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嘘つきは青春の始まり  作者: 月雪奏汰
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必死な嘘つき男

世の中には嘘というものが存在する。

 断言しよう。嘘をついたことがない人など存在しない。

 テストの前に全然勉強していないと言いながら、なぜかいつも高得点の優等生。

 宿題をやってすらいないのに、家に忘れてしまっただけだと言い張る運動部の男子。

 どちらも周りに存在するのではないだろうか。なんだったら自分がこれですって人も居るかもしれない。

 嘘をついてしまう時に共通する事は、その人なりの大義名分がある事だ。

 全然勉強していないと言ってしまうのは真面目だと思われたくないからだし、宿題を家に忘れただけだと言い張るのは少しでも怒られずに済ませたいから。こんな感じではないだろうか。

 嘘はバレなければ、その人にとって大抵の場合プラスになる。

 それならば、バレるかもしれないというリスクを負ってでも、利益のために嘘をつくべきでは無いだろうか。



 心地よい春風が吹く入学後初めての登校日である今日、名門進学校である私立桜沢学園の1-A組に快活な様子で話す男子生徒が居た。

 この男子生徒こそ、先程嘘に関する若干自分に酔ったような独白を披露していた彼その人である。

 名前を芹澤優という。

 優は落ち着いた様子でクラスメートと会話している。その落ち着きようは台本でもあるかのようだ。

 内容はといえば、父親が外交官だから少し前まで海外に居た事や海外では飛び級していた事などだ。

 誰もが羨ましがりそうな、なんて素晴らしい経験なのだろう。

 そして周りのクラスメートは物珍しそうな目を向けて、質問を次々にしている

 それに対してもまるで台本があるかの様に、優はスラスラと答えていく。

 ――そう、台本があるかのように。

 これは比喩ではなく、紛れもない事実だ。

 優は「嘘つき」である。

 優は海外に住むどころか、そもそも日本から出た経験がない。

 父親の職業が外交官というのもデタラメ。

 飛び級に関しては海外ではそういう制度があって、それはとても優秀な証であるという程度の知識しか無かった。

 それにも関わらず、母親に言われ長年何となく続けてきた英会話と受験勉強を通じて得た英語力を活かして、所謂帰国子女であると偽り、その勢いのままに飛び級をしていたなんて設定を更に加えてしまった。

 これが優の発言の真実だった。

 優は春休み中ずっとこの設定を考えていた。

 更に、される可能性のある質問と、その質問への答えも考える用意周到さである。

 全ては、会話の中心からグループの中心へ、そして行く行くはクラスの中心になる。

 そんな崇高な計画(高校デビューともいう)のための嘘である。

 やがて、授業の担当教師が教室に入ってくると話していたメンバーはそれぞれ席に戻っていき、初回の授業ということで教師の軽い自己紹介と生徒向けのガイダンスが始まった。

 優は教師の話を適当に聞き流しながら、さきほどの会話の手応えを感じていた。だいぶ上手く話せたはずだ。

 そして、ふと中学時代の事を回想した。

 中学時代の優は、人間関係の中心という訳でもなく、だからといって根暗でボッチな訳でもないという微妙な立場だった。

 話を合わせるだとか空気を読む事は得意だったが、どうにもグループでの存在感がない。

 その事のなにが辛かったかといえば、グループに属していても友人の友人みたいに思われてしまう節があったということだ。

 三人で歩けば、自然と端っこになるか、2人の後ろを一人で歩くことになるかだと大体決まっていた気もする。

 結局自分は誰と友人なのか、何度考えたか分からない。もちろん答えは出なかったのだが。

 だから優は決めた。人を惹き付けられる人になると。

 髪はきちんとセットするようにした。春休み中に何度整髪料で髪がベトベトになった事だろうか......

 それ以外には、声量を大きくすることにしたとかそんな程度だ。少し不安になってくる。

 しかし、優は関わりやすい雰囲気が出ればそれで十分なのだと思い直す。

 最初のつかみが大事なのだ。なんとか話題の中心になりたい。

 また嘘をつくことに心を痛めつつ、背に腹はかえられない。

 やり抜いて見せると、授業終了のチャイムを聞きながら静かに決意するのだった。

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