3つの国からの脅威
モージル妖精女王からの情報に驚いたけれど、予測の範囲内だった。
それは、今度開かれる後継者会議に合わせて、大規模な攻撃の準備を魔物達が進めている事。
今回の会議場になる城は、イズン姉ちゃんが魔法師として勤めている。
そして、姉ちゃんの彼氏でもある、その国のグレンディル第一王子がホスト役として務める。
ここは、魔王に奪われた3つの国に最も近い国の城。
その為、このような事になると前から予測がついていたので、その対策をしてきた。
問題は、3つの国を支配している魔王の幹部であるゴルゴーン三姉妹だ!
姉妹は神の系統を受け継いでいるので、彼女達が弱い筈はない。
その中でも、末っ子であるメドゥーサは強敵で、3つの国が負けた最大の原因。
メドゥーサを見ると石に変えられ、3つの国に住んでいた大多数の人達が石に変えられている。
更に、応援に駆けつけた周りの各国の兵士達も石にされていた。
でも、俺が考えた秘策で、もう石になる事は無いはずだ。
潜望鏡の原理で、鏡を二枚使うメガネはメドゥーサの石化魔法を止められる。
そのメガネを各国が大量生産して、各兵士に行き渡らせるようになったと聞いている。
石化が止められたとしても、依然として強敵である事には変わりがないが……。
モージル妖精王女からもたされた情報を、王族達、元賢者の長リトゥル、そして魔王の娘ニーラに伝える。
ニーラはこの情報を聞くと、暗い顔になって俺に懇願するように言う。
「おば様達は本来、とても優しい人達なんです。
私の魔法能力で、お父様の支配から解放してあげたいのです」
ゴルゴーン姉妹が優しいだって?
とても、信じられないんですけれど……?
あ、でも……。
ヴァール姉ちゃんが歌ったバラードの中で、長女のステノーと次女のユウリュアレーの箇所を思い出す。
末っ子のメドゥーサが魔物に変えられた時に、神の所に行って妹を元に戻して欲しいと懇願しに行ったんだったよな。
それって、妹思いの優しい行為。
それにメドゥーサは、海神ポセイドンの神殿の1つで交わったから、妻のアーテーに魔物に変えられた。
バラードで言っている事が正確ならば、ニーラの言うように、根っからの悪人ではない、はず……?
リヴァイアタンの様に、魔王に操られているだけなのかもしれない……。
俺は4本の乳歯を見せ、安心させるようにニーラに言う。
「にーらの、いうこと、わかる。
ここにいる、みんな、きょうりょくする。
まもの、しんこうを、とめる。
そして、まものたちを、もとにもどす」
ニーラはそれを聞くと笑顔になっていき、俺の顔を見ながら言う。
「ありがとうございます、ハゲワシ様」
そう言ったニーラは俺に抱きついて来て、その勢いで俺は椅子から落ちそうになった。
落ちる寸前に重力魔法を発動して、元の位置にもどる。
元の位置に戻っても、ニーラは俺に抱きついたままだった。
ふと、鋭い視線を感じて、その視線の方を見るとウール王女だ!
鋭い目つきでニーラを睨んでいた。
けれど、俺に見られているのが分かると、鋭い目つきが消えた……。
これって、もしかして……。
いやいや、そんな事ない……、よな……。
◇
命力絆を使って、他の姉ちゃん達にもこの情報を伝える。
姉ちゃん達の彼氏、あるいはフィアンセは各国の第一王子達。
姉ちゃん達に伝える事によって、世界各国にこの情報が素早くもたらされる。
姉ちゃん達への連絡が終わると、3つの国に最も近い国に住んでいる、魔法師のイズン姉ちゃんが気になる事を言う。
『ここ最近、城の上空に何かの気配を感じるの。
けれど、目では見えないのよね。
敵側の偵察だとは思うんだけれど、正体が分からないのよ。
正体不明のこの敵を何とかしないと、大々的な戦闘になったら、こちらの戦力の位置情報が敵側に漏れてしまうと思うのよね。
トルムルは私達の体に、心を移動できると聞いている。
私は飛べないので、上空にいる正体不明の敵が何なのかを飛んで行って、正体を暴いてくれないかしら?
