水の物語 6.Put together (3)
18時になる数秒前、タブレットの画面が明るくなり、人影が見えた。ワクワクしながら、桜桃は画面の前で居住まいを正した。画面から声がして、桜桃は耳の穴を大きく開けてその声を聞いた。
「ハーイ、えっと、葛西……サクラモモ?」
「はい、ユスラって読みます」
「そうなんだ。初めての漢字……」
(声だけで分かる、あの堂々とした若宮奏の姿……)
桜桃は緊張しながらも何かを話そうとしたが、言葉が上手く出てこない。
「あの……」
ようやく出てきた言葉に奏が言葉を被せてきた。
「えっとごめんね。楽譜楽譜……」
画面に現れたのは、ロック歌手のような髪型の女性で、しっかりとしたメイクが施されていた。耳や唇にピアスがあって、金属のジャラジャラとした音が画面越しに伝わってきた。
「え……」
清廉で容姿が以前とは全く異なっていて、そのことに桜桃は言葉を失った。
(髪が、青い上に、刈り上げてますけど……)
「えっと、メンデルスゾーン、メンさん……えっと……。これだな」
(何か、指にもじゃらじゃらしたアクセついてて、ピアノ弾くって感じ、全然ないんですけど……)
奏は大きなあくびをして、カメラの角度を整えながら話し始めた。
「昨日、夜まで外出てたから、マジで眠い……」
桜桃が画面越しに固まっているのを確認して、奏は問いかけた。
「もしかして、若宮奏を知っていて、依頼をしてくれた?」
桜桃は大きく3度頷いた。
「マジで? 同世代に知られてるの、マジで嬉しい。そんなに、緊張しなくてもいいのに。若宮奏です。カナでもカナデでも、好きな方で呼んでくださーい」
奏のテンションが突然上がって、桜桃は面喰った。
「そんな、呼び捨てなんて……。」
「どうして? 同級生だよ?」
「でも……」
「まぁ、私は1つ上だし、そういうオーラ出てるかもだけど……」
「1つ上?」
「私、高校3日で辞めたんだよね。全然合わなくて。ここに居ても私にとって必要なものは得られないなって思ったの。それで……」
「それって、蒼佑と同じ!」
思わず桜桃が叫ぶと、それに呼応するように奏が叫んだ。
「そう、欲しいのはそのテンション! これで接してよ。よろしくね、桜桃」
その叫んだ奏を見て、桜桃はカッコいいと思った。