そもそも何のゲームか分かりません。
【悪役令嬢】主に、恋愛シミュレーションゲーム(別名:乙女ゲーム)に登場するヒロインを邪魔する悪い女性。攻略対象者となる男性の婚約者、或いは姉妹という設定が多い。
スマホの辞書機能にはない言葉でしたので、咲良ちゃんに教えて貰いました。なるほど、意味は分かりましたが、肝心のゲーム内容が分かりません。咲良ちゃんも知らないそうです。
(私がいたのは、ここと同じ世界なんだから、実在の学校や人物をモデルにしたゲームなんて作ったら、肖像権だの個人情報だの色々アウトでしょ!)
仰る通りです。
「だとすると、あの子は違う世界から来たということですか?」
(もしくは、妄想癖があるとか)
そもそも私に婚約者はいませんし、妹と考えれば兄様たちが攻略対象者となりますが、啓和兄様は高等部、有哉兄様は中等部で、私は初等部ですから、万一、兄様たちが攻略されても何もできませんよね。態々、高等部や中等部の校舎まで出向いて邪魔をするのも難しいですし。
特に有哉兄様の場合、最近、何かと構ってくるので、誰かが攻略してくれるなら喜んで応援したいのですが、それは悪役令嬢がすることではない気がします。
どちらにしても関わり合いたくないのでスルーした方が良いですね。「ゲームの内容を教えたら内容が変わってしまう」と言っていたので、聞いても教えてくれない可能性が強いですし、私に何かしてくるのであれば、その時に考えましょう。
一応、警戒はしていましたが、その後、彼女からの接触はなく、私は初等部の4学年へと進学しました。友達になった戸田佳苗さんと南良朋子さん、それから南良さんの幼馴染である久野夕夏さんと同じクラスになりました。初等部では1年生の時と4年生の時しかクラス替えをしないので、卒業まで同じメンバーです。良かった!
今日は春先で天気もぽかぽか温かいので、中庭にあるテラスでお弁当を食べています。テラスにはカフェも併設しているので朋ちゃんと夕夏ちゃんはサンドイッチとタピオカミルクティを頼みました。私は、お弁当とほうじ茶ラテ、佳苗ちゃんは花見弁当と緑茶を持参しています。
佳苗ちゃんのお家は、代々続く老舗の料亭なので、季節のお弁当と緑茶、といっても京都の有名お茶屋さんの美味しいお茶はセットなのです。時々、母様のお弁当と交換してます。忙しい母様には、お弁当を作らなくて大丈夫と申し出たのですが、母様自身、初めてのお弁当作りにハマったようで、せめて初等部の間は作らせて欲しいとお願いされました。
最近では、佳苗ちゃんが母様をスカウトしたい!と言うほど玄人はだしのお弁当になっています。母様がそのうち弁当か総菜のお店を始めそうでちょっと心配です。
「くるみ割り人形、ですか?」
「そうよ。学園初等部の4年生の演目。楽しみよねっ!」
「ふふ、根回しはバッチリよ?」
「久野っち、さすがぁ!」
根回しとは?尋ねても、秘密だと教えてくれない友達にそこはかとない疎外感を感じますが、そもそも演劇があることすら知りませんでした。春華学園では子供の情操教育もかねて、初等部4年生から6年生までの3年間、毎年、学年ごとに1つの演劇を行うそうです。4年生の出し物は、くるみ割り人形。バレエの演目として有名ですが、流石にバレエは専門外ですので演劇としての出し物です。
春から配役を決めて、秋の文化祭で披露するのだとか。私としては、そうですか、という感想しかないけれど、咲良ちゃんは久々の舞台にわくわくしているようです。私まで、ちょっとドキドキしてきました。ふふ、不思議ですね。
それから、直ぐに学年全員が講堂に集められ、配役が決められました。初等部は基本的に良家の子女を少数で受け入れているので、1学年3クラス、1クラス20人前後なので、大体60人ほどの生徒が降ります。
くるみ割り人形の主な配役は、主人公のクララ、くるみ割り王子、クララの兄であるフリッツ、ドロッセルマイヤー、くるみ割り人形、ネズミの王様くらいでしょうか。後は、ネズミたち、人形の兵士たち、雪の国の妖精たち、お菓子の国の金平糖の精などがあります。