トルムルが私の体に入って、この正体不明の魔物を何とかして欲しいのよ。
今も上空で気配がするので、トルムルさえよかったら私の体に心を移動して』
え……?
イズン姉ちゃんの体に、心を移動させるの……?
ウール王女の体に心が移動した事はあるけれど、大人の女性に移動した事が今までにない……。
直感で、イヤ〜〜な気がするのは、俺の気のせいなのか……?
でも正体不明の敵を、なんとかしないといけないのは理解できる。
個人的な感情よりも、今は大局に立った決断をしないとな。
『わかったー。
いずん、ねえちゃんに、いま、いどうする』
『分かったわ、トルムル。
待っているわよ』
イズン姉ちゃんとの会話を聞いていたエイル姉ちゃん。
姉ちゃんの柔らかな胸に、俺は重力魔法で移動する。
「任せて、トルムル。
体はしっかりと守るから、安心して」
エイル姉ちゃんに、俺の体を任せておけば大丈夫だ。
俺は、イズン姉ちゃんの体に心を移動させる……。
◇
……?
目の前に、イズン姉ちゃんが見える……。
確か、イズン姉ちゃんの体に心が移動したと思ったのに……、何で……?
不思議に思って顔を右に傾けると、イズン姉ちゃんも同じ様に傾けている……?
下を見ると化粧品が、所狭しと並べられている。
あ、そういうことか。
さっき見ていたのは、鏡の中のイズン姉ちゃんだったんだ。
それにしても、3人が同時に見れるような大きな鏡。
化粧が趣味の、イズン姉ちゃんらしい。
でも、鏡自体高価なこの世界で、これだけ大きなの鏡を持っているなんて驚き。
『トルムル、来たわね。
こんなにすぐに来るとは思わなかったから、まだ戦闘服に着替えてないわよ。
右側の扉の中に戦闘服があるから着替えて、トルムル』
え〜〜〜〜〜〜〜〜!!
き、着替えって、もしかしたら……。
着ている服を……、今……、脱ぐんだよね……。
体が動かない……。
『トルムルってば、どうして動かないの?
早くしないと、逃げられちゃうわよ』
そ、そんなこと言われても……。
でも、イズン姉ちゃんの言う通り、すぐに行動しないと逃げられるかもしれない。
俺は死ぬ思いで立ち上がると、言われた扉を開ける。
中には多くの服が所狭しとあり、戦闘服がどれだか分からない。
『左側の、下着が見える上にあるから』
イズン姉ちゃんの言う通り左を見ると、カラフルな下着が目に入ってくる。
目がチカチカして……、次の動作を……、ど忘れする……、俺……。
『トルムルってば、私の下着に興味があるの?
あ……、でも……、男の子だから仕方ないよね。
後でゆっくりと見ればいいわよ。
今はとにかく、戦闘服に着替えてトルムル』
……。
お姉ちゃん、何か勘違いしている……。
反論しようとしたけれど、急がないと間に合わないかもしれない。
俺は下着の上の方にあった戦闘服を掴んだ。
こ、今度は、服を脱ぐんだよね……?
『トルムル……?
手が……、震えているわよ。
もう、それでも男の子なの。
覚悟を決めて、早く着替える!』
イズン姉ちゃんの強い口調に、俺は手を動かし始める。
その後の事は……、無我夢中で……、一体何をしたのか分からなかった……。
『やればできるじゃない、トルムル。
左の窓から出ればいいわよ。
その窓は森に続いている。
見張りからは死角で、怪しまれないからね』
この戦闘服、胸が……、か、かなり苦しいんですけれど……?
苦しいのを少しでも楽にしようと、俺は防具を動かす。
『最近、また胸が育って困っているのよ。
新しい戦闘服を頼んでいるんだけれど、防具屋からの納品が遅れているの。
今日の所は我慢して、トルムル。
ハゲワシに変身して、あの気配を追っかけて!』
胸を締め付ける辛さを……、俺は初めて知る……。
大人の女性って、大変だな〜〜と思いながら、俺はハゲワシに変身をする。
重力魔法で窓を開けて、窓に向かって飛んだ。
窓を出ると、低空飛行で見張りに見つからないように森の中を進む。
上空からの気配はまだしている。
俺は気配を追って、空高く舞い上がっていった。




