文芸少女
「国会議員か…厄介な相手ね」
ナミカさんは渋い顔をした。
皆が寝静まった後。
僕は美岬夫妻の寝室にいた。
アサヒちゃんの小学校で出会した例の少年…鈴盛土リヒトについて昼間得た情報を、保護者である彼女に報告するためだ。
もちろんユウヒには内緒でと釘を刺してある。妹を溺愛してる彼女に知られた日には、どう暴走するか判ったもんじゃない。
「今のところ、アサヒが何かされたって訳じゃないのね?」
「ええ。だけど…なんだか只事じゃない雰囲気だったもので」
いつもは大勢の取り巻きをはべらせてるというリヒトが、わざわざ一人で僕らの前に出向いた理由は?
そして見ず知らずの、しかも年上な僕にすら無遠慮に敵対心剥き出しな視線を手向けてきたアイツは、いったい何を考えているのか?
「う〜ん…正直まるで気づかなかったわ。報告ありがとう」
アサヒちゃんのスクールバス以外での通学は、以前はカイドウ氏の仕事だったけど、ここ最近はナミカさんの担当らしい。
また、ちょっとした忘れ物ならユウヒが原付で届けることもあるそうだ。
しかしその三人いずれもがリヒトの存在には気づかなかったという。
送迎時にアカりんやキーたんら女子生徒が寄ってくることはあれど、男子は遠巻きに見ているだけで近づいてきたことすら無いという。
なのにどうして僕の場合だけ…?
とにかく今後も注意したほうが良さそうだ。
「…たぶんアサヒちゃんはこれから図書館に足を運ぶ機会が増えそうなんで、夏休み中は僕が護送しますよ」
「そうして貰えると助かるかな。悪いけど頼んだわよ」
図書館通いのきっかけを作ったのは僕だから、元からそうするつもりだったけど。
「問題は…小学校までのあの坂道ですかね。徒歩だとなかなかシンドイですよ」
「それなら、電動アシスト自転車使えば?」
「…僕の財布にそんな余裕あると思います?」
「キミには無さそうだけどウチにはある♪
そしてアシスト自転車も」
チキショウ僕をさらりと貧乏人認定しやがって…ってえ゛。あるのかよ!?
ナミカさんいわく、飲酒等で車が使えないとき用に買っておいたそうな。
…いや自転車でも飲酒運転に変わりないですって! 良い子は真似しないでネ♪
とにかくこれで送迎の足は手に入れたし、僕の行動半径も広がった。
残る問題は…やはり鈴盛土リヒトか。
シノブのおかげで彼の個人情報は知り得たけど、もう少し情報が欲しいな。
クラスでの様子とか、アサヒちゃんとの関係とか…。
「じゃあ、直接訊いてみれば?」
「いや、いくらなんでもアサヒちゃん以外の小学生に知り合いなんて…………あ。」
◇
数日後。
「こんちは〜兄さん、また会ったねぇ♪」
「本日はお招き戴きありがとうございます」
陽気に手を振るキーたんこと左寺田キイちゃんと、礼儀正しく一礼するアカりんこと右近アカリちゃん。
リヒトに関するネタを入手するには欠かせない情報源の二人だけど、今はとりあえずそのタイミングじゃない。
「うわ〜っ広いねぇ! ガレージとかカッケーじゃん!?」
「ロケーションも最高ですね。プライベートビーチ付きなんて憧れちゃいます♪」
美岬家を訪れるのはこれが初めての二人は、のっけから大興奮。なにしろ有名ジャーナリスト美岬カイドウ氏の自宅だからねぇ。
だけど、残念ながら二人がここに来たのは御宅訪問のためじゃない。
以前に僕が提案したお買い物イベント、「アルジャーノンに花束を」ならぬ『アサヒちゃんに乳バンドを』に同行するためだ。
ちなみに現在リアル小四なこの二人には…見た感じ、まだまだ必要なさそうかな。
「…ん? 兄さん今、なんか失礼なコト考えてなかった?」
「とりわけ胸のあたりに邪な視線を感じましたけどぉ?」
うぐっ、幼くてもスルドイ。
《お兄ちゃんはものすごーくエッチだから二人とも注意してね。油断してたら赤ちゃん出来ちゃうから》
ってこらこらアサヒちゃん、リアル小学生に余計な忠告しないの! いくら僕でもさすがに彼女達は対象外だよ。
「兄さん、赤ちゃんってどうやって作るの?」
「お兄様、赤ちゃんは何処から来るんでしょうか?」
似たような質問なのに、本当に予備知識がない感じの黄色と、明らかに何かを知ってる感じの赤色の質問にたじたじな僕の様子を見て、
「ほらほらみんな、おバカやってないでさっさと乗りなさい?」
ユウヒが助け船を出しつつ率先して送迎車に乗り込んだ。
ナミカさんは今日も朝イチで仕事に出掛けたので、今回の買い物には不参加。
そもそもがノーブラ推奨論者なので、仮に休暇だったとしても面倒臭がってついて来なかったかもしれない。
なので車の運転は本日お伺いするお店の方々にお願いした。すなわち…
「お客様方、毎度ご利用有難うございます」
車内からうやうやしく頭を下げる副会長さんと、
「ま〜店にカネ落とさないうちは客でもなんでもないけどね〜♪」
本日も絶好調で平常運転中のフィンさん。
アサヒちゃんにとって初購入となる下着はやはり信頼できて気心の知れたお店のほうが良いだろうってなことで、彼女らにお願いした。
「わ、何この車スゴッ!?」
「リムジンですか〜! いつぞやのウチの会社のイベントで一度乗ったきりですね」
乗り込む前から車体の異様な長さにビビってたキーたんはともかく、アカりんは異様に落ち着いてるのが気になった。
ので実家の仕事を聞いてみたら、前者は全国展開中の有名スポーツジム経営、後者は映像メディアやゲームも手がける大手出版社グループだそうな。
…なんなの僕の知り合いのブルジョワインフレ率?
