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ハガキ 水の物語  作者: 伊諾 愛彩
第6章
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水の物語 6.Put together (23)


 何も答えない奏をどうすることも出来ないまま時間が経っていった。

「ただいま」

玄関から、父親の能天気な声がした。仕事から父親が戻ってきたのだった。

「えぇ!? これは何が起こってるんだい。ご飯は?」

普通ではない状況を見て、父親は青ざめた顔をした。母親から「奏がお金を盗もうとしていた」という話を聞くと、父親は強い調子で母親に迫ったのだった。

「ねぇ、ママさん。警察に突き出そう。俺にはどうしていいのか……」

奏の父親は、小柄で細身という弱そうな外見をしていた。それでも、家では父親としての役割を果たしていると思っていた。奏の助けになるような言葉をくれる父親、そういうのを期待していたのに、彼は奏の敵のような態度を取った。

 父親は、弱そうな外見、それだからこそ一流企業の事務員として、第一線で活躍する社員たちをさせてきたような人だった。でも彼には一流企業の正社員という社会の中の上位層の肩書がついてい。そうであるのに、うろたえる父親を見て、奏は落胆した。一流企業に勤める立派な父親が、奏が悪事を働いたことに対して、なすすべがない。奏が父親に描いていた像は幻だったのだ。

「奏、こんなことは言いたくないけれども、最近成績が下がってきたって言うじゃないか」

(だから何だって言うんだ)

父親持ち前の情報収集力、それをうまく利用して出してきたような台詞だ。

「……これはね。悪い友達とつるんで、悪いことに誘われているんじゃないのかい? ママさん、こういうのは警察と相談するべきだよ。中学生でも、麻薬とか、詐欺グループとかそういうのとの繋がりとかもあるって言うじゃないか……」

(ああ、胸糞悪い台詞だ……)

奏が息を吐くと、母親が割り入ってきた。

「あなたは黙ってて」

父親は博識で色々なことを知っていた。だから、会社という社会で信頼を得て、安定した収入を得られているのだろう。彼の口から出てくる言葉は正しかった。けれどもそれは、奏にとっては刃のようで、父親が自分のことを信頼していないことを示すような言葉だった。

「なぜお金が必要なのか、正直に話して、私はそれが聞きたい」

母親はただ言葉が出てくるのを待っていた。

「貴方のしようとしていることは、正しいことではない。だから、私は貴女がどうしてそのようなことをするに至ったかを知りたい」

「……私を疑っているんでしょ」

「……」

母親は何も答えなかった。

「……お父さんの言葉聞いてたら、私が悪いグループとつるんでるとか、そういう目で見てるんでしょ。成績が悪いのは、確かにそう。だけど、それと不良と関わっているかは関係ないじゃない」

音楽を真剣にやっている自分、それがどうして社会に反したようなことをしているようなクズのような人々と同じと言われなければならないのだろう。

 表情が怒りに浸食されていく奏を見て、母親は父親を追いやった。母親はその奏に対してまっすぐな視線を向けた。

「……貴女がお金を必要としているのは、音楽に関わることね」

母親は奏の理解者だった。



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