アイデアの盗用に纏わる不公平性 ~ワン〇ースの読者は読まないでください。ネタバレ(になるかもしれない)内容を含みます
盗用に関する問題提起小説です。
メタ的な要素を入れた方が、こういう問題を訴えるのは効果的かもと思いまして。
「フハハハハハ!」
と、ジョーカー・ベルベットが高らかに笑った。
彼はキーク達の攻撃によって既にボロボロになっており、白いタキシードの紳士然とした大物感は最早消えている。だから、そこにいる誰もがそれを単なる強がりか自暴自棄になっているだけだと考えていた。
リナが言った。
「降参しなさい。大人しく従えば、命までは奪わないわ」
が、ジョーカーは少しも怯む様子を見せなかった。むしろ高圧的に言う。
「この闇の力は、攻撃を引き付けてしまう。諸君らは疑問には思わなかったのかね? 何故、このような能力をこの聡明で計算高い私が自ら選んだのかを!」
「マゾだからでしょう?」と、それにリナ。
「それもある!」と、ジョーカー。
あるのかよ。
「しかし、それだけではない! この闇の力には、受けた攻撃をエネルギーとして蓄え、爆発させる能力があるのだ! 既に膨大なエネルギーが蓄積されている! すなわち、追い詰められているのは私ではなく、諸君らという事だよ!」
その彼の説明にキーク達は「なんだって?」と戦慄する。
単に痛いのが好きで攻撃を受け続けていたとばかり思っていたのに、まさかそんな戦略があっただなんて……
……タントー君が原稿を読み終えたと判断すると、センセーは足を組みながら得意げに言った。
「どうだい? その話の展開は?」
ふふんって感じ。
が、しかし、「こんちくしょうめっ!」と、タントー君はそれに拳で返すのだった。殴り飛ばされるセンセー。
「没ですよ! こんなの没に決まっているじゃないですか!」
センセーはそれに納得がいかない。殴られた頬をおさえながら言う。
「どうしてだい? 計算高いと説明されているキャラが何故か攻撃を受けまくっている。読者には単にマゾだからだと思わせておいて、実は攻撃を受ける事でエネルギーを溜める作戦だったという高度な伏線回収。読者はその心地の良い裏切りに“これはやられた!”と、もう大興奮だ!」
タントー君は返す。
「確かに面白い展開である点は認めましょう」
「では、どうして没なんだい?」
その疑問を受けて、もう一度タントー君は「こんちくしょうめっ!」とセンセーを殴った。
「パクリだからに決まっているでしょーが! パクりだからに! 某海賊漫画の丸パクリじゃないですか! これ!」
「なんだって? 確かあの漫画はまだ(2023年1月現在)闇の力のネタばれまではしていなかったはずだよ! まだなんだからパクリじゃないだろう?」
「ストーリーの先を読んで、それを盗んでいるのだから似たようなもんじゃないですか!」
「でも、まだ出ていないのだから、私が考えたようなものじゃないか!」
それを受け、三度タントー君は「ええい!こんちくしょうめっ!」と拳を振るった。
「この分からず屋!
良いですか? センセー? センセーがミステリー小説の連載をしていると思ってください。コツコツを話を進め、トリックの謎解きまで持って行こうとしている。ところが、その前に他の作者が、そのトリックを予想して短編で先に使ってしまう。
もし、そんな事をやられたら、センセーならどう思いますか?!」
それを聞くと、センセーはわなわなと震え、「なんだって……」と呟くと、「そいつは酷ぇ……。人間の所業じゃねぇぞ!」と続けた。なんだか、すっごい表情で。
「分かってくれましたか」とタントー君。が、それからセンセーは「でも、」と言う。
「他の作品からインスピレーションを受ける事くらいよくあるワケじゃん? もし、私が予想した展開にならなかったら、これは私のアイデアだよ。使っても良いのじゃない?」
「それはそうかもしれませんが、それはちゃんと元作品の展開を見届けた後にしましょうよ」
「でも、あの漫画、くそ長いじゃん? それ待ってたら、私、お爺ちゃんになっちゃうよ」
「お爺ちゃんは言い過ぎじゃないですか?
でも、ま、一理はあるかもしれません。が、仮にそれを認めるにしても、読者に罪はありませんよ。ネタバレは酷くないですか?」
「じゃ、読者にはネタバレになるかもしれないって警告を出しておこう。副題かなんかで。それなら使って良いよね?」
「そんな馬鹿な事、やらんでください」
(やっちゃった)
それから席に座って落ち着くとセンセーは言った。
「しかし、こういう話をしていてよく思うんだけどさ。もし、私が有名作品と似たような作品を書いたら“パクリだ!”って叩かれるワケじゃん?」
「叩かれますね」
「でも、もし仮に私の作品をメジャーな作家がパクったらお咎めなしでしょう?」
「まぁ、ほとんど誰も知りませんからね。仮に知っていても偶然だって思いますよ。メジャーな作家が知っているはずないって」
「でしょう?
これっておかしくない?」
「ま、気持ちは分かりますけどね。仕方ないですよ。メジャーの方が有利になるようにこの世はできているんですよ。太宰治だって、“生まれて、すみません”をパクったけど、お咎めなしだったじゃないですか。
ま、メジャーになったらそれはそれで苦労があるのでしょうけどね」
「でも、今はネット時代だからさ、アイデアをパクろうと思ったら、いくらでも素人のアイデアをパクれるワケじゃん? そして、お咎めはなし。
せめて、マイナーな人のアイデアくらいはもし参考にしたんだったら、それを後書きかなんかで書くってのを一般的な道徳とかマナーとかにできないかなぁ?」
それを聞くと、タントー君は軽く溜息をついた。
「無理ですよ。それに、もしできたとしても、正直に書く人なんて滅多にいないと思いますよ? まずバレないですし、バレても知らぬ存ぜぬで通せば疑われません。何しろ、マイナーですから。AIの自動執筆を使っていたら、他人のアイデアをパクっていた事にそもそも本人が気が付いていないってケースなんてのもありそうですし」
「不公平だなぁ」
「不公平ですよ」
それを聞いてセンセーは項垂れる。しかし突然顔を上げると、
「もしかしたら、あなたのアイデアもパクられているかもしれない!」
なんて言った。
呆れながら、「それは誰に言っているんですか? 誰に」と、タントー君はツッコミを入れるのだった。
ずっと前から似たような疑問はあったのですが、
昨今の自動創作AIの誕生で著作権侵害議論が盛んになってきているので、
ちょうどいいタイミングだと思って書いてみました。
AIが勝手にマイナー作品を盗用していて、それが人気になっちゃったとかなったら、どうするのでしょうね?
まだまだどうなるかは分かりませんが、
著作権や盗用の概念が変わるかもしれません。