1-2
振り返った男は、ポケットからとっさにナイフを出し…固まった。
「同業…?」
「あなたの指す同業が何なのかわかりませんが、この車に細工する目的は?」
「忍者、忍者だよな!?」
そういって、詰め寄ってきた男に対しナイフの刃を向ける。
「近づかないで。もう一度聞くわ、この車に細工する目的は?」
男は守秘義務なんてないかのようにすらすらと話し始めた。
「俺、風太!この車の持ち主を事故に見せかけて殺すように言われてんだ。あんた、その髪を見る感じ、忍者だろ?俺、初めて生きてる同業に会ったわ!!あんた、名前は?」
あきれてモノも言えない。ただ、ここで騒いで見つかるようなことは避けたかった。
「こっちに来て。目立つわ。ここを離れましょう」
風太と名乗る男の手を掴んで路地裏へと走り出す。
風太はためらいながらも工作用具を握ると着いてきた。
結局、ホットココアを3杯飲んだカフェの2軒隣の大手靴屋に入り、商品を見るふりをして話し始めた。
もちろんナイフは隠しながらも風太に向けている。
「細工は済んだのかしら?」
「あとちょっとだった。あんたが邪魔しなかったらもう終わってたさ」
「ホントね?」
大げさな振りで風太は答えた。
「ホントさ!ね、ね、あんた名前は?」
ため息をついて答える。
「言うワケないでしょ。どこからの依頼?」
新作のスニーカーを見ながら風太は答えた。
「それはお得意さんからだから言えないなあ。あんただって同じようなモンだろ?早く戻んないと奴が移動始めちゃうから俺戻んないと」
私は『殺せ』までとは言われていない。この風太とか言う男は別の依頼者から仕事を引き受けたのだろう。
それだったら、この男から依頼者を聞きだして殺し、監視カメラを確認し続け、GPSで所定の位置で細工を発動させれば私の依頼は達成できるだろう、と思った。
「戻らせないわ。風太、あなたと私どうやら違う依頼のようね」
ポリポリと頬をかきながら風太は答える。
「困ったなあ。あんたは敵ってことか。まあ、外に出ようか。穏便に話し合いをしようじゃないか」
そう言った風太は店のドアへと足を向けた。
店の外に出ると、夏の午後の日差しが目に痛い。
風太から目とナイフを離さず路地裏へと誘う。
「男と女が路地裏で二人~なーんて、あーやしー」
「グダグダ言ってないで来なさい」
多少蹴りを入れてしまったが仕方ないだろう。
日光の入らないどこか生ごみ臭い路地裏の行き止まりに着いて、尋ねる。
「風太、あなたの依頼者の名前は?」
「言うワケないだろ、お得意さんって言っただろうに」
さっきまでポロポロ情報をこぼしていたのに気付いたのかどことなく風太の口調は固い。
「でも風太、そんなに仕事受けたこと無さそうだわ。こちらには自白剤あるけど、どうする?無理矢理吐かされたい?」
「うえー、あれ、訓練中に飲まされたことあるけど、マッズいんだよなあ。秘密基地の場所とか好きなコの話とかペラペラ話し始めちゃうし。話すよ。話すから。その手に持ってるシリンジしまってよ」
青い顔をして答えている。その表情はわざとらしくなく、わざと顔色を変えて相手を欺けるほどそこまで練度の高い忍者ではなさそうだ。
風太の挙動を見ながらシリンジをしまう。
「そう、わかってもらえてよかった。じゃあ話してもらおうかしら」