ついでだから店舗までの道すがら、アサヒちゃんとの馴れ初めを二人に訊いてみた。
黄色い方は学校行事のスポーツ大会で、全校女子トップの座をかけて最後まで死力を尽くして争った結果仲良くなり…
赤い方は、テスト成績で万年二位の自分の常に上にいるアサヒちゃんのことが前々から気になってた折、その彼女がたまたま読んでた本が赤のイチオシ作品だったことから趣味が合って意気投合したそうな。
「アオぽんは運動も勉強も常にトップだもんな〜!」
「その上こんなに可愛くて、そこにシビレる憧れるぅ!ですね〜♪」
「上級生とか中等部でも人気あるらしいよ?」
「おっぱい大きくてスタイル良いですしね♪」
「あう〜っ!?」
親友二人に褒めちぎられて照れまくるアサヒちゃん。てゆーか今さらだけど…この子ってナニモノ? おっぱいデカイのは知ってるけど。
なるほど…これだけ目立ちまくってりゃ、リヒトに目をつけられてしまうのも無理はないかもしれないな。
あの手のドラ息子はたいがい、自己の実力や努力不足を度外視して、自分より優れた存在をやっかんで邪魔をしてくるものと相場が決まってるしな。
「おまけに、こーんな美人の姉さんまでいるんだよ!? もぉ〜ズルイじゃん!」
「え、私おまけ?」
「いえいえ、私にとってはメインディッシュですよ〜ユウヒお姉様。まさに理想的な未成熟な美少女ですし♪」
「え、私おかず?」
いやソレちょい語感的にヤバくね?
てかこの赤いの、もしかしてユウヒ狙い?
それにしては何やら不穏な気配が…?
「ですからお兄様もお早くお姉様をご調教なさってくださいな♪」
…調教!?
「それを私が美味しく戴きます…うふふ♪」
《アカリちゃんは恋人を奪って無理やり色々しちゃうお話が大好きなんだよ。ネトラレってヤツ?》
ちょちょーいっ!? この赤いの予想外にヤベーじゃん! まさに止まれだよお前が! 早いとこ劇物指定せにゃ!
コレに比べたら黄色はむしろ進めだよ!
赤いのは三倍ヤベエよ!!
「じゃ〜あたしはやっぱアオぽん狙っちゃおっかな〜? 元々エロかったけど、兄さんのことになるともぉ〜エロエロでしんぼータマランッス⭐︎」
《キイちゃんはよくアサヒのおっぱい触ってくるんだよ…先っぽばっかり》
黄色も止まれだったあァーッ!?
見た目ボーイッシュな黄色いさくらんぼだと思ってたら、中身ドドメ色のオッサンぢゃん!!
揉まずに突ついてばかりなんて、カニの身は食わずにカニ味噌ばっか食ってるグルメぢゃん!
何なんだこの二人組! リヒトも含めて、最近の小学生はこんなんばっかなのか!?
◇
とかやってるうちに、ずいぶん久々な感じの副会長さん所有のブティックに到着した。
前回は水着コーナーしか見て回らなかったけど、おおよそファッションに関する品ならなんでも揃う充実ぶりだ。
そんな訳で今回のお目当てはブラジャー。
通常なら男性の僕はご遠慮願いたいところだけど、顔見知りで次期社長候補ってことで顔パスで同行。
ちなみに海外では恋人連れで下着を買うのはむしろ普通だとか。
大人向けの品が多いなか、副会長さんが紹介してくれたのはその傍のジュニアコーナー。
それも簡素なスポーツブラ等ではなく、いわゆる一般的な形状の商品だ。
「アサヒ様のお胸はもうかなり成長なさってますので、スポブラでは支え切れない面も多いかと。
あとスポブラはあくまでもスポーツ中の使用を前提としているため、締め付けが強めで日常生活では息苦しさを感じることもあります」
なるほど、さすがは専門家。てゆーか確かにアスリートでアサヒちゃんくらい胸の大きい人って見かけないかも…。
「でも肩紐が食い込んで痛いんだけど。だから私もブラは着けない派」
というユウヒに副会長さんはすかさず、
「肩紐がない商品もございます。昔のものだと巨乳の人は次第にずり落ちてしまう欠点がございましたが、現行品は飛躍的に改善され、フィット感も雲泥の差です。
何よりこの私が現在着用中です」
「へぇ〜、それは是非とも拝見したいね。参考のために♪」
「では後ほど別室にて…」
などといつもの調子でちちくり合う僕らを、ユウヒがすんごい形相で睨みつけてるよ。
「あとユウヒ様、その時のブラはもしかして胸囲でお選びになりましたか?」
「うん、もちろん」
「だから合わなかったのですね。身体測定の胸囲と、下着用のトップバストの計測位置はそもそも違うのです。
あと重要なのがアンダーバストで、これが合わないと着け心地に違和感しか無くなります」
「そーなの!? だってそんなの、誰も教えてくれなかったし…」
思春期のユウヒには母親という存在が無かったからな。さすがのカイドウ氏もブラの選び方までは知らなかったんだろうし。
そしてアサヒちゃんにとっては、以前はそのユウヒが母親代わりだったし、現母親のナミカさんはあんなんだし…頼り甲斐ねーなオイ。
「あたし達はまだ必要ないかな…?」
「…ですね」
としょんぼりするキーたんとアカりんに、副会長さんはノンノンとフランス人のように指を振って、
「いずれ着用するときに備えて、今から慣れておけば将来も抵抗なくご使用になれます。
締め付けもさほど気にならないお年頃とお見受け致しますので、それこそスポブラとほぼ同様なソフトブラがお薦めかと」
う〜む抜かりないなぁ。まったく必要ない層にもあえて売り込むチャレンジ精神はまさに商売人の鏡だ。
「それに…どんなにお胸のない方でも乳首の突起は案外目立つものですので、カバーするためにも有効かと。
…なかにはソコばかり攻撃してくる不埒な殿方もございますし」
ジロりんちょ。
…あれ? なんでみんな一斉に僕のほうを睨むの???
「兄さん解ってるねぇ〜♪」
黄色いおやぢ小学生には解られたかねーよ!
