水の物語 6.Put together (10)
小学校を卒業し、中学校は歩いて15分くらいの近くの公立中学校に通うようになった。中学生になると、小学校以上に学校に居なければならない時間が増えた。Ⅰ時間目から6時間目まで、どんなに早くても家に戻れるのは4時を回ることが多くて、奏は苦痛に思っていた。勿論、学習内容も増えた。高校受験という目標を抱えて、周りの同級生たちの勉強に対する意識も変わった。その上、部活や委員会などの活動も増えた。奏は部活にも委員会にも入らなかった。それでも、予定でいっぱいいっぱいと感じるような毎日になった。
「ねぇ、今日は休んでいいでしょ?」
コンクールが近付くと、奏は学校をさぼるようになった。母親はそれを良いこととは思っていなかったけれども、奏が何時間もピアノの稽古をしていることは重々分かっていたし、コンクールのプレッシャーも理解していたから、奏の申し出を拒否することができなかった。
コンクールも中学生の部になると、レベルが上がる。周りに置いていかれないように練習をするのだが、周りのテンションについていけなくなっている自分にも気が付いていた。更に学校の成績は落ちていっている。音楽で高校に行くつもりだった奏は、追い詰められていった。
学校の成績は始めのうちから取り返しのつかないようなことになることは良そうで来ていた。初めての中間テストの点数は英・国・数・理・社、どの教科も六割。合格点ではあったけれども、小学校時代は九割以上の点数が取れることが当たり前だったから、そのテストの点数に打ちのめされた。だから、勉強をすることが嫌いになっていった。
「別に良い。だってピアノを続けていくのに、学校の成績なんて関係ないから」
同じ小学校から同じ中学校に進学した同級生は、70人くらいいたのに、殆どの人のことを知らなかった。ピアノばかり弾いていたから。特別な子だったから。一緒に勉強を頑張ろうとかそういう気持ちになれるような友達はいなかった。学校なんてどうでもいい、勉強なんてどうでもいいと思うと成績は更に下がっていった。
それなりで満足できるような人間だったら、悩まなくて済んだのだと思う。コンクールでは奨励賞、学校では6割の成績、頑張っているからこそ取れる成績だ。でも、小学生で高いプライドを築いてしまった奏にとっては、由々しき事態だった。コンクールも、学校もうまくいかない。どんどん状況を悪く考えるようになっていった。