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ハガキ 水の物語  作者: 伊諾 愛彩
第6章
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水の物語 6.Put together (12)


 予選落ちを繰り返すようになっていたが、とあるコンクールで全国大会への切符を手にした。本選は東京ではなく浜松で、東京に住んでいた奏は、新幹線に乗って泊まりで行くということになった。

 両親は共に働いていたから、泊まりで同行することは難しく、行きはピアノの先生と一緒に会場まで向かうことになったが、帰りは一人で移動しなければならないことになった。中学生だし、日中の移動なので問題はないだろうとのことだったけれども、奏の祖母がそのことを不安に思っていた。

「まだ奏ちゃんは中学生なのよ。一人で遠くまで行くのに何でアンタはついていかないんだい。そういうのは無責任じゃないのかい」

少し離れたところに住んでいるにもかかわらず、わざわざ家にまでやってきて母親を嗜めた。それを見て、奏は複雑な気持ちになった。

「何で嬉しいことのはずなのに、それに対して嫌な気持ちをぶつけられてしまうことも起こるんだろう……」

決して乗り気ではないけれども、コンクールのために練習を頑張って結果を残して全国大会に行くことができた。子供の頃はもっと楽しく練習をしていた。そんな楽しさを感じられないくらい努力した。そうしないと音楽で認められることはない。小学校の頃の様に輝いていた自分に戻るためには、とにかく前を向いてこなしていくしかない。強い思いを持ちながら、奏は練習を続けた。そのために技術が上がっていった。そうなるまでの道程は簡単ではなかった。何度も落選した。だからよりたくさん練習した。今回の予選は、その成果もあって、速い複雑なパッセージをミスタッチなく弾くことができた。だから、本選に出場できた。努力をしているからこそ得られた機会だ。笑顔で頑張ってきてと送り出してほしい。

 本選に備えて、ピアノを弾いていると、祖母の怒った顔がふと浮かんできて、指が鍵盤の上を転がっていった。その後の立て直しが出来ないくらいの大きなミス……集中力が切れてしまう自分の弱さ……。どうしてこんなことをしなければいけないんだろう。音楽がしたいだけなのに。逃げたい。もう、嫌だ。

「だったら、逃げればいいだろ。君は自由なんだろ? 自由にやればいいんだ」

不思議な声が聞こえた。それは、誰かの声だと思うのだけれども、周りには誰もいない。自分の中から溢れてきた言葉、それもあり得るかもしれない。自由。その言葉は、甘くて力強い響きがあった。


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