◇
てなわけで皆がそれぞれの下着を物色中な間、野郎の僕は正直言ってヒマなので店内をテキトーに見て回る。
下着ってのは女性が身に着けてるからこそ魅力的なわけで、下着そのものに興奮するのは極々一部のマニアだけだし。
まぁアサヒちゃんは後で見せてくれるとか言ってたから、それに期待しよう♪
とはいえこの店、女性向けに特化されてるから、野郎の僕はホントにお呼びじゃない。
てゆーか僕の下着なんて近所の量販店で売ってる三枚組千円ので充分だしな。
でも歩き回った甲斐あって、僕でも買えそうなブツを発見した。
スマホケースだ。たしかにコレもファッションの範疇か。
見たところ男女兼用で、凄まじくド派手なモノから、文字通りケースとしての機能しかないシンプルなものまで幅広い。
僕はスマホはそのまんま持ち歩いてて、画面の保護シールも貼ってないから指紋だらけ。
それにどうしてもぶつけたり落っことしたりするから、あちこち傷だらけだ。
それでもケースに入れないのは、ひとえに服のポケットに出し入れしづらいからだった。
そして近所の量販店に置いてるものは品揃えが悪くてゴツい上にお値段割高なため、まったく食指が動かなかった。
けれども、この店のなら比較的スリムで頑丈で、それを考慮すれば納得なお値段のものが多い。デザインも洒落てるしね。
生徒会長という仕事柄、人前で取り出しても恥ずかしくないモノが良いけど…おっ、コレなんか理想的だな?
でも僕のスマホは数世代前のをいまだに使い回してるから、現行モデル用のだと合わないし…
などと、自前のスマホとケースを見比べて吟味してたところへ、
《買うの?》
いきなり図星な着信メッセージが表示され、驚いて振り向けば…いつの間にかアサヒちゃんが背後に立っていた。
〈どうしようかって悩んでるところ。
アサヒちゃんはブラ買った?〉
するといつもなら無邪気に首を縦に振るだろう彼女は、赤らんだ顔で俯いて、
《カワイイの選んでもらった》
いつになく女の子らしい仕草に調子を狂わされて、僕のほうまでドギマギしてしまう。
思い起こせばマヒルのやつも、いつもは明け透けなくせに、初めてブラを着けたときと初潮を迎えたときはさすがに気恥ずかしそうにしてたっけ。
ということは、アサヒちゃんもいよいよ女性としての自覚が出てきたってことか…。
〈後で見せてね〉
《着てるトコ?》
そりゃそーでしょと頷くと、ますます真っ赤になって視線を泳がすアサヒちゃん。
う〜ん、可愛いっちゃ可愛いけど、困らせてしまう前に話題を切り替えたほうが良さそうだな。
そういえば…彼女がいま手にしてるスマホも僕のとほぼ同世代で裸のままだ。使い込んでるらしく細かな傷も目立つし…丁度いいかな。
〈スマホケース、要る?〉
僕の問いかけにアサヒちゃんは残念そうに首を横に振って、
《お金持ってない》
あーそっか、彼女一人では出歩かないからお小遣いも貰ってないのか…。
ケースの値札に目をやる。決して安くはないけど高すぎる訳でもない。
てゆーか当初、アサヒちゃんのブラはなんなら言い出しっぺの僕が買ってあげるつもりだった。
けど実際に価格を目にして断念した。それこそなんでこんなに高いのか理解し難かったし、それ以前にカンペキ予算オーバーだった。
その代わりといっては何だけど、なんらかの罪滅ぼしは必要だろう。
それに…。
僕は彼女らしいモノが何も置いてなかった、殺風景すぎる彼女の自室を思い出す。
あるいは自身の障害を気にして、家族に負担を掛けまいとする意思の現れなのかもしれないけど…いくらなんでも物欲が無さ過ぎだ。
僕も他所様の家で少年時代を過ごした手前、遠慮が過ぎた感はあるけど、それでも欲しいモノはちゃんと申告して手に入れていた。
子供の頃はそれで自我や自己主張が育まれると言っても過言ではないんだから、我慢する必要なんて無いんだ。
〈じゃあ買ってあげるよ〉
するとアサヒちゃんはそのメッセージに目を白黒させ、とんでもないと首をフルフル振った。案の定な反応だけど、僕だって今さら引き下がれない。
〈子供が遠慮するもんじゃないよ〉
《アサヒ子供じゃないもん!》
そうやってムキになって言い返すあたりが…
いや、これは失礼致しました。
〈じゃあカノジョへのカレシからの贈り物♪〉
どーだっ、これなら断れまい!
それを見たアサヒちゃんはせわしなく目を彷徨わせ、本当にいいの?と僕の顔を覗き込んでから、ようやく陳列棚に向き直った。
そして僕の手元をチラリと確認。
その時僕が持ってたケースは手帳型の折り畳み式で革製。スリムだけど落下や傷にも強そうだし、重厚感もある。内側にはカードホルダーも付いてるから何かと重宝しそうだ。
色はほとんど黒に近いダークブラウン。あまり華美な色合いよりも、これくらい落ち着きがあったほうが生徒会長として相応しかろうと。
ただし! 少々お値段が張るので、さすがにもったいないかと躊躇してたところだったんだけど…まさか?
「…あう。」
果たして、そのまさかだった。
アサヒちゃんが遠慮がちに差し出したのは、僕のと同じ製品の色違い。見ようによっては水色にも薄緑色にも見えるペパーミントグリーン。
小学生にしてはずいぶんシブい好みだな〜と思ったけど、たしか以前ユウヒが、この子は青や緑が好きだとか言ってたっけ。
でもあの…僕のと合計すると、結局ブラと同額以上になっちゃうんですけど…?
《ダメ? 他の色でもいいけど》
僕の動揺が伝わったのか、気を遣ってくれたアサヒちゃんだけど…どの色でも価格は同じだっちうに!
