1.2.
書き上がっていませんが、投稿開始。
恋愛モノ読むのは好きなんですが書くのが苦手でして。
あまり上手に書けてないかもしれませんが、お付き合いください。
それはいつもより早く帰ってきたお父様が、わたくしとお母様と一緒に夕食を召し上がって、わたくしがお部屋に辞した後にサロンへ来るように、といつもとはこれまた違ったお呼び出しがあった日の事です。
いつもとは違うよそ行きの顔をしたお父様から、お前の婚約が決まった、と告げられました。わたくしのよく知るお父様の顔はいつもニコニコとしていて、母とわたくしとお姉さまたちと四人で何かしているのを、居間の片隅にある金糸と銀糸の刺繍のされたお気に入りの椅子に座って、お酒をなめながらこちらを見ているものだったから正直驚きました。ちゃんと伯爵家当主のお顔も、お家でもできるのね、って。
「これは王命で、断ることは出来ない」
「あら、まあ」
わたくしは確かにそれほど優れてはおりませんけれど。王命を出してまでどこかに嫁がされるほど何か悪いことをした記憶もありません。褒章としてどこかに下賜されるにしろ、まずは決定前に詳しいお話があってしかるべきだと思うのですけれど。
わたくしの意思など関係ないとお父様も陛下も考えている、ということなのかしら。
「貴方、また言葉が足りておりませんわ」
「うん? ああそうか。いや自分の不手際の説明も兼ねるから、恥ずかしくてね」
お父様がお母様を、いつもと同じ顔で見つめる。にこにことした。対するお母様の視線は冷たい。とても冷たい。
「では、私から説明するわ」
「頼むよ」
お父様はさっさと執事のアードルフの淹れたお茶に手を伸ばす。説明責任をお母様に丸っとお投げになった。
「ダーヴィド・フィルップラ子爵はご存じ?」
「はい。直接のご挨拶を差し上げたことはございませんが、先日もお茶会でフローラ様とヘイディ様が卿のお話をされておいででしたよ」
ダーヴィド様は王太子殿下のご学友でもあり、側近のお一人でもある。また侯爵家の嫡男でもあるので、未婚の女性人気は高い。今は殿下の側近として必要な子爵を名乗っておいでではあるが、と言ったところ。
わたくしより七つ上の二十五歳で、現在ご婚約者様はいらっしゃらない。故に、淑女の皆様にとても狙われている。
「陛下や殿下のお側でお仕事をされるのは、国の舵取りを兼ねることですからとても重要なことなのは、あなたも相違ないわね」
「ございません。いつもお父様は素晴らしいと思っていますわ」
「んん、ありがとう」
急に褒められて、お父様が少し照れ臭そうになさった。大体いつも王城においでになって、王城での夜会の時もわたくしたちのエスコートよりも陛下のお側に侍っていることが多いのです。もっと小さい頃は寂しかったですけれど、今となっては誇らしい事であることは、理解しています。小さい頃は、寂しかったですけれど。
「そうなりますと当然、色恋沙汰にかまけている余裕はなくなります」
「お見合いですとか、そういうお話は多いのでは?」
「見合いの時間がどんどん惜しくなるんだよねぇ」
お父様の目が、少し遠くを見る。思い出したくない何かを、見ているのでしょう。
「ご令嬢方とお茶を飲んでいる時間で、あの処理が終わるとか、この分早く帰れるのではないか、とか。相槌を打つだけだと、嫌がるご令嬢もいらっしゃるしね」
「私とエドヴァルド様も、当時の陛下のお声かかりでしたわ」
「王命とは、つまり?」
「陛下のご命令で、あなたはこれから一週間、フィルップラ侯爵家にて生活していただきます。ダーヴィド様と共に暮らせるようであればお披露目のお式を行い正当な婚約者となります」
「承りました」
陛下のご命令とは、お見合いの席のお話だった。確かに、よほど相性が悪くなければそのまま婚約者となるだろうから、王命で婚約者が決まった、というお父様の言葉も間違いではない。でも説明は必要だと思うのです。
あれね。先日フローラ様から借りたご本が悪かったのだわ。政略結婚で貧乏なご令嬢があまり麗しくないけれど大金持ちの殿方の所にお父様の命令で嫁ぐお話だったものだからつい。全体的に悲しいお話で、読んでいて辛かったわ。しかも最後特に幸せにもなりませんでしたし。
ダーヴィド・フィルップラ様は、わたくしにお話が来たということは、おそらく普段は口数の少ない方なのでしょう。お父様も仕事の時は口が回るけれど、帰宅するとほとんど無言になりますから。お母様とは業務連絡を行うけれど、わたくしたち三姉妹はあまり父の声を聴いた記憶がありません。
2.