メインの役以外は、個人の希望と人数で調整できます。セリフも多くなくて、ダンスがメインで誤魔化せるため、子供の演目としては最適なのだとか。
「主要な配役はすべて投票で決めるぞ。それぞれの配役が書かれた用紙に名前を書いて、配役が書かれた箱に入れること。いいね?」
竹田先生が、生徒たちに紙の束を配りながら説明しています。そうは言われましても、学年の全員を覚えている訳もなく、今のクラスメイトと去年のクラスメイトたちを脳裏に浮かべ、名前を書いていきました。大体、みんなそんな感じですよね、多分。
全員が投票を終え、結果が出るまでの1時間、講堂に並べられた衣装を見たり、配られた台本を読んでみたり、思い思いに過ごしました。
「結果が出たぞ。並ばなくて良いから全員、前へ集まって座れ」
言われるまま、戸田さんたちと舞台前の左側に空いていた空間に腰をおろしました。みんな、期待に目を輝かせて発表を待っているようです。私も、いえ、咲良ちゃんもドキドキしているようです。
「発表するぞー。まず、ドロッセルマイヤー役はA組九鬼隆宏、フリッツ役はC組間弓健太……」
みんな自分のクラスの生徒が選ばれて、「おおー」とか「やったー」とかあちこちで歓声が起こっています。私たちも九鬼君の名前が呼ばれて、誇らしくなりました。あ、九鬼君とも引き続き同じクラスになっていて、しかも、生徒会書記に指名されたくらい優秀なのです。
今まであんまり気にしたことはありませんでしたが、九鬼君は日本風のハンサム君と言うか、あっさり顔で優しいし、勉強も出来るので、最近、密かに女生徒の人気が高い注目株なのです。ドロッセルマイヤーは主人公の名付け親だったり、親戚の伯父さんだったりで、年配の男性ですが、くるみ割り人形を作った人形師とも魔法使いともいわれる設定で、兎に角、重要な人物です。
「役のある人は、役のイメージを損なわなければ、自分の好きに衣装や髪形を変えても良いんだって。衣装も歴代の人たちが使ったものを寄付されていて、ここにある以外にも沢山あるのよ。サイズ変更やリメイクも自由だって」
初めて耳にした事実に、兄様たちの衣装もあるのか興味を惹かれました。今度、兄様に聞いてみようと心に留めます。そうこうするうちに先生の発表は最後になりました。
「クララ役はA組髙良薫子、以上だ。今、名前を呼ばれなかった者は、希望する役があれば1週間以内に申し出ろ。早い者順で決めるから文句はなしだぞ。希望する役がなければ、自動的に男子は兵士役とネズミ役、女子は雪と金平糖役に振り分ける。良いな」
言い終えた頃、ちょうど終業のチャイムが鳴って、お昼の時間になったので講堂でそのまま解散となりましたが、私の周辺はきゃあきゃあ騒ぐ女子でいっぱいです。
「やったわ!大成功っ!」
「もう、根回しした甲斐があったわね!」
「薫子のクララ、最高ッ!」
ええと、つまりみんなで私をクララに投票するよう根回ししていたということですか?他のクラスにも?
「……私、お芝居なんてやったことないですけれど……」
あまりの予想外な出来事に呆然としてしまいましたが、周りの女子たちは大成功と大喜びです。
「大丈夫!クララは立っているだけでいいの!」
「可愛くてちっちゃい薫子が、クララの衣装を着たら!」
「きゃあー写真撮らなきゃ!」
みんな気軽に大丈夫、大丈夫といって先に立って講堂を出ていきました。私も後から追いかけようとした時、いつかの女の子がついっと傍に近寄ってきて、にやりと笑いました。
「やっぱり悪役令嬢って凄いね。取り巻きに票集めさせるなんて考えもつかなかった」
違うと反論しようとした時には、人混みに紛れて姿を消していました。
ええ~、これって悪役令嬢の行動ですか?私がクララ役で、誰か困っている人いますか?今のところ、私しか困っていないような気がしますけど?