あの夏の思い出
「次の授業ってなんだっけ?」
階段で見るなんてことのない学校の風景。7月の太陽は今日も古いコンクリの校舎を照りつけ、踊り場から見える校庭はからっっと乾き切っていた。
「確か次は美術でしょ。」 私は少し考えてから言った。
「やった〜!消化試合だ〜 さっさと教室戻って、教科書とってきちゃお!」
そういうと彼女はリズミカルに、二段飛ばしで階段を登っていく。
私も階段を上がろうと脚をかける。
あれ?
何かにつかまれた気がした。咄嗟に足元を見る。
そこにあるのは色褪せた青緑の床と、少し汚れた上履きを履いた私の足しかなかった。
「何やってんの〜」
彼女の声は階段のはるか上で微かに聞こえた。
「ちょっと待っって!」
私は彼女に届くようにやや大きな声で言った。
ただ右足を出せばいいだけなのに。それがなぜかできない。
ただいつも通りに階段を登るだけでいいのに。
「…先行くよ…!」
もう彼女は声が鮮明に届かないほど登っていた。
「待って!待って!すぐにいくから!」
もう泣き出しそいうだった。いつもやっていたことができない。彼女はもう見えない。
なんで!なんで!なんで!
顔は暑くなり、視界が不鮮明になっていく。もうパニックだった。
早く!彼女と一緒に!早く!置いてかれちゃう!置いてかれちゃう!…
…
7月の太陽は私をカーテン越しに照らしていた。
キシキシとベットは音を立て、私を現実に連れ戻す。
ああ
そうかもうあれから3年も経つのか。
私は眠い頭で理解した。
幼稚園、小学校、ずっと友達。私の唯一の友達だった。
自分より勉強ができて、人気もあった。
それでも私と一緒にいてくれた、彼女。
きっと元気にやってるだろう。
ずっと頭のいい高校に行ってるに違いない。
一年の夏休み明け。私は学校へ行けなくなった。
寝不足でもなければ、なんでもない。ただ少しフラつくだけ。
学校に行きたくないわけじゃない。勉強が嫌いなわけでもない。
なのになぜか私は学校に行けなくなった。
日に日に勉強がわからなくなり、差がどんどん広がっていった。
どれだけ自分で勉強しても、定期的に届けられる、小テストのプリントが自分に現実を突きつける。
こんな簡単な内容授業さえ受ければ!
いつもそう思い、プリントのインクを滲ませた。
先生も親もいっぱい支援してくれた。その苦労に応えようとした。
でも…
いつしか彼女とも顔を付き合わさなくなり、疎遠となった。
今ではもう見かけもしない。
そんな彼女を今でも夢に見るとか、我ながら気持ち悪い。
それでも今でも思う、あの夏にもう一度戻ってやり直せたら。
なんだこの報われない締まりが悪い話は(驚愕)