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ハガキ 水の物語  作者: 伊諾 愛彩
第6章
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水の物語 6.Put together (8)

若宮奏は、母の影響で小さいころからピアノを習っていた。器用で、音を捉えることがうまく、楽譜を読むことが得意だった。奏の先生は、お嬢様の通うような音大を出た先生で、優しい教え方をしてくれていたけれども、それは奏には向いていないと悟った。小学校に上がる頃に奏の才能を見抜いて、自分ではない、もっと高度な音楽を教えてくれる人のところに行くように勧めてくれた。

 高度な音楽というのは、一流を目指す、ピアニストとしてやっていくことを考え導いてくれるような先生のことを指していて、奏の両親はあまり乗り気ではなかった。一流を目指すとなれば、レッスンの送り迎えやコンクール出場の往復に付き添うなど親の負担は大きくなる。両親は共働きだったから、奏が一人っ子とはいえ献身的に支えるのは難しい。それに、奏には一般的な普通の子供としての生活を送ってほしいという考えだった。奏の父親は音楽にはあまり関心がなかったし、奏の母親はお稽古、教養の一つとしてピアノを習っていた人で、それなりに出来るようになれば十分だと考えていた。

「小さいころに始める方が、技術を習得するのは早いですし、辞めるのはいつでも出来ると思うんです。こんな才能を持っているんだからもったいない」

先生は奏のことを思って、何度も同じような話をした。何度も勧められるうちに、奏が特別なレッスンを受けることに乗り気になってきて、奏が両親に対してやりたいと言うようになった。

 奏の境遇はとても恵まれていて、経済的に困窮しているということはなかったから、奏がそこまで言うのなら、レッスンを試しにいってもいいかもしれないと紹介してくれた先生のところに連れて行ってくれた。電車一本で行ける場所に稽古場があり、小学生でも一人で通えるようなところだった。

 2人目の先生は、高い技術を持っていて、難しいパッセージも弾きこなせるような人だった。楽譜通りに弾くことをベースに、その上で自分を音に載せていくというスタンスの人だった。他の人の演奏を聴いて聴音し、我流で弾こうとしがちだった奏にとって、自分の弾き方を改められたり、たくさんの指摘をされるプライドが引き裂かれるようなものではあったのだけれども、奏はそれを大事なことだと自分自身に言い聞かせて、我慢強く稽古に取り組んだ。

 楽譜自体、感性豊かな作曲家が才能や心を込めて作ったものだから、楽譜通りに弾けば、楽しいというのは自然と湧いてくる。コンクールは年に一度くらいだけれども、受けるようになって、入賞する楽しさというのも得られるようになった。奏も両親も音楽で食べていくとかそういうことを期待していないから、それも冷静にコンクールの演奏に取り組める要因になったと思う。どんな風に弾くかは、先生の言うとおりにやるのが正しくて、その通りにやっているだけで、結果はついてきた。



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