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ハガキ 水の物語  作者: 伊諾 愛彩
第6章
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水の物語 6.Put together (15)

 奏は桜桃の島での生活について興味が湧いたようだ。

「田舎でヴァイオリンを練習するってどんな感じなの?」

「え、普通だよ。家で楽譜見て何度も弾いて……」

「技術の問題じゃない。楽譜の音を広げるのに、どういう効果があるの? どんな風に音で世界を作っていくの?」

「世界を作る?」

「ほら、桜桃が弾くメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の冒頭のメロディーって、悲しくて、感情の渦が烈しくて……それをどう」

メロディーラインの烈しさを感情の渦と表現するのは、分からなくはない。でも、桜桃は返答に困った。

「感情の渦……かぁ。確かにそうだと思うけど、他の人の色々な感情は、苦手というか、分からないんだ。演奏をするのに、恋愛は大事って言われるけど、恋愛したことないし」

「じゃあ、どうやって表現するの? 弾いてみてよ」

「えぇ、このタイミングで?」

「そう。説明されても分からないから、弾いてみて。それが一番分かる」

確かにそうなんだけれども、突然演奏するというのは乗り気がしない。ヴァイオリンのラック君の方を見ると、彼は乗り気で、それに乗せられて桜桃は渋々立ち上がった。

「あまり、期待しないで……」

「ストップ。それダメ。弾くときはそういうネガティブなことは考えないの。私が一番うまい。自意識過剰っていうくらいのほうが良いと思う」

「えぇっ」

それは尤もだけど、あまり得意じゃない方法だ。練習をするときは、そんな気持ちではなくて、ちゃんと指が動いているかとか、運指は正しいかとか、音を外していないかとか、良い音がなっているかとかそういうことを考えている。何度も弾いていれば、楽譜は暗譜して必要のないものになるけれども、またそうなった時に楽譜を見返すとまた違う事が分かってくる。自意識過剰になって、もう練習は必要がないなんて思うのは良くない。

「即ち、コンサートだと思って弾いてってことだね」

「私に仕事させるんだから、そうに決まってるでしょ」

奏は挑発的だった。しょうがない。その挑発に乗ってやるか。桜桃は、ラック君を構えて一呼吸した。


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