けれども他の製品に変えようとしない理由は解ってた。僕と同じものが欲しいからだ。いわゆるペアルックならぬペアケースだ。
それなら僕が他のもっと安い製品に変更すれば済む話じゃないか?
ならば、とさっそく陳列棚に手を伸ばしかけた僕の出鼻を挫くように、
「お買い上げ誠にありがとうございます♪」
いつもはほとんど無表情なくせに、ここぞとばかりに満面の笑みをたたえた店員モードの副会長さんがトドメを刺しやがった!
気づかないうちに僕らは彼女を始めとする他の皆によって完全包囲されていた。
「へ〜ぇアサヒ、いいモノ買ってもらったね?
私にはな〜んも買ってくれなかったのに。
あまつさえ自分ん家の便所紙買わせようとしたのに…!」
ユウヒは割と根にもつ奴だな。先日のお買い物デート?をまだ引きずってやがった。
「いいなぁアオぽん。イケメン兄さんからプレゼント貰えるなんてさ♪」
「贈り物は何を戴いても喜ばしいものですよねぇ…お兄様♪」
とか言いつつ黄色と赤はなんで各々の手にした商品を僕に差し出すの?
「これはこれは…大変ありがとうございます。今なら贈答用包装もサービス致しますが?」
ニャオも追い討ちかけてんじゃねェーッ!
こりゃもう買うしかない状況じゃん!?
だがしかし、いくら財布の中を覗いてみても所持金が増えるはずもなく…。
「…あのぉ…ツケって利きます?」
「誠に申し訳ございませんが、カード以外での分割払いは…」
深々と頭を下げる副会長さんの隣で、フィンさんがニマニマほくそ笑みつつ、
「三イチでいいなら貸すけど?」
闇金かよっ!?
「私個人でしたら超低金利でご融資致します。但し、幾ばくかの肉体労働を御容赦願いますが…」
なんで顔を赤らめて熱視線を送りつけてくんのニャオ? 肉体労働っていったいナニさせるつもりなんだ…ゲヘヘ♪
「じゃあソレでお願」
「あーもー私が貸すからっ!!」
頷きかけた僕の首をグキッと元に戻して、ユウヒが言葉を遮った。
「何も買って貰えないどころか金まで毟り取られるなんて…ヒモ野郎。」
ぐはっ!? チキショウ言い返せない…世間の寒風と周囲の白い視線が身に染みるぜ…。
ってよくよく見たら黄色と赤の品物、アサヒちゃんのより高価じゃん! どんだけ〜!?
お金持ちのクセに貧乏人からタカってばかりいたら、将来ろくな大人にならず政治家にしかなれないぞっ!
…あ、だから現在の日本はこうなのか納得。
「では丁度戴きます。お買い上げありがとうございます…チッ」
辛くも肉体労働を逃れた僕に副会長さんが舌打ちしつつ、レジにてお会計終了。
『わ〜ありがと〜♪』
と僕の横から商品をかすめ盗ってく黄色や赤とは違い、青色…アサヒちゃんはなかなか手を伸ばさない。
自分で買い物をしたことがないため、勝手が判らず戸惑ってるらしい。
「…はい」
渋々僕が手渡すと、彼女はおっかなびっくり震える手を伸ばして…やっと優勝を手にしたアスリートのように、後生大事に抱き締めた。
こんな顔を見てしまうと、やっぱり買って良かったなとしみじみ思う。
…高付いた上に要らん借金まで背負わされた買い物だったけどね…グッスン。
◇
その後は近所のファミレスでみんな揃って昼食。
僕の財布にはもう埃しか入ってないので、またもやユウヒの奢り。彼女にはもう顔向けできません…怖くて。
それからまた美岬邸まで車で送迎してもらったところで、残念ながら副会長さん達とはここでお別れ。
午後から他店舗の視察予定などもある忙しい最中、わざわざ僕らのために時間を割いてくれたらしい。
この埋め合わせはいずれ。本日の着用下着もその時にじっくり堪能させてもらうよ♪
さて何話目かで触れた通り、美岬邸から私道を真っ直ぐ歩けば最寄駅にすぐたどり着けるため、キーたんアカりんの帰宅にも支障は少ない。
という訳で夕方までは彼女達ともども、例のプライベートビーチでの海水浴とあいなった。
二人ともアサヒちゃんから事前に浜辺の存在を聞き出して、ちゃっかり水着持参だった。
とはいえ二人ともまだリアル小学四年生なので、凹凸に乏しいスリムボディに僕が言及すべき事柄は無い。そういった嗜好の方々は各々のイメージで補完してくれたまへ。
ただ二人の自宅は海からは幾分離れており、また子供達だけでの水遊びは禁止されているそうなので、大喜びで海水浴に興じていた。
アサヒちゃんも自宅に初めて友達を招いたことが嬉しかったようで、スマホで皆の写真を撮影しまくっていた。
ちなみに先程購入したスマホケースはいまだ未使用。「お兄ちゃんに買ってもらった大切なケースに傷でも付いたら大変」だそうで。
大事に扱ってもらえるのは有り難いけど…保護ケースの存在意義!?
やがて夕暮れ時になり、ユウヒがキとアカを夕食に誘ったものの、暗くなる前に帰ってくるよう家族に言いつけられているそうで、残念ながらそこでお開きとなった。
ここらへんは相手が小学生だし、こちらにも送迎手段が無いから仕方ないかな?
アサヒちゃんも少し寂しそうだったけど、夏休みはまだまだ長いし、また会うこともあるだろうってなことで。
ナミカさんは今夜も帰れるかどうかは不明とのことだったので、三人だけで食事。気づけばこの構図がすでに常識になりつつあるのがコワイ。
はたして僕は夏休み後に美岬家から無事解放されるのか…はたまたこのまま取り込まれてしまうのだろうか?
