内がこれまでにない異様なざわめきを見せる。とりわけ警察関係者の緊迫感は只事ではない。
いや…だから何よソレ?
◇
かつて…
1999年7の月のノストラダムスの大予言や、12月の大晦日の2000年問題をもかろうじて乗り越えた二十一世紀初頭。
この街は未曾有の危機に見舞われていた。
昭和時代から存在し続けた巨大暴走族『死苦羅面』。
その一斉摘発による壊滅により勃発した、中堅グループ同士による一大抗争である。
時には夥しい数の戦死者や、巻き添えによる多数の民間人犠牲者を出したことで悪名高きこの争いに終止符を打ったのが…
リーダー多田野ナミカを筆頭とする精鋭揃いの男女混合チーム『愚乱武流』だった。
頭数の差をものともしない圧倒的な戦闘力で、近隣のグループを瞬く間に併合もしくは壊滅へと追いやった同チームは、やがて巨大グループへとのし上がり天下統一を成し遂げた。
だがそこでリーダー多田野はたった一言「もういいや」と言い残し、どこへともなく姿を消した。
残されたグループはその後も統率力の良さを維持して、長きに渡り地域をまとめ続けたが、時の流れには抗えず自然消滅。
こうして世界に再び平和が訪れた。
『愚乱武流』の名は今もなお、この街に語り継がれている…。
…ってどこぞの世紀末救世主伝説みたいになっちゃってますけど。
しかもそのリーダーの旧名、たしかにどっかで聞き覚えがありますけど。
てか、本人の口から聞かされましたけど、つい最近。
「いや〜まさかあの姐さんが、あの美岬カイドウの奥方様に収まってるとは…!?」
「と言ってもこないだ嫁いだばかりだけどね。まだまだこれからだよ。
マサのほうこそそんなに偉くなってて、すっかり姿形も変わっちゃってて驚いたよ!」
「親父の跡を継いだだけですよ。でもチームのおかげで私の名もそこそこ通ってたから、仕事の幅は広げやすかったですけどね」
まさかまさかのナミカさんとゼネコン会長との意外な繋がり!
思わぬ展開に僕とユウヒはすっかりポカ〜ンだ。アサヒちゃんは相変わらずスマホ見て溜息ついてるから気づいてないけど。
ナミカさん…前々から只者じゃないとは思ってたけど、これほどとは…。
そんなやんごとなきお方のおぱーいチューチューしたり、ち◯ち◯ナメナメされたりしてたの僕?
「それで…お前は今まで何処にいたんだ、多田野?」
これまた意外にも旧姓で呼びかけた警察の責任者に、ナミカさんはニヤリと悪どい笑みを浮かべて、
「アンタも元気そうだね刑事さん。とっくに出世してソファーでふんぞり返ってるかと思ったら、まだ現役とはねぇ…」
まぁそれだけのコトをしでかしとけば警察に睨まれるのも当然だろうけど。
「ちょっとアメリカ行ってきた。てへっ♪」
なんとも行動が読めないお方だ。
彼女のチームは当時、殺人等の重大犯罪は決して犯さなかったものの、暴力行為を伴う雑多な容疑で当局に目を付けられ、一斉摘発は時間の問題だった。
その寸前で元リーダーのナミカさんは一切の罪を自分が被り、海外に高跳びして難を逃れたのだという。
「おかげで私も今ここでこうしていられる次第ですよ」
「どうせ再会すんなら、もうちょい別の場所でしたかったけどね〜」
涙を浮かべるゼネコン会長に苦笑するナミカさん。感動のご対面と洒落込むには少々難儀な立場同士だった…。
それから世界中を渡り歩いた挙句、たどり着いたアメリカはニューヨークにて、ナミカさんは美容師の資格を得て腕に磨きをかけた。
「元々ファッションとか好きで街をブラついてるうちに、いつの間にかあんなチームの頭に担ぎ上げられてたんだよね〜」
…どこをどーしたらそーなるのか?
ともあれアメリカ滞在中、自分同様に世界中を股にかけての体当たり取材で様々な特ダネをものにした有名ジャーナリスト・美岬カイドウ氏の存在を知ったナミカさん。
危険なニオイがする男に惚れやすい性分なのか、一発で魅了された彼女は、彼が現在は日本を拠点として活動していることを知って、ようやく故郷に帰国。
彼が頻繁に顔を出すテレビ局に敏腕スタイリストとして潜り込み、接触の機会を窺っていたところ…まぁその、イキナリ肉体接触ってゆーか融合してしまい今日に至る…と。
つまり、ナミカさんは当初から極めて計画的にカイドウ氏に接近したわけだったのだった!
嗚呼なんたる超魔術! 美魔女なだけに!
「今はもうカタギなんだし、とっくに全部時効っしょ? 見逃してくれよン♪」
彼女の言う通りにすべては過去の話となっているらしく、警察も唸るだけでもう手出しできない。
家族が…未成年の娘達が目の前にいるのではなおさらだろう。
「そんなこんなで、この街もすっかり平和になったな〜って安心してたら…」
天を仰いで感慨にふけっていたナミカさんは…再び獰猛な眼差しを標的に向ける。
「よりにもよって一番いちゃいけない場所に、こんなにバカデカくて真っ黒なヤツが蔓延ってたとはねぇ…!」
「…フンッ、長々と脱線しおって。
何だかよくワカランが…それ見たことか!?
犯罪者の娘はやはり犯罪者だッ!!」
珍しく出しゃばるタイミングを測ってたようだが、まだ言うかこの問題発言おやぢ?
今どきの大臣ならこれらのスクープだけで二度と浮上できないくらい辞任できるぞ?
