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ハガキ 水の物語  作者: 伊諾 愛彩
第6章
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水の物語 6.Put together (5)


 そのまま強い奏の姿でレッスンになるのかと思いきや、彼女は弱さを吐露し始めた。

「強い? そんなことない。強いように振舞っていないと、やっていけなかったから、そうしてるだけで……そんなことないよ」

話しているうちに奏の強さはしぼんでいく。表情がコロコロ変わって、それが分かりやすい。ただ、桜桃はその変化についていくのが難しいと思った。

「音楽専攻のある高校に入学したんだけどね、無理だった。全然合わないんだもん。私、空気読めないし。それで、引きこもりになっちゃった」

(引きこもり……)

奏は堂々と自分の意見を言えるし、そんな風には見えない。

「勉強、嫌いとかには見えないですけど」

「勉強は好きだよ。嫌いなのは人間、同業者」

(でも、同業者が嫌いだったら、音楽家なんてなれない)

桜桃は奏の発言を上手く否定できなくて、心の中でモヤモヤを抱えた。わざわざ良い音楽を求めてヨーロッパにまで行ってしまう意識の高い音楽家の卵だ。奏は人間嫌いにも、音楽家嫌いでもないように見える。

「……嫌いなのは、その合わなかった学校での話、ですよね。だからそういう言い方は……あまり……」

「そういう言い方?」

桜桃が渾身の力を込めて発言すると、奏はそれに耳を傾けてくれた。

「人間とか、同業者とか嫌いとか言わないで……くだ、さい」

桜桃の言葉を聞いて、奏の表情が変わっていくのがわかって、桜桃自身は大それたことを発言してしまっているように感じた。そして、急に恥ずかしさが湧いてきて、突っ伏した。

(言うんじゃなかった……)

写真の若宮奏とは全然違う容姿だけれども、画面越しにいる相手は確かに若宮奏で、趣味みたいな感じで音楽をやっている桜桃が意見するなんておこがましいにも程がある。奏は、桜桃を見ながらクククっと小さく笑った。

「そうだね。桜桃も人間だし、同業者だもんね。一括りにしてしまってはいけない」

奏は言葉を音にしてその内容を確認しているようだった。

「確かにそうだ。……乗り気じゃなかったけど、雁湖に入ってよかったかも。嫌じゃない。これは、大事だね。忙しくて、あまり勉強できてないから、卒業には4年以上かかるよって言われてるけど。今はオンラインでしか受けれないから、しょうがないよね」

「あの……私も、ちょっと前まで海外に居て、オンラインだったけど、なんとか……えっと、成績は全然ダメなんだけど、相談に乗ってもらっているというか。……うん、きっと大丈夫……」

桜桃は控えめに話したのだけれども、その言葉が奏の心に刺さったようだ。


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