表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハガキ 水の物語  作者: 伊諾 愛彩
第6章
17/38

水の物語 6.Put together (11)

 母親はその状況を深刻に考えるようになって、奏に対して提案をした。

「奏、一旦音楽のことは置いといて、塾に通ってみたら?」

母親は奏の非凡な音楽の才能を認めてはいたが、様々な人の話を聞くにつれて、音楽で食べていくということはまず無理だろうと考えていた。母親の提案は、音楽ではなく、普通の道を歩めと言われているようにも思った。

(でも、お母さんは誰よりも若宮奏の演奏を分かっていてくれている)

だから、奏は穏やかに母親の提案をを受け入れた。

 音楽は好きだったし、練習することも楽しかったけれども、コンクールのために練習することが苦痛になっていた。コンクールのために準備する曲は、先生に言われた通りに弾くもので、つまらないものだった。提示されるレパートリーは定番曲が多かったし、入賞するために無難な解釈の演奏をするように心掛けた。クラシックの定番曲はたくさんの演奏家の録音があるし、模範演奏はインターネット上に無料で転がっている。録音と生の演奏は違っているけれども、他の人が出来る演奏を真似したところで何の意味があるのか。コンクールというもの自体に疑問を抱くようになっていた。そんな迷いがある中で、演奏をしたところで思うような結果は伴ってくるはずもなかった。

「ピアノが弾けるだけじゃだめ。大人になるためには、勉強をして色んな事を知っておかないとね」

そんなありふれた台詞を奏は自分自身に言い聞かせるようになった。学校の成績もピアノの能力も高かった少女時代の奏は、理想の自分を描いていたし、その自分になれるという自信もプライドもあった。

 ピアノを弾く時間は減らさない。拘束される時間は増えるけれども、塾にだって通った。だけど、コンクールで成果を上げることも、学校の成績を上げることもできなかった。楽しさではなくて、欲しいのは結果になっていた。頑張れば結果はついてくる。コンクールのためのレッスンは楽しくない。勉強も、強いられるものになっていたから、問題が解ける喜びとかそういうのもない。それでも頑張る。そうすれば、必ず成果は上げられる。その想いが更に奏を苦しめた。学校、ピアノの稽古場、塾、この3つの場所を行ったり来たりするだけの生活になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