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ボーイミーツガールが書きたくて
時は令和―――だが私は、忍者だ。
私こと、戸田百合は県立の女子校に通う高校1年生だ。
白いブラウスに赤いリボン。4個のボタンが付いた濃紺のブレザー、同じ濃紺のセーター。ちょっと校則を無視して膝上にしたチェックのスカート、白い靴下に黒いローファー。夏は白い半そでブラウスにチェックのスカートだ。これだけみるとどこにでもいる女子高生だ。でも普通の女子高生とは言い難いかもしれない。真っ黒の髪を腰を過ぎるまで伸ばし、通学用のカバンの中にはゴテゴテとした装飾のついた短剣を忍ばせているんだもの。
私は忍者。本当よ?14代目の当主。いつの時代から続いてるかなんて忘れちゃった。
忍者が忍者らしい恰好なんてしてたら目立っちゃうじゃない。でも髪と短剣だけは特別。髪の毛には力が宿るって言われてる。だから大切に毎日ケアして守ってる。そのためにたっかいドライヤーとトリートメント使ってるんだから。ゴテゴテの趣味の悪い短剣は当主が肌身離さず持つものなんだって。――まあ移動授業とか体育の授業があったら無理だけど。そんな時には生徒一人ひとりに与えられてる鍵付きロッカーにこっそりしまってるわ。
忍者はきっと全国にいるんだろうけど、先の大戦でバラバラになって連絡なんてとってないし、どのくらい生き残ってるかなんて知らないわ。
私が通ってる高校…進学校らしく、真面目に授業は受けるし、予習・復習は欠かさない。宿題だって忘れない。週1回の茶道部の活動にもサボらずちゃんと出てるし、正直、忍術の練習時間作るの難しいんだから。
そんな時でも依頼は入ってくる。週末、都内で政治家同士の大事な会合があるんだって。それを邪魔しろって。政治が絡む依頼は金払いがいい。新幹線代もしっかり出るし、邪魔だけなら顔出しせずとも何とでもなる。
両親は小さいころに事故で死んだ。きっと消されたんだと思う。一緒に暮らすおばあちゃんと妹のためにも稼がなくっちゃ。
…というワケで週末。戦闘服であるウニクロの良く伸びる黒いスキニーとだぼっとしたTシャツ、長すぎる髪は落ちて証拠にならないようにくるくるっとまとめて、簡単にゴムで結ぶ。動きやすいように黒いランニングシューズを履いて、トートバッグに財布と新幹線のチケットとスマホ、万一見つかったときの逃走用着替えと軍手とか工作用具もろもろを詰めて家を出る。
今回は対象が使う車に工作を仕掛ける。会合は日曜日の夜。対象が戻ってきたのを確認して日曜日の日中車を動かす用事がないのを確認。土曜の夜中にササっと車に細工をして後は見張りだけだ。
見張りって言ってもここは現代らしく(?)監視カメラとGPSを仕掛けて、夜はホテルで日中は近すぎず遠すぎずなカフェで優雅にお茶しながら監視カメラの映像をスマホで見るだけだ。動き始めたらGPSで位置を確認して予定の場所に来たら細工を作動させ、殺さない程度に車をわざと事故らせる。警察も救急車も来るだろうし政治家は動けない。つまり会合には行けないというワケ。
本日3杯目のホットココアを飲みながら(夏のカフェって寒すぎない?)監視カメラの映像を見ていたとき―――対象の車に近づく人影が見えた。体格的に男のようだが資料に載っていた秘書でもないし、政治家本人でもない。
何より、髪が長かった。腰まであるポニーテールだ。
(忍者!?)内心焦りながら飲みかけだったココアを流し込み、マグカップを戻し口に置く。その間もスマホの映像からは目を離さない。
どうやら昨日の夜中に私が仕掛けた車が目的のようだ。
(同業が関わってくるなんて…初めてだわ)対象の車へと路地裏を走って向かう。
対象の車に着いたとき―――ロングポニーテールの男は明らかに車に細工をしていた。気配を殺してゆっくりとお腹に巻いたコルセットに仕込んだナイフを取り出す。
ナイフを隠しながら近づいて―――
「あなた、何をしているの?」
静かな声で問いかけた。
6/1 19:00に次話予約してあります。