「それ言うなら、現役犯罪者の息子はやっぱり現役犯罪者だろがいっ!? 実際そーだし!」
ナミカさんも負けじと言い返すが、もう何言っても両者ともアウトなんでやめてください。
「フンッ、たかがスマホを壊しただけで犯罪者呼ばわりか!? 他愛ない子供のイタズラでここまで話をややこしくしおって!」
「…そのセリフ、そっくりそのままお返ししますよ。やっぱりアンタはクソくだらない人間だってことが、今のでハッキリしましたからね…!」
やはりカエルの子はカエル、決してナマズにはなれないのか?
リヒトと同様なことをのたまうジモンの言葉が、僕の怒りにニトロをぶち込んだ。
「それでは記録映像の続きをご覧戴きますが…その前に、こちら側のとっておきの『秘密兵器』をご紹介致しましょう」
「秘密兵器だとぉ!?」
悪役のテンプレ台詞をまんま口にするジモン。つくづく期待を裏切らない人だ。
「…どうせソコにいるんだろ?」
「あ、やっぱりバレちゃってた?」
耳馴染んだ声が室内に響き、一時停止したままの記録画像が映るスクリーンの陰から、小柄な少女が姿を現した。
「…ぁう!?」
ずっと落ち込んだままだったアサヒちゃんの表情が一日ぶりに綻んだ。
「や、おひさ♪ 大変だったねぇ…」
ぴょんっとアサヒちゃんのそばに寄って、その頭を撫で撫でする彼女の登場に、場内がざわめき始める。
なにしろ突然出てきたからな。僕以外は誰も気づいてなかったようだし。
「…な、何だぁソイツは!?」
「うちの生徒の不忍シノブです。
生徒会では書記兼会計その他諸々手伝ってもらってます。たとえは…諜報活動とか。」
なおもテンプレ通りの驚き方を披露するジモンに、僕もしてやったりとほくそ笑みつつ彼女をお披露目してやった。
「どもども、シノブちゃんっどぇえ〜っす⭐︎
…おりょ? ここにいるパパさん達の何人かは、うちのお店をご贔屓にしてもらってんね♪」
出席者の何人かがギクリと顔を引き攣らせている。これは実に頼もしい味方が増えたな。
◇
「…フ、フンッ。いまさらガキ一匹増えたところで何だというんだ!?」
気を取り直し、テンプレ悪役のテンプレ悪態を余すことなく披露するジモンだが…おやおやいいのかなぁ〜そんなに油断してて?
シノブがわざわざここに来たってことは、きっと途轍もない爆弾を仕掛けてきてるってことだぞ。
「よく来てくれたな。今回は協力できないって話じゃなかったか?」
「そのつもりだったし、今も正直けっこーブルってんだけどね…お巡りサンまでいるし」
彼女にとっては鈴盛土一家よりも警察関係者のほうが厄介か。グレーゾーンぎりぎりどころか、思くそ真っ黒な商売してるしな。
「でもさ…」
壊されたスマホとケースの破片が入った小物入れを大事そうに胸に抱くアサヒちゃんを見て、シノブは奥歯をギリリと噛み締める。
「大切な友達をこんな目に遭わせた奴をこのまま放っとくくらいなら、店なんていつでも畳んでやるよ…!」
先日の海水浴で出会ったばかりの二人が、どうしてここまで互いを認め合っているのか…僕には解らない。
でも…アサヒちゃんは小学四年生だけど、実年齢は十三才。
そしてシノブはこんなちんまいナリだけど、僕より一コ下の高校一年生で十五才。
実はそれほど年が離れていない。
年の差のハンデは大きい。特に思春期真っ只中の若者にとっては、わずか数年の違いが別世界の存在にすら思えるほどに。
二人はその立場上、これまで同い年の者と触れ合う機会が極めて少なかった。
そんな彼女達にとって、お互いの存在は生まれて初めて出会った、気兼ねなく付き合える親友と呼べる相手なのかもしれない。
「なんとでもほざくがいいわッ! ガキはガキらしく黙って大人に従っておれば良いものを…お前ら出来損ないに何が出来るというんだッ!?」
「…ハイ、とっておきのテンプレ極悪ゼリフ戴きました〜♪」
ニヤリと笑ったシノブが、意気揚々とスマホを取り出す。
そこに表示されているのは…動画配信サイトのメニュー画面? いや、アレは…!
「たしかにボクらはまだ何にも出来ない子供かもしれない。だからこそ…文明の利器を最大限に使わせてもらうよ」
スクリーンの画像が、シノブのスマホの映像に切り替わった。
…今まさに目の前でほくそ笑むジモンの顔がドアップで動いている。
「んなっ!?」
ジモンにもこれがどういう事態か理解できたらしい。だがいまさら慌てても手遅れだ。
「その通り…この会議の模様は『全世界』に『ナマ配信』されてるよ。『最初っから』ね⭐︎」
あ。僕もそうしときゃ良かった。
【第十七話 END】
いよいよ始まった魔女裁判、はたして主人公達の命運やいかに?
てなわけで新年明けまして元日投稿です(笑)。
この裁判エピソード、当初は今回きりで決着がつく予定でしたが、例によって色々盛り込みすぎたら尺が長くなりすぎたので、判決は次回に持ち越しです。
ネタバレになりますがこの鈴盛土親子、当初は全員最後には改心させるつもりでした。人の心はどんどん変化する、というのがこの作品のテーマでもありますし。
が、悪役がブレちゃったらやっぱりツマランかなぁ…と思い直し、ジモンだけは最後まで悪役を貫かせます。
次回もそりゃ〜もぉ往生際悪く最後まで暴れ回りますので、乞うご期待⭐︎




