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ある種の白昼夢、アルコール添え

作者: 鬼火

 重苦しいカーテンが窓外の月光を頑なに拒んでいるので、室内は贅沢な闇が幽閉され、音もないようだった。


 僕は安物のメルローの赤ワインの残りを飲んだ。ボトルが暴れたせいで口を外し、首から下にいくらかぶちまけた。灰色のパーカーが浅黒く染まった様子に、豊満な果実とスパイスを思わせるアルコール臭がそれを尋常のことであると付会させるのだった。


 女の香りがなにかの拍子に鼻孔を摶った。冷たい花のような香りであった。一片の誤謬をも許さぬ君の香りだった。


 こんな暗闇のなかではなにもかもが一種の白昼夢の世界であり、したがって夢想が翻って現実になり、現実は空想となるのである。

 ベッドは暖かく柔らかで、空気はやや冷たい。身を取り巻くものの認識はイデアニズムに従えばいかようにも変貌を遂げた。身体が実態なのか、魂と身体は全く分離しているものであるのか、そんな認識論についての考察は酩酊のシナプスにとって全くの無意味である。


 生きることが正しいのであろうか。しかしながら生存とはなにか。身体というタンパク質と電気信号の働きなどの生命維持が生きるということなのか。それは果たして魂の活動なのであろうか。身体が生存していたとして、魂が死んでしまっているのであれば、唯物論者としての機械的人間の誕生である。


 それが人間の正しい生き方なのであろうか。魂に忠実であるならば、魂を生かすことがたとい身体の破滅を招来したとして、なんの瑕疵があるだろうか。



 BZ系の睡眠薬がGABA-Aレセプターに作用した特有の倦怠感、アルコールの麻痺感に身を委ね、瞼が自然な甘みで閉じられる。


 絹のような肌の裸に死の朧げな清冽を灯しつつある君の身体を抱き寄せて、僕は、意識の門扉へそっと手を伸ばし、鍵をかけた。

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