実家であるアハマニエミ伯爵家の子は三姉妹です。一番上のイーネスお姉さまがガブリエル・ハーカナ様を婿養子にして家を継がれる形になりました。ガブリエル様はお父様の後を継いで国政に携わることはないのだそうだけれど、領地の切り盛りはすでにお姉さまと一緒に行ってくださっている。
下のヨハンナお姉さまもお嫁に行っており、すでにお子様も生まれている。クレメッティ・ヘリスト伯爵子息様の元で、色々と手広くやっていると先日お会いした時にはそれはもう楽しそうに微笑まれた。お姉さまは元々ご商売などにもご興味があったようだから、楽しそうで何よりと、お父様が呟いておりましたっけ。
アハマニエミ伯爵領は王都からそれほど遠くはありません。ゆったりとした馬車の旅で五日ほど。ヨハンナお姉さまの嫁がれたヘリスト伯爵家も同様で、ゆったりとした馬車の旅で六日ほどの旅程になります。わたくしとダーヴィド様のお披露目のお式にはお姉さまたちも出席していただけるでしょう。だからこその、七日ほどあちらの家に滞在してお見合い、という形なのでしょうけれど。
荷造り自体はメイドたちが行ってくれるので、わたくしが行うのは私物の整理になります。お披露目のお式の後には自宅に戻ることも出来るでしょうから、すべてを行う必要はないのですけれど。少なくとも、お借りしているご本の類は今のうちに整理して、言づけておかないと。
王都の屋敷と領地の屋敷で、枕が変わるだけで寝つきが悪くなるから、枕も持って行くようにとお願いをします。
王都にあるアハマニエミ伯爵邸からフィルップラ侯爵邸は遠くありません。何かあればすぐに使いを出せる距離ですし、執事のアードルフが言うには使用人なら馬車に乗るより歩く方を選択する距離だといいます。我が家よりは王城に近い位置にあり、通りも少し違う程度なのですとか。
なので夜会のドレスなどは置いて行きます。三日後に夜会があり、現時点でわたくしは出席予定ですけれど、まあ実家に戻ってきて用意をしてもいいですし、あちらにドレスを届けさせても問題はありません。アードルフが言うには、それが問題のない距離なのですって。
そうして準備を整え、お父様から婚約のお話をいただいた翌日のお昼には、わたくしは慣れ親しんだアハマニエミ家の屋敷を離れ、フィルップラ侯爵家の門の中におりました。
「ご足労感謝いたします。お迎えに上がれず、申し訳ない」
屋敷のドアの前で、ダーヴィド様が待っていてくださった。アハマニエミ家の家紋の描かれた馬車のドアを開け、手を差し伸べて下さる。
「お気に病まないでください、ダーヴィド様。わたくし昨夜急にお話を聞いたのですもの、貴方様もお変わりないのでは?」
ダーヴィド様は王太子殿下の側近で、お父様は陛下の側近です。お話の順も、父の方に先に来るでしょう。お嫁にやる父親の方に。もしかしたら二人とも先週の内にお話は行っていて、わたくしだけが昨日知らされたのかもしれませんけれど。
ああ、その可能性はありますわね。フィルップラ侯爵家の方でもお部屋の準備などもありますでしょうし。まあでも、お迎えに上がって頂かなかったことをどうこう言うつもりは元々ありませんから、お父様仕込みの笑顔を向けておきます。
「こちらへどうぞ」
ダーヴィド様の手を取って、フィルップラ侯爵家の恐らくは執事だろう男性に案内されて屋敷へと入ります。エントランスは長方形で、メイドや従僕などが並んで出迎えてくれました。今のところわたくしはただの客人ですけれど、もしかしたら将来の女主人になるかもしれません。
あちらの皆様も、気合が入っているように見えます。
「ビルギッタ嬢のお部屋は二階の客間をご用意いたしました。まずは荷解きをしていただいて」
「はい」
玄関から入って右側、階段室の方へとエスコートされます。
「今後の事については、その後サロンでお茶を飲みながらお話ししましょう」
「かしこまりました。よろしくお願いいたします」
階段を上った先、左手に客室がありました。左の奥にはテラスがあり、よい季節の時にはそこでお茶をすることも出来ると部屋に入ってからメイドのユリアに教わりました。
部屋には大きな窓があり、重たい金糸の刺繍の施されたカーテンが下がっています。わたくしの好みではないですが、実家の客室も似たようなカーテンが下がっていますから、親世代ではこれがスタンダードなのでしょう。
ベッドカバーも同じ、金糸の刺繍の施された金色の上品な物。
丸いテーブルのそばにあるソファは似たような色合いではありますがもう少し小花が散っていて愛らしく。
「それではしばらくの間、お世話になります」
ダーヴィド様の手を放し、軽くスカートのすそを掴んで、お辞儀をいたしました。
20240901.表記ゆれなど一部修正。口調がまだちょっと硬いわね。