忍び寄る恐怖、それは静かに広がり、精神を蝕んでいく
その日は蒸し暑く寝苦しかった。
眠りが浅かったのだろう、夜中にふと目覚めるとトイレに行きたくなった。
熱中症を防ぐため寝る前に水分を多めにとったからだろう。
夏の暗闇は恐い。暗闇には恐怖が潜んでいる。
不用意に電気を点け、その恐怖の権化に出会ってしまったら最後、普段柔和な私は惨忍な殺戮者へと豹変する。
その恐怖もまた、私を恐れているらしい。
私に気づくと素早く物陰へと隠れる。
私の目に触れなければ、私にとっては存在しないのと同じだ。
もしいるのなら隠れてくれと願いながら、私の存在を主張するよう物音を立てつつ電気を点ける。
注意深く辺りを見回し、何もいないことを確認して安堵する。
トイレは寝室を出て、廊下を渡り、台所を通った先にある。まだ油断はできない。
恐る恐る寝室の引き戸を開ける。
廊下には、いない。
次のドアを開け、台所に入る。
ここにも、いない。
台所を出るためのドアはガラスがはめ込まれたものなので、ドアを開ける前に廊下が見える。
このドアの向こうはそのまま玄関に続くので、虫がいることが多い。
注意深くドアにはめ込まれたガラスから廊下を覗き見る。
ガラスの向こうにはトイレのドアが見えている。
そこまでの間には、何もいない。
ドアを開け、その先のトイレにようやくたどり着く。
ドアに手をかけたその時、視界の隅に何か違和感を感じた。
ゆっくりと、玄関の方へ眼を向ける。
壁と床の境目に、黒く小さな丸いフォルムの何かがいる。先端の細い線が何かを探るように動いている。
ゴキブリ!!!!
それは夏の恐怖そのものだった。
相手はまだ私に気づいていない。
息を潜め、台所に戻る。
冷静に、息の根を止めることのできる何かを探した。
殺虫剤はなかった。
ふと流しに目を向けると食器用洗剤があった。
それを手に取り玄関へ向かった。
壁際にいるそれは弱弱しく見えた。
そっと洗剤をかけると、それは腹を上に向けて僅かに足を動かしたがすぐに停止した。
トイレを目前にした膀胱はもう破裂寸前だ。
さっきまで恐怖の対象だったそれも、もう動かない。
片づけるより先に、トイレに行くことにした。
すっきりして恐怖の残骸のところへ戻ると、
そこには洗剤の液だまりのみになっていた。
まだ生きていたのか、洗剤に流されて巾木の隙間に押し流されたのか。
しばらく周囲をウロウロしてみたが、やがて諦めて寝ることにした。
恐怖に支配されながら...
くだらなくてすみません。
それでも誰かに伝えたかったのです。。。