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ハガキ 水の物語  作者: 伊諾 愛彩
第6章
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水の物語 6.Put together (24)


 家においてあった現金が無くなるというのは、両親にとってそんなに大きな問題ではない。父親も母親も一流企業の正社員なのだ。社会を変えるような力のある人たちではないけれども、家庭を十分に幸せにしていくことが出来るような力はある人たちだ。運よく家族の中には、病気だとかで世話をしなければならない人がいないし、奏はあまり手のかからない子供だった。

 奏は親が居なくても自分一人で色々なことができる子供だった。ピアノのレッスンの送り迎えの必要もなかったし、親の帰りが遅くても祖父母や親戚の家、友人の家等のお世話になって何とかする子供だった。自立した子供、それゆえに、親は大切なことを見落としがちになる。一緒にいる時間が長ければ長いほど、お互いの性格や性質なんかが分かるようになるのだけれども、見えていない面がたくさんあった。

 奏はお金を盗んだ。盗むというのは良くないことだが、彼女がそうする背景もある。それを正しい正しくないで判断するだけでは、その行為の本質には辿り着けない。怒りがないわけではなかったが、それを抑えて、母親は冷静に奏の行為の本質を探ろうとした。

 中学生の子供がお金を必要とする理由として、自分自身に買いたいものがあるというのもある。それは良くないことだけれども、もっと危惧するべきことがある。誰かからお金を巻き上げられているかもしれないということだ。奏は誰かとつるむような性格はしていないから、不良グループのターゲットにされる可能性は否定できない。奏が、ピアノのレッスンを続けていることを、同じ中学校の生徒たちは知っている。それは奏の家にピアノのレッスンを受けるだけの余裕があるとなれば、お金を巻き上げようとする不良たちのターゲットになりかねない……が、奏はそれに屈服するような感じではない。

 父親というのはこういう時に全く当てにならないと母親は心の中でため息をついた。

「この前のコンクール、残念だったわね」

「……聞いてないくせに……」

「確かにそうね。仕事で会場には行けなかった。……貴女が来てほしくなさそうだったのもあったけど、それは私の勘違いかしら?」

母親の見立ては正しくて、奏はぐうの音も返すことができなかった。

「当日は聞けなかったけど、動画では聞いたわよ。……先生の言うことに忠実な良い演奏だった。優勝した子は、貴女に比べて束縛のない演奏をしていたわね」

「……それは、良い演奏じゃないって言われたのに……」

「そうね、貴女の先生ならそういうわね」

褒めてくれてもいいのにと思うけれども、奏と母親の間にはそういうのができるような関係がなくて、冷静に対話を続ける。こういう関係を嫌だなと思うけれども、だからと言って甘えるなんてことはできないし、お互いに次の行動をどうするべきか探りあぐねていた。



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