あと、しばらく音信不通だったカイドウ氏から、やっと取材先に現地入りできたとの報告あり。
たいがい日本とは国交がない地域のため直行便がなく、交通事情も悪いため到着まで何日もかかるのが普通なんだとか。
ともかく無事が確認できてホッとした。
そして夕飯後、アサヒちゃんはやっと新品のケースを出し惜しみしつつスマホに装着。
ちなみに僕は同型のケースを購入後すぐに装着していたので、問題なく使えることはすでに実証済みだったけど。
その途端に現在執筆中のお話のインスピレーションが湧いたそうで、すぐさま自室に引きこもってしまった。
…あれ、ブラのお披露目は?
「てゆーかフツーは小学生の下着なんてそうそうお目にかかれるワケないでしょ?
仕方ないから私ので我慢しなさい♪」
後半凄まじい理論展開だけど、我がカノジョながら大丈夫かコイツ?
てな訳でユウヒの部屋に呼ばれた次第だけど…思えば彼女の自室に入ったのってこれが初めてかも?
美岬邸にはもう何度もお呼ばれしてる上に、現在進行形で同じ屋根の下に住んでるのに、意外といえば意外だった。
そんでもってユウヒの部屋は、これまた女の子らしさ皆無でアダルトタッチな装い。
ハリウッド映画に出てくる夫婦の寝室みたいにハイセンスな洋間だった。
訊けば納得、元々カイドウ氏の自室だった部屋をそのまま貰ったそうな。
彼女らしさとしては、窓辺に大小様々な観葉植物が置かれていることか。緑が多いとそれだけで心が安らぐ。
ホームセンターの入り口で売ってるような小鉢ならたいして高価じゃないし、適度に水をやっておくだけで良いそうだから、今度僕も買ってみるかな。
…などと和んだのも束の間、
「お、お待たせ…」
若干緊張気味に僕の前に現れたユウヒは、ナミカさんさながらの透け透けネグリジェ。
ヤバすぎるほどに本気だった!
「そ、そんなの持ってたんだ…?」
目のやり場に困惑しつつ問う僕に、彼女はほっぺたをプゥッと膨らませて、
「買ったのよ、今日のお店でこっそりと。
カレシがな〜んも買ってくんないから、自腹でね…!」
ホント根に持つなぁコイツ。しかも副会長さんにあれだけレクチャーされたのに、結局ブラ買ってないし。
そう…ブラじゃないから…ナマ乳だ。
そしてこれまた意外なことに…薄布越しとはいえ、ユウヒの裸を見たのはこれが初めてだった。
「…触っていい?」
「ど、どうぞ。…そのために呼んだんだし」
二人してベッドに横たわる。
そして…布地越しに彼女の乳房をまさぐる。
「んんっ…本当におっぱい好きだね。
…お母さんのとどっちが好き?」
「ほあっ!?」
「知ってるんだからね、夜な夜なお母さんの部屋に入り浸ってんの」
うははっ、バレてーら♪
「まさか、おっぱい以外も…?」
「しししてませんっ! そんな甲斐性ないです!」
「…そう。なら許す」
いやいや許されないでしょフツー!? なんでそんなに理解力あんの!?
「…甘えたいときに甘えられる人がいないのは…私も同じだったから。」
その言葉にハッとする。
そして衝動的に叫びたくなる。
「お前と一緒にするな!」って。
「お前に僕の何が解るんだ!?」って。
だけど…ユウヒはたぶん、本当に僕の気持ちを解ってる。
というか、知ってるんだろう。
だから何も言い返せない。
チクショウ、悔しいなぁ。
やっと僕のことを解ってくれる奴に出会えたのに…素直に喜べないなんて。
「お母さんに甘えてもいいけど…
これからは、私にも甘えて?」
その上、ユウヒのほうが僕の何倍も大人だ。
以前、彼女は僕に依存してるとかほざいてしまったけど…それはむしろ僕のほうだった。
僕が好き勝手やらかしてるのを、彼女は黙認してくれてたんだ。
それが、僕が彼女に心を開く唯一の方法だと知ってたから。
僕本人でさえ気づけなかったことに、先に気づかれてしまったことが悔しくて…悔しすぎて、彼女の胸をメチャクチャに揉みしだく。
布地を挟んでるのがまだるっこしくて…
結局、着てるものを全部脱いで、彼女の寝巻きも剥ぎ取った。
一糸纏わぬ彼女が綺麗すぎて…また悔しさが込み上げる。
「本気で甘えるぞ。何してもいいんだな?」
「うん…リョータの好きにして。」
まさに男が言われてみたい最高の答えだ。
この期に及んであれこれケチつけてくる女なんて、こっちから願い下げだね。
「じゃあ…挿入れても、いい?」
僕の野暮な問いかけに、ユウヒは顔を真っ赤に染め上げつつも優しく微笑んで…
「無理でしょ。
すぐ萎んじゃうから。」
ぐっっっはぁっ!? やっぱコイツ嫌いだッ!!
「でもでも、朝までこのまま抱き合ってたら挿いっちゃうんじゃない? マヒルみたいに」
人のトラウマほじくり返しやがってチキショオーッ!!
心のタガが外れた僕は、今まで遠慮していた分まで存分にユウヒの身体を貪った。
ユウヒのほうも最早なんの遠慮も躊躇もなく、僕の身体を頭のてっぺんから爪先までむしゃぶり尽くした。
互いに触れる箇所はすべて触り、開ける場所はすべてこじ開けて…
…よーするに、チンチン挿れる以外は全部やった。
やがてそのまま、どちらからともなく疲れ果てて寝息をたて始め…
…翌朝、目覚めるなりアサヒちゃんのむくれた泣き顔に睨まれててギョッとした。
彼女が苦心した人生初の大作がやっと書き上がったから、さっそく僕に読んでもらおうと部屋に行ってみたら不在で…
もしやと思ってユウヒの部屋を覗いた途端、裸で抱き合う僕らを目撃して愕然としたらしい。
《またアサヒだけ仲間はずれ…ズルい!》
〈いやコレは仲間はずれ上等ってゆーか二人だけでするコトだから!〉
《みんなで一緒にしてるお話もあるもん!》
〈そーゆーお話は小学生が読んじゃダメッ!
