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ハガキ 水の物語  作者: 伊諾 愛彩
第6章
33/38

水の物語 6.Put together (27)

 奏は、深呼吸をして質問をぶつけた。

「じゃあ、演奏は聞いたの?」

「いや。でも、ちゃんと聴いた人が感想を教えてくれた。浅木海里は、反則的、若宮奏は、方針に忠実な演奏だったってね」

奏は、身体が震え始めたのを感じた。

「それでも、浅木海里の方が良かったわけでしょ?」

「そうだなぁ。浅木海里の実力は、並外れているからね」

「それはどれくらい? どうすれば彼に勝てる?」

食い気味に真生に迫る奏を真生は笑って嗜めた。

「君は君でしょ。同じ土壌で戦うべきじゃない」

「音楽家になれる牌は限られてるの。同じ年に生まれた以上、戦って勝たないと私は稼いでいくことができないの。コンクールの一位は1人だけ。いつも彼と戦わないといけないの」

叫ぶような声で訴えた奏に対して、真生は静かに応えた。

「僕はあまり音楽のことを知らないんだけど、大変なんだね」

奏はゆっくりと頭を上げた。

「コンクールで一位が取れないということがどういうことなのかはよくわからないんだ。僕はクラシックの専門家じゃないから。良いものは良い。それだけ。一位のものであろうと、二位のものであろうと、極端に言えば最下位のものであろうと、僕が好きかどうかが大事。コンクールで一位を取った人なら、良い演奏をしてもらえるというカンジには聞こえるけど、どういう風に感じるのかは実際に聞いてみないと分からない」

「そういう貴方みたいな考えの人ばかりじゃないもの。肩書が仕事に繋がるから」

「それも、捉え方次第だよ。浅木海里が世代を代表するピアニストとして成功する。それに乗っかることもできるだろう。浅木海里のライバル若宮奏。そういう位置づけで君は君のやりたい事をすればいいんだ」

「そんな浅木海里っていう名前を出さないといけないのは、嫌」

相手はどう思っているのか分からないが、意識している奏としては屈辱的な冠である。

「そう? 意識している君にはお似合いだよ」

「馬鹿にしてる?」

腹立たしくて思わず手を挙げそうになったが、真生には手を出せない。そう思わせるだけのオーラみたいなのがあった。

「真実を言ったまでだよ。音楽家は、誰でもなれる。もしも、君が目指しているものが音楽で食べていくことができる音楽家なら、お金のある人に好かれることを目指すのがいい。パトロンを得るというのは一つの方法だよ。パトロンが新たな仕事を紹介してくれることもある。多くの人に支持されなくても、君に十分なお金を払ってくれる人さえいれば、君は音楽家として生きていくことができる。それでいいじゃないか?」

音楽家のプライドをズタズタにするような話だ。それなのに、奏は抵抗せずに聞いていた。真生はその奏の心の内も見透かしている。

「お金は戦略的になれば手に入るものなんだよ。プライドとそれは分けた方が良い」

「……分けられないからな……」

「子供だね……。人間らしい……というべきか」

そう言われたって、構わない。それが奏の生き方だから。



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