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ハガキ 水の物語  作者: 伊諾 愛彩
第6章
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水の物語 6.Put together (9)

 桜桃は天才児だった奏の話を聞いて、羨ましいと思った。桜桃はずっと神威島で一人の先生、香花紫の元でレッスンを受けていて、先生の選択肢は全くなかった。紫は高いヴァイオリンの演奏技術を持っているにもかかわらず、船で行くことしかできない島で暮らしている。このことからして、ただものではないと思うのだけれども、桜桃は知らない。いや、桜桃だけではなく島の人間には分からない事情があったようだ。

 桜桃は上の空になっていたが、奏の言葉がまたさっきまでの話に引き戻された。

「もうね、あの頃は更に性格悪かった……」


 週一回の小学校の朝礼、その時に担任の先生が全校児童に向かって言った。

「若宮奏さん、入賞、おめでとうございます」

コンクールで入賞すると、小学校でもそのことを褒められた。全日本クラスのコンクールだったから、そういう価値はあったのだろうけど、わざわざみんなの前で褒められるというのは驚きだった。

(別に大したことないのに……)

確かに小学校の低学年の頃、何時間もピアノの練習をした。ずっと楽譜を見ていた気がする。でも、それは強いられたからではなくて、奏にとってはやりたいことだったから、苦ではなかった。そして、結果的にコンクールでの入賞ができたわけだし、入賞できて当たり前になっただけだった。

 友達よりもピアノが好きだった。ただそれだけ。コンクールに入賞して特別な慈道だったから、休み時間は音楽室のピアノを弾かせてもらっていた。教室や運動場では、他の児童たちがワイワイと騒いでいた。

「……また馬鹿が、イキってる」

男子が女子に対してちょっかいをかける。構ってもらうためにあえて掃除当番をさぼる。そういう様子を見ていて、その中で生活するなんて考えられなかったから、音楽室という聖域が与えられて良かったと思っていた。ただ、両親はそれをあまり良い傾向ではないとは思っていた。奏は周りの子たちのことを、子供過ぎると見下すようになった。奏は勉強することも好きだったから、小学校では勉強のできる方だったし、先生は更に奏を特別な良い生徒として見るようになった。そして、自尊心以上に虚栄心を大きくしてしまうという結果を招くこととなった。




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