てゆーかアサヒちゃん、徹夜しちゃダメって約束破ったね?〉
《そーゆーお兄ちゃんこそ、お姉ちゃんの…破った?》
〈もんのっ凄い論点のすり替えだなオイッ!?〉
などと小学生相手についムキになってるところへ、ユウヒがハァ…と溜息混じりに、
「ちんちんブラブラさせてナニみっともない言い訳してんの?」
「オメーこそ妹の前でスッポンポンで股ぐらおっ広げてんだろーがよっ!?」
《お姉ちゃんお毛々フサフサ♪》
「がーーーん。アサヒ…!?」
てな具合に朝っぱらから早くも収拾つかなくなった僕らの不毛な言い争いは、その後も小一時間続いたのだった…。
あ、ちなみに朝の結合式は部外者の妨害工作のため姦通…いや貫通未遂に終わりました。
さらにナミカさんはいまだお仕事中のため、結局帰ってこなかった。ご苦労様です。
まあこの状況を知られたら絶対末代まで物笑いの種にされただろうから、結果オーライってことで。
◇
『…………。』
その日の朝食の席上は恐ろしいほど静まり返っていた。
とはいえ別に朝っぱらからアレだったから気まずい訳じゃない。僕らがそんなウブだった時期はとっくの昔に過ぎ去った。
いささか行儀悪いが、せっかくアサヒちゃんが書いてくれた話をいち早く読みたかったからだ。
そのボリューム、実に文庫本一冊分。この短期間でそれだけの文章量をもう書き上げたことにも驚かされるが、もっと驚いたのはその内容だ。
年齢の割にしっかり読ませる文章になっていることは無論、どこにも破綻がない。
本好きな人であれば、一度は自分だけの物語を思い描いてみたことがあるだろう。
そして大概、最後まで書き上げきれずに頓挫したはずだ。
なぜなら、それは自分が理想とする物語…すなわち主人公は自分自身だから。故に自分を中心に回る、自分に都合がいい世界を創造する。
いわゆる『俺TUEEE!!』だ。
だが世界は決して自分の思い通りには動かないものだ。たとえ自分だけの仮想空間であろうとも。
やがて独りよがりの極みに達した物語は、いずれは破綻へと向かい、すべては水泡に帰す。
ところがそこはさすがにアサヒちゃん、僕らとは発想が一味違う。
それでは早速、その物語を見ていこう。
『…ここはいったいどこなのでしょうか?
何も憶えていません。
自分の顔も名前も…何もかも。』
優しい言葉遣いで紡がれる物語は、ヒロインが見ず知らずの世界で目覚めたところから始まる。
今ではすっかり定番となった異世界転生モノの下りだ。
丈の高い草が生い茂る広大な草原をあてもなく彷徨い歩くうち、ヒロインは見たこともない奇妙な怪物に出会し、襲われる。
ここで並みのファンタジー作品なら大抵、ヒロインがいきなり謎の能力を発動させ、怪物を木っ端微塵に蹴散らしたりするのだろう。
が、ヒロインはそんな便利な力はおろか、一切の荷物を持ち合わせてなどいない。
なす術なく殺られるしかないかと覚悟したその時…突然草むらから飛び出した冒険者風の少年が、あっという間に怪物を撃退してしまう。
ちなみに少年の武器は刀剣などではなく、金属とも宝石ともつかない薄い板切れ一枚。コレに念を込めることで様々な力が発生する。
言うまでもなくスマホのイメージだ。
そして少年はヒロインに話しかけてくるが…ここで衝撃の事実が発覚。
彼が操る言語は、彼女にはさっぱり理解できなかった。外国人に質問されたときのように、謎の音声を呆然と聞き流すしかないのだ。
つまりヒロインは、まったく言葉が通じない世界に単身放り出されてしまったのだ。
「…凄い。ちゃんと物語になってる…!」
しかも面白い。予想以上というか、カンペキ予想外の出来映えだ!
あれだけの文章量だというのに、ここまで読むのがまったく苦にならないどころか、どんどん先を知りたくて仕方がなくなってくる。
前述の独りよがり要素も微塵もない。なにしろ俺ツェー!どころかヒロイン最弱だ。
自作をここまで割り切った設定に出来る者は、とりわけ自己顕示欲の塊な小学生にはなかなかいないだろう。
それでもこの、自分の意思が相手に伝わらないもどかしさ…これは間違いなくアサヒちゃん自身の投影だ。
だからこそ続きが気になるのかもしれない。
さて、愕然とするヒロインを自宅に連れ帰った少年は、まずは腹ごしらえだと身振り手振りで伝え、食事を提供してくれる。
だがそれは、肉や野菜などをそのまま煮たり焼いたりしただけのオーガニックにも程がある代物で、お世辞にも美味いとは言い難い。
自分が知る常識とはことごとくかけ離れた世界に彷徨い込んだことを実感し、心細さが頂点に達したヒロインは涙に暮れる。
そんな彼女を少年はそっと優しく抱きしめて、そのままともに一夜を過ごす。
…やがて朝を迎え目覚めたヒロインに、少年は自分の名前が『ウェル』だと伝える。
異郷の言葉と彼の名を少なからず理解できたことに彼女は一縷の希望を見出す。
そしてヒロインが自分の名前を忘れたことを伝えた時、窓辺から眩い朝の陽射しが二人を照らす。
少年ウェルは、彼女に『ルミエール』略して『ルミ』と名付けた。彼らの言葉で『光』という意味だと。
ヒロイン・ルミはこの世界でウェルとともに生きて行くことを決意する。
…いや読めば読むほどアサヒちゃん自身だよな、このヒロイン?
そしてこのウェルって少年の名前…まんま僕じゃん!?
