ザッカスの街
今回、色々と内容に無理があります。
ので、最初に謝っておきます。すみません。
それでも楽しんで読んで頂ければ、嬉しいです。
ガネーラはファビアと別れ、一度ノルンの小屋に戻る事にした。
──見張りの目を盗んで、屋敷から出てきましたの。そろそろ戻らないと、抜け出して来た事がバレてしまいますわ。
そう言って、ファビアが屋敷に帰ってしまったからだ。
明朝、ノルンの小屋で会う約束をして…。
「トマス。お遣いを頼めるかい?」
黒猫の姿に戻ったトマスが、戸棚の奥からひょこりと顔を出し、ガネーラの足元にぴょんと飛び降りる。
ドラゴンの時と違い、こちらをキュルンと見上げる様は酷く愛くるしい。
「あんた、随分猫らしくなってきたじゃないか。」と言うガネーラの言葉を無視し、手紙を咥え、たっと窓から飛び出して行った。
さて──明日ファビアが来るのを待つとするかい。
トマスを見送ったガネーラは、ノルンの食べ残しと鍋を片付け、家主不在の乱雑になっていた空間を、自分が快適に過ごせる場所へと変貌させる。
すっかり我が物顔で、戸棚から茶葉を取り出し、自分好みにブレンドすると、そのままお茶を片手に、ドカリと椅子に座った。
暇潰しに読むのか、落ちていた本を片手に。
────あのばばぁ。ちっとも探さねぇ。ホントにあのばばあが在り処を知ってるんですかい?
そんなガネーラを遠くから窺う存在がいた。
一人は、門番をしていたゴメスだ。
「馬鹿野郎!ノルンがわざわざ呼びつけたんだぞ!あのばばあは絶対に知っている。いいな!俺様が良いと言うまで、しっかりあのばばあを見張るんだ!」
へーいと気怠そうな返事をする男を残し、ゴメスはのっしのっしと屋敷に戻った。居眠りを始めたガネーラに苛立ちを感じた男が、腹いせに酒盛りを始めるとも知らずに……。
翌朝、約束通りファビアがやって来た。しかし、その顔色は真っ青だ。
「──ガネーラ様!もう時間が無いのです!早く、秘薬を見つけ出さないと、お父様が死んでしまいます!」
泣きながら、ガネーラに必死に懇願する。
「あんたが探してるのは、ホントに秘薬かい──?」
ピタ──と涙を流していたファビアの動きが止まった。
「な、──何故、そんな事を聞きますの?」
「こっちじゃないのかい?」
懐から、領主印の押された手紙を取り出す。
これは実はノルンから託された手紙に隠してあった物で、特殊な茶葉をブレンドした物を数滴垂らせば出てくる──という仕組みになっていた。
まさに、茶好きのガネーラの為に用意された仕組みである。
「──ふ、ふふ‥。ほほほほほ!やっぱり、此処にありましたのね!さぁ、それをすぐに私に渡しなさいっ!!」
「宛先はあんたじゃないみたいだけどねぇ…。」
「お黙り!…痛い目に合いたくなかったら、素直に渡した方があなたの為でしてよ?」
ファビアの言葉に呼応するかの様に、入り口から、やたら豪華な鎧に身を包んだゴメスが、にやにや下卑た笑いを浮かべながら入って来た。
ガネーラとファビアの間に割り込む様に、そのままズカズカやって来る。
「ばばあ!この間は子分が世話になったな!だがな──俺様には敵わねぇ!諦めて、その手紙をさっさと渡せ!」
「おやおや‥‥熊も洒落た格好をするんだねぇ。」
「なっ──!!!」
「お馬鹿!簡単に乗せられてどうするの!──…ガネーラ様。ゴメスが着ているのは、我が家に伝わる魔法反射の鎧…。いくら、あなたが大魔法使いと言えど、ゴメスに勝つのは不可能でしてよ?」
ファビアの言う通り、ゴメスの着ている鎧からは、魔法を反射する気配が窺える。
「──じゃあ、試してみるかい?」ガネーラが厭らしく笑った。
不敵な老婆の態度に、二人はたじろいだ、が、魔法反射の鎧に身を包むゴメスは、気を取り直し、剣を振り上げ、勢いよく切り付ける。
「くたばれ!!ば…──へぶぁっ!!?」
───ドゴォォォォォォォン!!!
ゴメスが吹っ飛ばされた。自慢の鎧が焼け焦げ、へこんでいる。
「おやおや──。随分と脆い鎧だねぇ…。」
杖を掲げた老婆が陽気な顔で、悶絶するゴメスの元へ向かう。
ファビアには、信じられない光景だった。
ガネーラは先程、火球を創った──小指の先程の小さな火球。
それがゴメスの鎧に触れるや否や、前述の様に見事に小屋の外へ吹っ飛ばされたのである。
「──や、やめて。」ファビアが制止を促すが、もう遅い。
ガネーラが今度は巨大な氷塊を創り出す。
「熱かっただろう?これで冷やすといい。」
ガネーラが放り投げた氷塊がゴメスを目指す──かろうじてそれを避けたゴメスだったが、氷塊が弾け、無数の氷弾に分かれた。
氷弾は迷うことなく、一斉にゴメスの顔面目掛けて飛びかかる。
右から──左から──下から──上から…。
最早、フルボッコ状態だ。
「ゴ、ゴメス…──!!お、お止めなさい…!!死んでしまうわ!!」
「あぁ、あんたにはこっちだよ。」
小屋の片隅に置いてあった箒に、ガネーラが魔法をかける──途端に、箒が勝手に動き出し、動揺するファビアのお尻をパーンパーンと叩き始めた。
「キャアッ…!?イタッ、イタタッ!!ちょっと!レディーのお尻になんて事するのよ!イタッ!」
「あっはっは!悪い事する子供は、婆がちゃんと躾けてやらんとね。」
片や氷弾にサンドバッグにされ、最早元の顔がどんなだったかわからないゴロツキと、片や箒にお尻を叩かれ続け、パンパンに腫れ上がって痛むお尻に、両目を真っ赤に泣き腫らす女。
そして、それを穏やかな顔で見守る老婆。
その場に慌ててやって来た、トマスの手紙を受け取った国王の遣いが、唖然として言葉を失ったのは言うまでも無い。