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ハガキ 水の物語  作者: 伊諾 愛彩
第6章
34/38

水の物語 6.Put together (28)


 

 暫く奏は黙って下手糞なピアニストの音楽を聴いていた。安定感がなくて、どう考えてもアマチュアの音楽なのに、古くて傷だらけの店には妙に合っている。ピアノの音は狂っているし、お世辞にも良いとは言えない。でも心を落ち着かせてくれるような音だった。

「今度さ、この中の何人かでさ、音楽パーティーするんだ」

いつの間にかオーダーしていた新しいグラスに口を付けて真生は言った。

「音楽パーティー? それは、クラシックの合奏とか?」

「いや、ただのカラオケ大会」

「カラオケ……」

(ただの録音に合わせて歌うだけだし、歌うのは素人……あんまり気乗りしないな……)

「まぁ、君みたいな意識の高そうな子が来るようなところじゃないとは思うけど、日本語の歌、みんなで歌うのは結構楽しいよ。海外いるとなかなか聞けないでしょ」

そう言って、真生は奏に会場の場所が書かれたカードを手渡した。2人は連絡先を交換しなかったから、繋がりはカードに書かれたQRコードだけだった。



 桜桃は奏にレッスンを頼むようになっていた。奏はピアノを専門としているけれども他の楽器のことにも詳しくて、良い演奏をするために必要なアドバイスをくれた。ReGアプリで予約した、奏のレッスン、その時間を過ごしている時に、奏はビデオ越しに真生に出会った時のことを桜桃に話した。話しているときは、彼が会社の社長だなんて思わなくて、ただの綺麗なお兄さんだと思っていた。ギュフは日本国内で急成長を遂げて色々なところに店舗があるし、海外にも進出しようとする企業だったから、名前を言えば、奏に限らず殆どの人が知っている会社の名前だった。

「まさか、社長がドイツの古いレストランにいるなんて思わないじゃない」

真生の言葉は、奏には強引な感じに聞こえたから仕方がなくという体でいたけれども、内心では真生にまた会いたいと思って、奏は会場に向かった。カラオケ大会が行われる場所は、結構大きなバーで、そのパーティールームのようなところを貸し切っていて、そこには、小さなダンスフロアもあった。

「いらっしゃーい」

その部屋に行くと、日本人らしき女性が日本語で奏を迎えてくれた。

 カラオケの歌詞が投影できるようなモニターがあって、日本から遠く離れた場所で日本のカラオケができるということよりも、良い感じの照明で、マイクとか良い感じでのステレオ、部屋の音の返りが良い感じで、良さげな音響機材があるということに驚いて、口を閉ざした。

「ダーフイッヒドイチュスプレヒェン?」

「えっと、あの、日本語……」

「日本語でいいの⁉ 私、ドイツ語苦手だから助かる~」

その女性は、若いお姉さんでドイツ人と婚約している人だった。


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