などと元ネタバレバレな感じも、読まずにはいられない要因だろうか。
それにしても…コレ本当にアサヒちゃんが書いたの? ここまでの下りだけでもすごい完成度なんだけど、これで処女作? 凄っ。
さて、昨夜の飯の味が不味かったのはこの世界の標準ではなく、単にウェルの料理技術の問題だったことが明らかになる。
彼は数年前の事件で両親と死別して以来、ずっとこの家で一人暮らしをしていた。
ルミも料理にはさほど自信がなかったものの、彼の代わりに作った朝御飯が大好評だったことに嬉しさを覚える。
ウェルは自宅の畑で育てた農作物や、野山で狩った獲物を街の市場で売ることで生計を立てていた。昨日ルミと出会ったときも狩りの真っ最中だったらしい。
彼を手伝い市場に通ううち、ルミは少しずつこの世界の言葉を憶えていく。
と同時に、ここでは料理技術がそれほど発展しておらず、ウェルの自作料理よりはマシなものの、似たり寄ったりな味しかないことを知る。
ならばとルミが作った手料理を試しに市場で売ってみたところ、瞬く間に大評判となり、彼女も次第に自信をつけていく。
彼女の料理の噂はすぐに王宮まで届き、次期女王陛下と目される第一王女ソレイユが直々に面会に来る。
実は彼女はウェルの幼馴染で、彼が最近謎の少女を連れているとの噂を耳にして気が気ではなかったらしい。
ウェルの亡き父は元宮廷騎士団の団長で、庶民出の母親と恋に落ち、自らの身分を捨ててまで彼女と添い遂げるため王宮を去った。
それでも国王との仲は保たれており、しょっちゅうお忍びで親交を深めていたため、ウェルとソレイユも幼い頃から顔見知りだったのだ。
「で、貴女は結局ウェルの何なの!?」と詰め寄る王女に、ルミは誤解を解くべく拙い言葉で事情を説明する。
「自分はウェルに命を救われ、ともに一夜を明かした朝にルミエールという名前も付けて貰った。もう彼なしでは生きて行けない。今も彼の家で一緒に住んでる」と。
ワッハハ、何このスゴすぎる弁解!? アサヒちゃんって結構ユーモアのセンスあるなぁ。
てゆーか小学生にしては凄まじい毒気なんだけど…このへんは姉譲り?
あとこのソレイユ女王の元ネタって、やっぱり…だよなぁ。行動がまんますぎるし。
ルミの弁解?を聞いたソレイユは半狂乱でその場を駆け出す。
そして翌日にはウェルの家の隣に豪邸が建つ。住人はもちろん王女だ。
彼女はルミに今日から自分の専属料理人として住み込みで働けと命令し、ウェルから強引に引き剥がす。
◇
…というコメディなんだかギャグなんだかブラックユーモアなんだか不明なところで執筆は一旦止まっていた。
個人的にはソレイユ女王の執念めいた想いに身震いを覚えるんだけど?
《この先はやっぱりネトラレ展開がいいかな〜って思って。アカりんに相談してみる♪》
〈やめなさい。てかネトラレの意味わかってる?〉
せっかくの牧歌的な雰囲気が、王女の登場以降ぶち壊しな気がしなくもない。
アサヒちゃんの創作物なんだから僕が口を出すべきことじゃないけど、いくらかの軌道修正は必要だろうか?
それにしても面白いのは、ヒロインが本当に一介の普通人として描かれている点だ。
作品世界にはウェルが使うスマホみたいな魔道具や魔法も存在し、またソレイユ王女や騎士、魔物のようなファンタジーに必要不可欠な要素もふんだんに盛り込まれている。
にもかかわらず、ルミにはそんな特殊能力などは一切備わってない。持っているのは作品世界には存在しない雑多な知識と、それが実現できる程度のささやかな技術力のみ。
魔物と闘えるような武術の心得はおろか、悪漢に立ち向かうだけの度胸もない、極々普通の少女に過ぎない。
主人公のオールマイティさが際立つ最近の作品とは真逆のアプローチだけど、それだけに親近感が湧く。
そんないたいけな少女が、制限や制約まみれの世界を様々な仲間と力を合わせて生き抜いていく一種のサバイバル感覚こそが、この作品の肝なんだろう。
さらには言葉も重要なファクターだ。
この種の作品は異世界にもかかわらず最初からすんなり言葉が通じたり、謎の翻訳機能によりすぐさま違和感なく話せるようになるものが多い。
また世界神だの創造神だのが自分にべったりくっ付いてくるから普通に話せるってものも…いきなりご都合主義炸裂だ。
しかし、この世界の言葉はヒロインの知る言語とは体系も発声方法も根本的に異なるため、ルミはいつまで経ってもカタコトのままという徹底したリアリティ。それが彼女のチャームポイントにもなっているのだけど。
さらにさらに、この世界の住人は直接魔法が使える訳ではなく、ウェルのスマホみたいな魔道具を介さなければ発動できない。
高性能な魔道具ほど高価で、魔法もアプリのように各々登録する必要がある。これも優秀なものほど高額で、安価な魔道具では推奨発動条件を満たせないため使用できない。
逆に言えば、この魔道具さえあれば誰でも魔法が使えてしまうが、使用可能エリアや使用量に制限があるのがまんまスマホで笑える。
また前述の対価設定ゆえに上級魔法を利用できるのは王侯貴族や大商人にほぼ限られる。
ウェルは元騎士団長の形見である魔道具を譲り受けているため、そこそこ強力な魔法が使える…が、魔道具の製造時期が古く絶版品のため使えない魔法も多く、そこは自己鍛錬でカバーしている。
なおルミは元々異世界の住人であるためリージョン違い…いや利用資格が無く、故に魔法が使えないのだ。
う〜んさすがはアサヒちゃん、図書館の本を片っ端から乱読してるだけあって知識量がハンパない!
