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ハガキ 水の物語  作者: 伊諾 愛彩
第6章
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水の物語 6.Put together (29)

 ドイツ人と婚約しているのに、ドイツ語が分からないというのは大変だな。お姉さんはしっかりとした雰囲気の人だったのに、得体のしれない人と婚約するだなんて変わってるんだな。人が人を好きになるというのは頭をおかしくさせてしまうんだなとか、勝手な想像をしながら、彼女を見ていた。

「何、私、何かおかしい?」

「あ、いえ。すいません。特に、何もないです」

開始時刻よりも20分ほど前に着いたのに、そのバーに居るのはその人の他に2~3人位だった。バーもまだ開店する前だったから、店のスタッフもほとんどいない。

「あの、今日ってどんな人が来るんですか?」

「駐在さんが多くてね。今日のメインは、子供も来れるから日本人学校の人たちかな」

「じゃあ、小さい子が?」

「ええそうよ」

真生は、「この中の何人か」が来ると言っていたのに、予想していたのとは全く違う様相である。

「カラオケはよくするの?」

「いえ」

「そうなんだ。今はカラオケのアプリがあるから、簡単に出来るのよね~。昔はソフトを入れるカラオケセットを使ってたみたいで、すごくやりやすくなったって言ってた」

あまり興味がなかったから、奏は聞いているふりをして頷いた。

 カラオケのイメージはよくないのだけれども、この空間で歌うのは悪くないと思った。足音とか人が動いている音とか、人の声とか、音の響き方、跳ね返りを聞きながら、奏は時間を過ごした。誰も話しかけてこなくて、その集まりを取り仕切っている日本人らしき女性が、人の輪の中で話を始めるまで集中して聴くことができた。

 集まっていたのは30人ほど、結構な人だ。この街には、カラオケの店はないから、久しぶりに日本語の歌を歌えることに半数ぐらいの人がワクワクしている。その表情がとてもよくて、その場でじっとしていた。


「上手い人もいたんだけど、いたたまれないくらい下手糞な人が多かった。それでも盛り上がるんだ。いつもの私なら耐えられないの。……なのに、それが良いなって思った。自分が弾きたいとかそういう気持ちにはならなかったけど、音楽の力みたいなのを感じた」

桜桃は奏のその言葉を聞いて口を開いた。

「奏はクラシックの人なのに、意外だね」

「意外……に見えるんだ。私は、弾くことよりも聴く方が得意だし、好きなのかもしれない。そういう自分に気付いたんだ」

奏は自分の気持ちを抱きしめるように話した。


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