この魔法事情だけでも設定オタクはどんぶり三杯イケちゃうよ♪
《…ダメかな?》
僕がずっと眉間にシワを寄せつつ読み耽ってたせいで、ヒジョーにキビシイ評価を覚悟したアサヒちゃんはもう半泣きだった。
〈違う違う、面白すぎて唸ってたんだよ。
正直言って…もっと続き読みたい♪〉
それは作家にとっては最高の賛辞だったらしく、彼女は打って変わって満面の笑みで小躍りしている。
〈コレ、みんなに見せてもいい? きっと大ウケするよ!〉
こんなに面白い作品を僕だけ独り占めなんてもったいない。ネットとかで発表すれば、もっと多くのファンが…とか思ったのに、
《ダメ! 恥ずかしいし怖い! 他の人に見せるなら、もう書かない!》
アサヒちゃんは頑なだった。
自作が大勢の目に触れることになれば、少なからずそれを否定する者も出てくる。
そして彼女は自分を否定されることを何よりも恐れている。
だからこそより多くの人に尽くすことで、自分を認めてもらおうと必死なんだ。
そのためならば…自分らしさなんて、何一つ無くても構わない。
なぜなら自分には、元々何もありはしないから。
…この物語のヒロインのように。
あの何もない彼女の部屋は、そんな彼女の心の表れなのかもしれない。
でも、本当に何もない人からは、こんなに素敵な物語は生まれないと思うんだけど。
いつか彼女がそれに気づいて、自分に自信が持てるようになるまでは…
〈解ったよ。アサヒちゃんのお話は、キミと僕の二人だけのものだ〉
渋々前言撤回した僕に、彼女は嬉しそうに目を細めて抱きついてきた。
見た目こそ立派なお嬢様のアサヒちゃんだけど、その精神はまだまだ未成熟な子供のまま。
きっと誰よりも繊細でナイーブな心の持ち主なんだ。
〈お話の続きを書いたら、真っ先に読ませてもらうよ。でももう徹夜はダメだからね?〉
だから…焦ることはない。少しずつ成長していく彼女を、これからも見守り続けよう。
《お兄ちゃん…ありがとう♪》
可愛らしく微笑むアサヒちゃんに、僕は優しく微笑み返して…
〈ところで…昨日買ったブラ、まだ見せてもらってないけど?〉
僕の素朴な問いかけに、彼女は思くそギックンチョ!?と肩を跳ね上げる。
心の成長はお待ち申し上げるけど、カラダのほうはもうとっくにオトナだからねぇクケケ♪
《恥ずかしいし、今はまだ着けてないし》
〈じゃあ着けるトコ見ててあげるよ♪〉
視線を泳がせ逃げ腰の彼女に、投げ縄を引っ掛けて手繰り寄せる要領で。
〈僕らがエッチしてるとこ見といて、自分のは見せられないと?〉
「ぁぅぅ…」
〈僕とお姉ちゃんが繋がってるトコ…見た?〉
「はぁあぅう〜っ!?」
これ以上ないほど真っ赤に茹で上がったアサヒちゃんは、煙を噴いてテーブルに突っ伏してしまった。
「って、小学生相手になんっつー質問してんのよっ!?」
僕のスマホを覗き見たユウヒが真っ赤になって取り押さえる。すっかり忘れてたけどコイツもいたんだったな。
「真面目にお話のやり取りしてると思って黙って見てれば…まったく!」
「お前は僕とエッチしてるところを妹に見られて腹が立たないのかモジャ公!?」
「誰がモジャ公かっ!? いや腹は立たなくはないけど、油断してそのまま眠った私達も悪いし…アサヒもそういったコトを知らない訳でもなさそうだし…」
ホント、妹には激甘だなこのチャンネー。
知らないどころか興味津々どころか僕の影のカノジョでお前のライバルだよっ、いつまで子供扱いしてんだ!?
…なんてこと暴露した日にゃ〜姉妹喧嘩どころじゃ済まなくなりそうだけどな。
「ほらアサヒ、イケナイお兄さんはとっちめておくから、アンタはお着替えして…アサヒ?」
ユウヒが肩を揺さぶるも、アサヒちゃんは反応せず。
それもそのはず、そのまま熟睡しちゃってた。
徹夜で書き上げたらしいしな〜。
「チッ、ブラはまたお預けか…」
「どんだけ女子小学生の初ブラ見たいのこの変態っ!?」
「だってお前はブラしてないじゃん?」
「してないだけでちゃんと持ってるっての!
なんなら着けてあげるけど…?」
「ほぉ!? いやでも…ユウヒはやっぱりナマ乳がベストかなぁ〜♪」
「あぁんっ、まだ朝なのに…またアサヒに見られちゃう…っ」
「見せてあげればいいじゃない、はっきりクッキリぬっぷりシッポリと…♪」
などと朝っぱらからキッチンで抜きつ抜かれつしまくってたところへ、
「…おーおー朝っぱらから元気じゃん。若いってイイわねぇ〜♪」
朝帰りのナミカさんにエライとこ見られてしもーた。
「その調子だと二人とも…寝たわね? 御赤飯要る?」
並みの母親からは絶対聞けないお言葉戴きました〜♪
「いやでも貫通式まではまだ…」
「バカ正直に答えんでもいいっ!」
ユウヒにぼてくりこかされつつ、僕はなんとなく思う。
よくよく考えたら、僕を含めた彼女達は誰一人血の繋がりが無いんだよな。
でも、だからこそ並みの家族以上に気兼ねなく接することができる。
だとするなら…血の繋がりって、いったい何なんだ?
世間はとかく血縁ばかりを重視するけど、それほど必要なことなのか?
美岬家にいるうちに、僕はその答えを見つけることができるだろうか。
この、世話の焼ける姉妹とともに…。
「世話が焼けるのはアンタでしょっ!?」
ですよねー。
【第十四話 END】
アサヒ回第二弾の今回は、皆でアサヒのブラを買いに行くというトチ狂ったエピソードです(笑)。
あまりアサヒだけに焦点が集中しないよう、様々な人物や小ネタをテケトーに散りばめてみましたが…最終的にはアサヒの一人勝ちっぽい雰囲気に。
もうちょいキーたんとアカりんを目立たせたかった気もしますが…やっぱり小学生は最強だぜ(笑)。
終盤からはいよいよアサヒ作の小説がスタート。
作中作ってのは要するにお話二本分を考えにゃならんので、楽しみつつも苦しんで考えとります。
この作中作が次第に現実と創作の境界を超えて、今後の展開の重要ファクターになっていく予定ですので、乞うご期待♪




